リベラルくずれの繰り言

時事問題について日ごろ感じているモヤモヤを投稿していこうと思います.

米軍の地位協定問題:ドイツは交渉で自主独立を獲得していた

2018-05-02 | 政治
米軍基地問題で悩まされる日本に比べ,同じ敗戦国のドイツやイタリアでは日本のような隷属的な扱いはされていないという新聞記事を昨年,「米軍の地位協定:ドイツとイタリアの場合」で紹介した.このたび池澤夏樹「(終わりと始まり)米国への「異様なる隷属」 主体的な思想なき政府」にもっと詳しい情報があった(朝日新聞2018-5-2夕刊).沖縄県が職員を派遣して調べてきたらしい.
私が気になっていたのは米兵が犯罪を犯した場合の扱いだが,ドイツの米軍基地にはドイツの警察官二名が常駐していて,ドイツの警察権が行使されているという.基地内でさえそうなら,おそらく基地外で犯罪や事故を起こした場合もそうだろう.
米軍機の飛行については,周辺自治体や市民代表と米軍司令官からなる「騒音軽減委員会」があるというから,住民にも一定の発言権があるのだろう.軍の訓練・演習までドイツ側に許可・承認の権限があるそうだ.
イタリアでは自治体の要望で飛行ルートが変更されることもあるという.

自民党や「保守」の方々は「アメリカから憲法を押し付けられた」といって屈辱的だと言い続けているが,米兵が事故や犯罪を起こしても日本側に捜査権すらない日米地位協定の現状は平気なのだろうか.昨年も書いたが,地位協定の改定は国民の支持を背景に政府が本気で取り組めばできないことではないと思う.現にドイツでの現状は,冷戦終結後に交渉を通じて獲得したものだ.改憲などより前に,米軍の地位に関して日本の「自主独立」を目指すことを考えてほしい.

関連リンク:
沖縄県の「他国地位協定調査の中間報告書について」(2018-3-30)

追記:明田川融「(ひもとく)日米地位協定と沖縄 損なわれた主権守るのは誰か」(朝日新聞2018-6-30)は『日米地位協定』,『沖縄基地問題の歴史』といった著書のある大学教授によるものだが,上記沖縄県の「中間報告」のほか,伊勢﨑賢治,布施祐仁『主権なき平和国家 地位協定の国際比較からみる日本の姿』(集英社クリエイティブ)などから日本の地位協定の問題を紹介している.

追記2:米兵が事件を起こした場合の裁判権について、朝日新聞2019-2-1に続報があった。どうも上記の私の想像は甘かったようだ。
ドイツの場合、日本の地位協定に当たるものはドイツに駐留するNATO軍についての「ボン補足協定」というもので、実質的には駐独米軍の地位協定といえる。NATO軍兵士が公務外で事件を起こした場合について、ドイツは第一次裁判権を放棄させられている。1993年の改定で、殺人などの重大犯罪の場合には放棄を撤回できるとされたが、実際に適用された例はほとんどないようだ。(上記で紹介した「ドイツの警察権」との兼ね合いはどうなっているのだろう?)
イタリアの場合は1945年に協定が結ばれたが内容は非公開。1995年の「了解覚書」から協定内容が推測できるというが、米兵が犯罪を犯した場合については、実際の事件の扱いから推測するしかないようだ。昨年、米軍関係者が容疑者となった強姦事件が複数あったが、イタリアの裁判所で裁かれたのは一人だけだったという。
朝日新聞2019-2-2によれば、アメリカは100以上の地位協定を結んでいるというが、米軍兵士は受け入れ国で米国法に基づく身分を保証されているという。その一方、受け入れ国側の兵士が米国内にいるときはほとんど米国の法律が適用される。正義を振りかざすアメリカがこれでいいのかと言いたくなるが、アメリカにしてみれば、「もし米軍兵士が米国の概念とは根本的にかけ離れた不公平な制度のもとで裁判にかけられるリスクをもてば、米軍が海外展開する意思が大きく阻害される」ということのようだ。

追記3:政治学者の白井聡氏は、新元号の典拠が国書かどうかで盛り上がる一方で、不平等な日米地位協定は自明のものとして受け入れてしまう「ナショナリズム」の奇妙さを指摘している(朝日新聞2019-5-10)。



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