それが至福……?な、阿呆な。
セバスチアン。んな、阿房な。
Sébastien、何故ぼくの時計は止まってしまったのだろう。
デジタルClockはその画面に、もう何も撃つ、鎖、変、然。
大事なデジタル時計がああああああああああああぁぁぁっっ。
ぼくのぼくのカシオ、CASIO、アナグラム式 A Cos I、または、CIAOS。血青巣。
OISCA、ISOAC、SIOCA、OISAC、CAOSI、OASIC、OCASI、SICAO、CAOIS。
追い守香、椅子緒悪、汐家、負い咲く、霞嗚士、お足苦、お菓子、詩か悪、顔慰す。
守香(すか)は、追われていた。椅子を背に担いで緒で縛り、悪を行ないし者達から。
家々は汐涸れて、咲く花弁の真ん中に、負う物隠しに来た異人の霞嗚士(かおし)。
霞嗚士は異国からの逃亡の末、足を酷く苦しめていた。
おい、俺の足ぃ、こらぁ、立たんかぁ。われぇ。何動こうとしてないねんの。
何様なんだ御前はっ。ぱかいっちゃ、いっかーん。いっかーん。いっ、かっ、んっ。
霞嗚士は我が二本の足と、闘っていた。御前が立つのん嫌とかゆうなら、わしにも考えがありまっさー。こなしてやるわいっ、えいっ。霞嗚士が足を剣でぶった斬ろうとしたその時であった。
ああれえぇぇやあああぁぁっっっ。と若い女子(おなご)風の高い叫び声が聞え、何かが顔面向って、飛んできた。
霞嗚士はそれを顔面にて享けとめた。ぱすっ。霞嗚士はその端っこを、咥えて、こらなんど。と目を寄り目にして歌舞伎の見得を切り、そのまま約5秒間見得を切ったあとに口で享けとめたものを手に持って確かめた。
それはなんと、御菓子というもんであった。
はぁあ…、これが噂の…御菓子っちゅうもんか!霞嗚士は生れて初めて御菓子なるものを見たことに感動するあまり涙が、出るかなと想ったが、驚いたことに、出なかった。
霞嗚士はこの御菓子を投げ付けた人間のほうへと目を見遣った。
誰じゃい。おのれ。霞嗚士はそう言ってぐっと目を見開き、馬鹿にされないように歯を食いしばって見た。
と、そこには、守香(すか)が奇妙な奇人を見るような目で霞嗚士を目を凝らすよう難しそうな顔をして突っ立っていた。
何か、可笑しな人やなぁ。大体、変な顔してるし、こんな変な顔、見たことないなぁ。
守香は異人を見るのは生れて初めてであったのでまるで異星人か何かを見るようにいぶかしんで口を開いたまま、気付けば眉間に力が入って目の奥がしかしかとした。
じゃけん、おのれは、誰なんじゃねん。
そう霞嗚士は守香に向って邪険に扱うように言った。
守香は蚊の鳴くような声で、「お足が……。」と言った。
「じゃけん、お足が、なんだいじゃの。」霞嗚士は自分の足を見ながら言った。
守香はずんずん近づいてちょうどニメートル程先に霞嗚士がいるところまで遣って来て言った。
「はれ、御足が、御無事なようだ」
霞嗚士は守香に向って、照れた顔して言った。
「御主、俺の足ィ、心配してくれておったのかですっかぁ。そらァ、なんやァ、あれ、悪いことゆうてもうた気がすんのォ。スーマナーダ。スーマ・ナーダ」
すると守香は、突如、「ああれ、今言ったの、呪文でゃ。あんだ悪の、詩を取り替えようって想っとるそうだぬん」と言って悪霊を調伏する為の十字を大きく切って霞嗚士を鋭くぎざぎざする目で睨めながら深く息を吐いた。
霞嗚士は中空の闇を眺め、「いやほんと、助かったしりょー。ダムド・エグリ・ナイギス。ペッスンケ。ラリタニィ」と清らかな星屑のように瞬く目で守香に向って言った。
守香は、最後の呪文を唱えた。
「CAOSI・CAOIS(顔死・顔慰す)」
霞嗚士は、この世に無いような微笑を讃え、「何故、名を、知ってる?」と言いながら、粒子の星間塵となって、青い血と巣の宇宙中に散り散りに成果てた。