日米貿易交渉が安倍首相とトランプ大統領の首脳合意に至り、九月にも正式に署名する見通しだという(朝日新聞2019-8-26)。日本側は、在日米軍の駐留経費負担の大幅増など安保とからめた要求を回避し、米国産農産物の関税引き下げでもTPPの範囲内に収まったことで安堵感が漂う。だが駐留経費負担増もTPP以上の関税引き下げもいずれも法外な要求であり、回避は当然であって成果でもなんでもない。
では日本側は何を得たか。日本が農産物で「TPP水準」まで関税を引き下げるのはアメリカ側が乗用車などで関税を削減することと引き換えのはずだったという。それが米側の工業製品の関税引き下げが議会承認がいらない程度の小幅なものだとすると、つり合いが取れないことになる。
法外な要求をふっかけておいてそれを回避するだけで米側の譲歩を得たかのように錯覚させるのはトランプ大統領の常套手段だ。日本の外交のプロがそのような陥穽にはまるはずはないとは思っているが、アメリカにすり寄り一方の安倍首相の姿勢を見ていると不安になる。日本が何を譲って何を得たのか。署名前にきちんと検証してほしい。
それにしても、トランプ大統領は「中国が約束を守らないせいで、我々の国にはトウモロコシが余っている。それを日本がすべて買ってくれることになった」と誇った。安倍首相も同席した共同記者会見の場だ。安倍首相は自分の発言後にトランプ氏から「トウモロコシについても発言を」と催促されて「買うのは民間」と予防線を張ったが、トランプ氏は「日本の民間は政府の言うことをよく聞く」と上機嫌だったという(朝日新聞2019-8-27)。
トランプ大統領のいつものほら話なのかもしれないが、トウモロコシについていったいどういう合意をしたのか。少なくとも日本が国として買うことは約束していないだろうが、民間が買うことを強制することはできないはず。これについても署名前に内容確認は必須だろう。
追記:今回の合意でアメリカは乗用車への関税削減は見送った(TPP離脱前には受け入れていたのに)が、一方で日本は牛肉や豚肉の関税を日本側がTPP並みに下げることを認めた。その最低限の前提は、アメリカが輸入車への制裁関税の発動をしないことが最低限の前提だったにもかかわらず(もともとトランプ大統領の脅しのようなもので、「制裁関税なし」が成果であると誤認してはならない)、トランプ大統領は記者会見で、発動は「現時点ではない」が「私がやりたいと思えば、後になってやるかもしれない」と述べたという(朝日新聞2019-8-28)。茂木敏充・経済再生相は「この問題については日米貿易交渉の仕上がりの段階できちんと対応したい。その旨は米国にも伝えて了解ももらった」と述べており、当然だ。相手に譲歩を押し付けた一方、自分のほうでは約束を守らないというような無法を許してはならない。たとえば、制裁関税を規定している通商拡大法232条に日本車を除外することを盛り込むなど、トランプ大統領の気まぐれで約束を反故にできないような措置が講じられた時点で日本の農産物の課税もTPP並みに下げる、というのが妥当な落としどころではないか。
追記2:アメリカで余っているトウモロコシを「日本が全部買う」とトランプ大統領を喜ばせた件だが、国内初の害虫被害で飼料用トウモロコシが不足する可能性があるため、農水省が8日、海外から飼料用トウモロコシを輸入する費用を補助することを決めたということらしい(朝日新聞2019-8-28)。「国内で供給できない部分の輸入に補助する」ならわかるのだが、国内産トウモロコシと競合するアメリカ産に補助を出すということであれば許せない(もちろん交渉全体として一部の分野で日本が不利になることはありえない話ではないのだが)。もう少し詳しい説明がほしい。
記事は「飼料用トウモロコシの年間輸入量の3カ月分にあたる最大250万トンを民間企業が輸入する見込み」とあるが、よくわからない。現在「年間輸入量」は全部政府が買っている、と読めるが、そんなことはないのでは?
(※追記:この点については、「「米国で余ったトウモロコシを日本が全部買う」は嘘っぱちだった」で説明しました。)
では日本側は何を得たか。日本が農産物で「TPP水準」まで関税を引き下げるのはアメリカ側が乗用車などで関税を削減することと引き換えのはずだったという。それが米側の工業製品の関税引き下げが議会承認がいらない程度の小幅なものだとすると、つり合いが取れないことになる。
法外な要求をふっかけておいてそれを回避するだけで米側の譲歩を得たかのように錯覚させるのはトランプ大統領の常套手段だ。日本の外交のプロがそのような陥穽にはまるはずはないとは思っているが、アメリカにすり寄り一方の安倍首相の姿勢を見ていると不安になる。日本が何を譲って何を得たのか。署名前にきちんと検証してほしい。
それにしても、トランプ大統領は「中国が約束を守らないせいで、我々の国にはトウモロコシが余っている。それを日本がすべて買ってくれることになった」と誇った。安倍首相も同席した共同記者会見の場だ。安倍首相は自分の発言後にトランプ氏から「トウモロコシについても発言を」と催促されて「買うのは民間」と予防線を張ったが、トランプ氏は「日本の民間は政府の言うことをよく聞く」と上機嫌だったという(朝日新聞2019-8-27)。
トランプ大統領のいつものほら話なのかもしれないが、トウモロコシについていったいどういう合意をしたのか。少なくとも日本が国として買うことは約束していないだろうが、民間が買うことを強制することはできないはず。これについても署名前に内容確認は必須だろう。
追記:今回の合意でアメリカは乗用車への関税削減は見送った(TPP離脱前には受け入れていたのに)が、一方で日本は牛肉や豚肉の関税を日本側がTPP並みに下げることを認めた。その最低限の前提は、アメリカが輸入車への制裁関税の発動をしないことが最低限の前提だったにもかかわらず(もともとトランプ大統領の脅しのようなもので、「制裁関税なし」が成果であると誤認してはならない)、トランプ大統領は記者会見で、発動は「現時点ではない」が「私がやりたいと思えば、後になってやるかもしれない」と述べたという(朝日新聞2019-8-28)。茂木敏充・経済再生相は「この問題については日米貿易交渉の仕上がりの段階できちんと対応したい。その旨は米国にも伝えて了解ももらった」と述べており、当然だ。相手に譲歩を押し付けた一方、自分のほうでは約束を守らないというような無法を許してはならない。たとえば、制裁関税を規定している通商拡大法232条に日本車を除外することを盛り込むなど、トランプ大統領の気まぐれで約束を反故にできないような措置が講じられた時点で日本の農産物の課税もTPP並みに下げる、というのが妥当な落としどころではないか。
追記2:アメリカで余っているトウモロコシを「日本が全部買う」とトランプ大統領を喜ばせた件だが、国内初の害虫被害で飼料用トウモロコシが不足する可能性があるため、農水省が8日、海外から飼料用トウモロコシを輸入する費用を補助することを決めたということらしい(朝日新聞2019-8-28)。「国内で供給できない部分の輸入に補助する」ならわかるのだが、国内産トウモロコシと競合するアメリカ産に補助を出すということであれば許せない(もちろん交渉全体として一部の分野で日本が不利になることはありえない話ではないのだが)。もう少し詳しい説明がほしい。
記事は「飼料用トウモロコシの年間輸入量の3カ月分にあたる最大250万トンを民間企業が輸入する見込み」とあるが、よくわからない。現在「年間輸入量」は全部政府が買っている、と読めるが、そんなことはないのでは?
(※追記:この点については、「「米国で余ったトウモロコシを日本が全部買う」は嘘っぱちだった」で説明しました。)