国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」の企画展「表現の不自由展・その後」が慰安婦を表わす少女像などを展示したことで激しい抗議を受け、テロ予告や脅迫も相次いで中止に追い込まれたことをここ数回取り上げている。この中止で、抗議の電話を集中させれば気に入らない企画は中止に追い込めるという状況をつくってしまった。現に、津田芸術監督が参加予定だった神戸でのシンポジウムにも批判の電話が相次ぐようになって中止に追い込まれた(朝日新聞2019-8-10)。
ところで企画展の中止が報道されたのが8月4日。シンポジウムへの批判の電話やメールがくるようになったのは8月7日(水曜日)に突然だったという。明らかに誰かの呼びかけがあったのだろうと思って検索してみると、7日に自民党の上畠寛弘・神戸市議らがツイッターで津田氏の登壇に「断固反対」を表明し、実行委の事務局にあたる財団幹部にも登壇者の見直しなどを求める直談判をしていたという(神戸新聞NEXT)。自民党の市議がシンポジウムの登壇者に口出しをするというのはまた「検閲」の新たな事例を作ってしまったことになる。「表現の不自由展」中止に対する批判はぽつぽつ出ているが、こうした政治家の態度に対する批判が盛り上がらないというのは、本当に日本人は平和ぼけしているとしか言いようがない。「私は政治的なことには首をつっこまないから」などと思っていると、そのうち「戦争反対」とか「原発反対」と言っただけで非国民扱いされるようになる。人ごとだと思っているうちに統制社会になっていたというのはまさに「いつか来た道」だ。
ところでシンポジウムに関する抗議は9日午後3時の時点で170件を超えたそうだ。だがこの「170」という数字ははたして本当に170人なのだろうかとふと思った。
ネット上での「炎上」は意外なほど少人数で起こることが明らかになっている(過去ブログ)。最近相次いでいる、普通の応対職員というソフトターゲットへの電話攻撃に参加している人ははたしてどのくらいいるのだろう。
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「「表現の不自由展」中止:怒りは主催者ではなく、テロ予告をした犯人や扇動政治家に向けよう」
「「表現の不自由展」中止に海外でも批判――ソフトターゲットへの暴言をどう防ぐ?」
「「悪質クレーム」「客によるパワハラ」:ガイドライン充実のために」
追記:「表現の不自由展」の企画から注意に至るまでの詳しい経緯が朝日新聞2019-8-17にあった。私が気になっていた電話録音について、録音機能のある回線とない回線があったようだ。
芸術祭事務局の県トリエンナーレ推進室は、20数回線に増やしていた室内の電話が同時に鳴るほど電話が殺到した。「ベテラン県職員ら5人が電話を取った」とあるが、回線数だけ増やして応対職員を配置しなかったということなのか。
8月3日朝、抗議への対応能力を超えたと判断して、事務局の録音機能がない電話回線を抜いた。すると、芸術祭の会場になっている美術館にも電話が殺到したという。電話をかける側の行動としてみたとき、これはどういうことだろう。20数回線の電話が一斉に鳴るというのは、その段階ですでに抗議の電話をかけても「話し中」でつながらない人がいたということだ。回線数が減ったことで、「話し中」でつながらない人が増えたため、美術館に矛先を変える人も増えたということなのだろうか。また、電話線を抜く場合、「話し中」にはならず、かけた側にとっては「呼び出し中」が続くはずだが、「いつまでたっても呼び出し中だから矛先を変えた」ということなのだろうか。
いずれにせよ、少なくとも一部の抗議は録音されていたことははっきりした。県は中止に至る経緯を調べる検証委員会を設けたというから、録音内容も詳しく分析してほしい。「脅迫などの犯罪」、「暴言などの悪質クレーム」などへの分類はもちろん、同じ人が繰り返しかける事例がないか、「悪質クレーム」の典型例とされている「くいさがって長時間拘束」する事例がないかなども調べてほしい。
また、ブログなどで攻撃者が「戦果」を誇っている事例があるかもしれない。SNSに職員の実名をアップした事例については、電話をかけた本人だと思って間違いないだろう。そうしたウェブサイトの分析、そしてそれ以前に保存が急務だ。
追記2:NHKクローズアップ現代の「「表現の不自由展・その後」 中止の波紋」(2019-9-5)が抗議電話(「電凸」「電話突撃」というそうだ)やSNS拡散を行なった当事者に取材を行なって、その生の声を紹介している。
追記3:脅迫めいたファクスを送った人物の裁判があった(朝日新聞2019-10-29夕刊)。被告は無職男性(59)。検察の求刑は懲役1年6か月で、被告は起訴内容を認め、執行猶予付きの判決を求めたという。弁護側は被告が「多くの人に迷惑をかけたことを痛感し、猛省している」という。言葉通りだとすると、確信犯的な歴史修正主義者とよりはSNSに踊らされて反射的に行動した、ということに思えるが、どうなのだろう
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ところでシンポジウムに関する抗議は9日午後3時の時点で170件を超えたそうだ。だがこの「170」という数字ははたして本当に170人なのだろうかとふと思った。
ネット上での「炎上」は意外なほど少人数で起こることが明らかになっている(過去ブログ)。最近相次いでいる、普通の応対職員というソフトターゲットへの電話攻撃に参加している人ははたしてどのくらいいるのだろう。
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8月3日朝、抗議への対応能力を超えたと判断して、事務局の録音機能がない電話回線を抜いた。すると、芸術祭の会場になっている美術館にも電話が殺到したという。電話をかける側の行動としてみたとき、これはどういうことだろう。20数回線の電話が一斉に鳴るというのは、その段階ですでに抗議の電話をかけても「話し中」でつながらない人がいたということだ。回線数が減ったことで、「話し中」でつながらない人が増えたため、美術館に矛先を変える人も増えたということなのだろうか。また、電話線を抜く場合、「話し中」にはならず、かけた側にとっては「呼び出し中」が続くはずだが、「いつまでたっても呼び出し中だから矛先を変えた」ということなのだろうか。
いずれにせよ、少なくとも一部の抗議は録音されていたことははっきりした。県は中止に至る経緯を調べる検証委員会を設けたというから、録音内容も詳しく分析してほしい。「脅迫などの犯罪」、「暴言などの悪質クレーム」などへの分類はもちろん、同じ人が繰り返しかける事例がないか、「悪質クレーム」の典型例とされている「くいさがって長時間拘束」する事例がないかなども調べてほしい。
また、ブログなどで攻撃者が「戦果」を誇っている事例があるかもしれない。SNSに職員の実名をアップした事例については、電話をかけた本人だと思って間違いないだろう。そうしたウェブサイトの分析、そしてそれ以前に保存が急務だ。
追記2:NHKクローズアップ現代の「「表現の不自由展・その後」 中止の波紋」(2019-9-5)が抗議電話(「電凸」「電話突撃」というそうだ)やSNS拡散を行なった当事者に取材を行なって、その生の声を紹介している。
追記3:脅迫めいたファクスを送った人物の裁判があった(朝日新聞2019-10-29夕刊)。被告は無職男性(59)。検察の求刑は懲役1年6か月で、被告は起訴内容を認め、執行猶予付きの判決を求めたという。弁護側は被告が「多くの人に迷惑をかけたことを痛感し、猛省している」という。言葉通りだとすると、確信犯的な歴史修正主義者とよりはSNSに踊らされて反射的に行動した、ということに思えるが、どうなのだろう