犬と母を乗せて、色々なところへ行く。
最近、その為に、免許を取った。
もう二度と、惨劇に遭わない為に。
もう二度と、電車には乗りたくないから。
わたしにとって一番の惨劇は、あの脱線事故のときに、悲惨な死体たちを目にしたことではない。
わたしにとっての一番の惨劇は、わたしがあの日、だれひとり、そこに横たわる無残な死を目にすることなくその場を後にしなければならなかったことだ。
わたしは何も見ることができなかった。
それはどんなものであったのか。
どれほど酷いものであったのか。
それを想像する以外、わたしに手立てはなかった。
わたしは今、生きている。
108名の死者を出した事故の後も。
わたしはのうのうと生きている。
周りにはだれもいない。
ただ風が吹いている。
今もなお、わたしは生きている。
それを知ってほしい。
あの現場から遠く離れた星の果てで。
今もなお、わたしは光を求めている。
いつまで続くのかわからない、この闇の奥で。