議会の解散は首相の専権事項.議会が首相を選出し,不信任決議をすることもできる一方,首相は議会の解散で対抗できる――漫然とそれが行政と立法のバランスなのだと思っていたが,最近,その是非について議論があるそうだ.9月27日の朝日新聞朝刊でも記事があった.日本がモデルとしてきた英国では数年前に解散権を制限する法改正ができた.解散が迫っている時点ではどうしても安倍首相の好き勝手にやられてはたまらないという「私情」がはいってしまうが,解散がされて次の政権がどの党の手にわたるかが定まっていない今こそ,何が正しいのか,改めて議論するべきだ.
そもそも憲法の規定はどうなっているのか.69条では内閣不信任案が可決されたときに解散できることを規定していてこれはわかりやすい.だがそれ以外では,憲法第7条が内閣の助言と承認に基づく天皇の国事行為として衆院の解散が挙げられているにすぎない.ここ数十年,時の内閣(実質的には閣僚の任免権をもつ首相)の都合のいいときに解散・総選挙をしてきたのは多くはこの憲法第7条の規定によっているのだが,実は首相が自由に解散できるとまでは規定していないのだ.
だがなぜ近年になってそのことが問題になりだしたのだろう.首相の権限が確立していなかった戦後しばらくはともかく,1990年代以降の政治改革で首相の権限が強化されて(8月2日のブログ参照),首相に権力が集中しすぎてきたという背景もある.(朝日新聞「首相の解散権、国民の選択権制約 衆院選」)
そんなことをいっても与党が自らの選択肢を狭める解散権の制限を認めるはずがないと思うが,イギリスでは2011年に「議会任期固定法」が成立し,議会の解散は内閣不信任案が可決されたときか,下院の3分の2以上の賛成がある場合のみに限定され,首相の自由な解散権はなくなった.これは当時のキャメロン政権の成立にあたって,連立相手の自由党が勝手な解散がされないよう連立の前提として要求したためだった.(朝日新聞「英独、首相権限縛り行使抑制 衆院選」,ウィキペディア)
日本でも,自民党が過半数を割って連立の時代になれば,首相の解散権を制限する流れが出てくるだろうか.あるいは逆に,上記の背景からすると首相の権限を弱める方向の政治改革をすれば解散権は今のままでもいい,というような議論はないのだろうか.
関連リンク:朝日新聞「解散権どう制限、議論じわり」
追記(10月16日):党利党略の解散ができないよう縛りをかけるには憲法改正が必要かもしれないということを読んだ.一方,憲法改正は必要ないかもしれないという識者の談話も読んだ.いずれも最近の朝日新聞紙上だ.上記で参考にした英国では「成文憲法」がないので,このあたりの事情は参考にならない.
私は法律の専門家ではないが,憲法を改正しなくても対応可能だと思っていたので,こんな基本的な点の見解が定まっていないことに驚いた.仮に憲法が首相(内閣)の権限として「好きに解散時期を決定できる」ことを規定しているのであれば,それを縛る立法は違憲ということになる.だが上記のように憲法7条は天皇の国事行為を規定しただけのもので,内閣が国会解散をどういうときに「助言」する権限をもつかを規定したものではない.だから「内閣は憲法69条が規定する場合および×××の場合のほかは衆議院を解散することができない」のような法律を作って解散できる場合を厳格に規定することは憲法に反しないと思うのだがどうなのだろう.
いずれにせよ,与党にとっては都合の悪い話なので,英国のように与党が負けて連立相手に注文をつけられる状況にならないと実現は難しい.
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「伝家の宝刀:自治体首長は選挙前倒しによる「任期延長」は禁じられているのに…」
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だがなぜ近年になってそのことが問題になりだしたのだろう.首相の権限が確立していなかった戦後しばらくはともかく,1990年代以降の政治改革で首相の権限が強化されて(8月2日のブログ参照),首相に権力が集中しすぎてきたという背景もある.(朝日新聞「首相の解散権、国民の選択権制約 衆院選」)
そんなことをいっても与党が自らの選択肢を狭める解散権の制限を認めるはずがないと思うが,イギリスでは2011年に「議会任期固定法」が成立し,議会の解散は内閣不信任案が可決されたときか,下院の3分の2以上の賛成がある場合のみに限定され,首相の自由な解散権はなくなった.これは当時のキャメロン政権の成立にあたって,連立相手の自由党が勝手な解散がされないよう連立の前提として要求したためだった.(朝日新聞「英独、首相権限縛り行使抑制 衆院選」,ウィキペディア)
日本でも,自民党が過半数を割って連立の時代になれば,首相の解散権を制限する流れが出てくるだろうか.あるいは逆に,上記の背景からすると首相の権限を弱める方向の政治改革をすれば解散権は今のままでもいい,というような議論はないのだろうか.
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追記(10月16日):党利党略の解散ができないよう縛りをかけるには憲法改正が必要かもしれないということを読んだ.一方,憲法改正は必要ないかもしれないという識者の談話も読んだ.いずれも最近の朝日新聞紙上だ.上記で参考にした英国では「成文憲法」がないので,このあたりの事情は参考にならない.
私は法律の専門家ではないが,憲法を改正しなくても対応可能だと思っていたので,こんな基本的な点の見解が定まっていないことに驚いた.仮に憲法が首相(内閣)の権限として「好きに解散時期を決定できる」ことを規定しているのであれば,それを縛る立法は違憲ということになる.だが上記のように憲法7条は天皇の国事行為を規定しただけのもので,内閣が国会解散をどういうときに「助言」する権限をもつかを規定したものではない.だから「内閣は憲法69条が規定する場合および×××の場合のほかは衆議院を解散することができない」のような法律を作って解散できる場合を厳格に規定することは憲法に反しないと思うのだがどうなのだろう.
いずれにせよ,与党にとっては都合の悪い話なので,英国のように与党が負けて連立相手に注文をつけられる状況にならないと実現は難しい.
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