リベラルくずれの繰り言

時事問題について日ごろ感じているモヤモヤを投稿していこうと思います.

「表現の不自由展」中止に海外でも批判――ソフトターゲットへの暴言をどう防ぐ?

2019-08-15 | 政治
国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」の企画展「表現の不自由展・その後」が慰安婦を表わす少女像などを展示したことで激しい抗議を受け、テロ予告や脅迫も相次いで中止に追い込まれた。中止に対する批判の声は上がっているが、企画展に対する激しい抗議に比して、盛り上がっているとはいえない。だが朝日新聞2019-8-14に言われるまでもなく、ここ数年、クレームがくる可能性や政治家からの非難を恐れて美術館などが展示を断ることがある。講演会にしてもそうだ。そうした対応は、クレームをつけることで気に入らない展示や講演会を中止に追い込めるという状況をつくってしまった。

だが不自由展中止に対しては海外からも批判の声が上がるようになった(朝日新聞2019-8-15)。トリエンナーレの芸術祭参加作家90組以上のうち、11組の海外作家と、芸術祭の国際現代美術展キュレーター1人が連名で公開書簡を米美術ニュースサイトに発表した。「検閲」を批判し、「検閲された作家への連帯を示す」ために展示の保留を求めたという。(うち2組は韓国人作家で、すでに展示を閉鎖している。)外圧頼みというのもなさけないが、海外での検閲批判は頼もしい。
だが、中止の判断は、「表現の不自由」という点でも、暴言で展示をつぶせるという前例という意味でも、よくなかったが、本当に悪いのはテロ予告や暴言をした人やそれをあおった政治家だ。
公開書簡は脅迫ファクスなどの安全上の理由について、警察など「対応すべき当局がスタッフや来場者らの安全を保護することが芸術祭の責任だ」と訴えているという。先日、日本で中止を批判する声が上がったときも警備をきちっとすればいいと言っていた(朝日新聞2019-8-10など)が、実は安全上の理由は一番の理由ではないということを見落としている。幸い、日本にはまだ本気でテロを起こそうという人はきわめて少ないと思う。警察などと相談の上、安全を確保することは可能だろう。

企画展中止の際に挙げられた一番の理由は、抗議の電話が相次いで「対応する職員が精神的に疲弊している」という点だった。警備によって物理的なテロは防げても、抗議対応の問題は解決しない。議論のある作品を制作する作家は相応の覚悟をもって活動しているのだろうが、電話に応対するのは普通の職員だ。暴言の電話を受け続ければ、精神的に参ってしまうのは当然だ。
今回の件では「ガソリン」でテロを予告ないし示唆した件については被害届が出され、うち一件は容疑者が逮捕されたと報道されているが、それ以外の多数の電話についてはそうした動きを聞かない。テロと同列に取り締まることはできないかもしれないが、この点について対策を考えない限り、ソフトターゲットを狙った暴言によって展示や講演を中止に追い込む事例は今後も続くだろう。現に、津田芸術監督が参加予定だった神戸でのシンポジウムが、ある日から急に批判の電話が相次ぐようになって中止に追い込まれた(朝日新聞2019-8-10)。政治と関係のない商品等に関するクレームであってもそうなのだが、過度な暴言は表現の自由には含まれないと思う。
とりあえずは、多数の抗議電話の録音を分析して、「テロ予告、恐喝などの犯罪」、「犯罪とはいえないが悪質と思えるクレーム、暴言」などを列挙する作業が必要ではないだろうか。(電話の録音をとっていないなどということはないと思うが、新聞を見る限りはわからない。どうなのだろう。)

関連記事:
「少女像:職員への過剰な抗議はパワハラだ」
「「表現の不自由展」中止:怒りは主催者ではなく、テロ予告をした犯人や扇動政治家に向けよう」
「「悪質クレーム」「客によるパワハラ」:ガイドライン充実のために」

追記:問題の「少女像」をスペインの実業家が購入して来年にバルセロナに「自由ミュージアム」を開いて展示する予定だという(朝日新聞2019-8-15夕刊)。1年ほど前から「政治、倫理、道徳、あるいは性的理由」で展示されなかった芸術作品約60点を集めているという。
トリエンナーレでは芸術祭の間だけ展示されて終わるはずだったのだが、右派が騒いで中止に追い込んだために、結果的に「少女像」を世界に広めることになってしまったのではないか。(ついでに、制作した韓国人彫刻家に金銭的利益までもたらしたことになる。)

この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 「表現の不自由展」中止:怒... | トップ | 企画展やシンポを中止に追い... »
最新の画像もっと見る

政治」カテゴリの最新記事