思った通りでした。私は白石一彌監督が
苦手だ。
やりたいことはわかるんですよ。戦争というのは悲惨なもので、綺麗な、「正しい」戦争などはない。
新政府軍であろうと奥羽越列藩同盟であろうと、大義名分はともかく、どちらの側もまずは「勝つ」ことを目的としているのだから、そのためならば
酷い事も理不尽なことも
卑怯なこと悪辣なこと、それらすべて
「勝つ」ということのためならば、正当化される。
それが戦というもの。
だから、戦いにカタルシスはない。ひたすら悲惨で残酷な戦いが描かれ続ける。
それはいいんです。そういう意図をもって演出しているのだろうから。まあ、
それはいい。
でもねえ、それはそれとして、映画全体が、どうにも盛り上がりに欠ける。
展開が平板で、一言で言えば
面白くない。
そう、私としては単純に
「面白くない」の一言で終わってしまう。
申し訳ないけど、他に言いようのない映画でした。
砦を守る「決死隊」の面々の、一人一人のキャラが全然立っていない。面白味がない。
山田孝之にしてもただの卑怯者で、まるで感情移入できない。なんであんなキャラにしたのか、さっぱり理解できない。
阿部サダヲが演じた新発田藩家老は、最後まで「本音」が見えずイライラする。藩を戦禍に巻き込まないため、若き藩主を守るため、相当非道なことをやりまくるわけだけど、それにしても本当はどのような想いだったのかということが、最後まで見えないまま。
まあ、最後に娘さんが自害している姿を見て、「仕方がなかったのだ、許してくれ」と泣き崩れるところで、ようやく感情の迸りが見れるのだけれど、そこに致るまでの感情がまるで見えない。やっぱりイライラする。
なんであんな演出にしたのだろう。私にはやはり理解できない。
白石監督と言えば「残酷」描写が有名らしいけど、私には「見せすぎ」のように感じましたね。
斬り合いで指が飛ぶわ、爆弾が爆発して肉片が飛び散るわ、やたらと生首がごろごろ出てくるわ、確かに残酷っちゃ残酷なんですが
見せすぎると、かえって残酷には見えなくなるものだと思う。
こういうのは、見せるところと見せないところ、押しと引きのバランスが大事なんです。このバランスがより残酷さを増すことに繋がり、悲惨さを増すことに繋がると
私は思う。
まあ、私の好みと言ってしまえばそれまでですが、何事も見せすぎやり過ぎはよくない。かえって面白くなくなる。
つまらなくなる。
観客には、実際に見せるより想像させた方が面白味は増すものです。想像させる演出力って、とても大事なんじゃないかな。
少なくとも私は、そう思う。
一番納得がいかなかったのは「官軍」という言葉の使い方です。
薩長が自らを「官軍」と称するのは納得できる。それはそうだろうと思う。自分たちは朝廷を奉ずる「天皇の軍隊」なのだから、誇りをもって自らを「官軍」と称するだろう。
新発田藩の者らが、薩長を「官軍」と呼ぶのもまあ理解できる。新発田藩は列藩同盟側のフリをしながら、実は薩長の側につくつもりなのだから。
薩長の側につくことで、新発田藩もまた「天皇の軍隊」となることができる。これぞ武士の誉れ。だから、薩長を「官軍」と称しているのはまだわかる。
しかし、長岡藩の者らまで、薩長を「官軍」と呼んでいるのは、どうにも合点がいかない。
長岡藩は完全に列藩同盟側です。そんな彼らが敵である薩長を「官軍」と呼ぶということは
自らを「賊軍」だと称するのと同じということになってしまいます。
列藩同盟側が自らを「賊軍」と称するわけがなく、ということはつまり、薩長を「官軍」と呼ぶわけがないんです。
そうでしょ?
呼ぶとすれば「薩長の奴バラ!」とか、せめて「新政府軍」ぐらいにしておいて欲しかったですね。
エンタテインメント映画なんだから、わかりやすくという意見もあるでしょう。私だって何もかも史実通りにするべきだとは思わない。エンタテインメントなんだから、多少の誇張や架空の話は合って当然。基本は
「面白ければ」
それでいい、とは思う。
でもエンタテインメントだからこそ、細かいところのリアリティって、大事だと私は思うんです。そういうところを大事にしない時代劇って
「面白くない」のです。
こうした、リアリティを大切にしない姿勢こそ、時代劇衰退の原因の一つだと、私は思っています。
その点、『侍タイムスリッパー』は、そうした細かいところのリアリティをとても大事にしており、それがあの映画を面白くしている重要な要因の一つだと思う。
自主映画であれだけのことを出来ているのに、大メジャー映画がこれか……。
なんですかね、時代劇に対する「愛」の違い、ですかね。
『碁盤斬り』は悪くなかったんだけどなあ…。
なんとも残念。
唯一、仲野太賀くんは頑張っていたと思う。あの殺陣は相当練習したのでしょうね。一生懸命練習した跡が伺える殺陣でした。
その頑張りは、賞賛したいと思います。
ただ、映画としては一言
「つまらない」
以上です。