役職定年後も政府の判断で検察幹部にとどまれるようにする検察庁法改正について、政府は今国会での成立を断念することにした。有名人も含む多くの人がツイッターで反対を表明し(過去ブログ、過去ブログの追記)、世論調査でも反対が圧倒的。元検事総長らの意見書に続き、元特捜検事らも再考を求める意見書を提出した。SNSでの反響を突きつけられても「世論のうねりは感じられない」と突き放していた政府の思惑に反し、内閣支持率も41%から33%へと急低下した。
今国会での成立断念に追い込んだことで急場はしのいだが、廃案ではなく継続審議で、事態は何も解決していない。改正案は検察官の定年年齢を63歳から65歳に段階的に引き上げるなど時代の要請と思われるものも含んでおり、野党も定年特例を外すことを求めていたのだが、政府は抱き合わせにしたまま次期国会での成立をもくろんでいる。森本・加計疑惑にしても、桜を見る会にしても、忘れっぽい世論が心配だが、油断なく目を光らせておく必要がある。
自民党の暴走を止めるブレーキ役を自認していたはずの公明党は何をしているのだろう。先日は、安倍首相肝いりで閣議決定までされた「1世帯30万円」を「1人10万円」に変更させたが、そのときは「党がもたない」ほどの苦情を受けて強硬な態度に出た(過去ブログ)。今回も山口代表の「丁寧に説明していきたい」(12日)というツイートに対して、「10万円給付の時のような本気度を全く感じられないのはなぜ」、「抗議しないなら公明党支持辞めます」などの批判が相次ぎ、14日に公明新聞に解説記事を載せて理解を求めたものの、その後批判は急増した。18日夕現在では5000件近くに上り、批判的な内容が目立つという(朝日新聞2020-5-19)。「10万円」の一件以外はすっかり自民党の腰ぎんちゃくのような公明党だが、批判の声に目を覚ましてほしい。
そもそもの発端だった、現検事総長の稲田伸夫氏の後任はどうなるのだろう。今回の改正断念が黒川氏の人事に影響するかを問われた菅義偉官房長官は「全く影響はない」と述べた(朝日新聞2020-5-19夕刊)が、これは後付けの正当化ができなくなった定年延長のことをいったものだろうか、今夏の検事総長起用のことだろうか。定年延長が黒川氏の総長起用のためであることは政府はこれまで認めていなかったような気がするが、いつのまにか既成事実になっているような気もする。どうなのだろう。
状況を振り返ってみる。稲田氏の任期は来年8月までだが、慣例では交代は今夏。安倍政権が法解釈をねじまげて延長した黒川弘務氏の定年は8月。もともと検察内部で次期総長として予定されていた林真琴氏は7月に定年を迎える。司法修習33期の稲田氏の後任として考えられるのは35期のこの両氏だという(文春オンライン)。
だがこれだけ対立が大きくなってしまった今、特例定年の撤回もしていない安倍政権が後任として林氏を任命する気になるとは思えない。林氏の定年後に黒川氏の任命を強行するというのがありそうだが、政府の恣意的な定年延長により黒川氏にはすっかり悪いイメージがついてしまった。黒川氏自身は有能な方らしく、民主党政権下でも高く評価されていたという(朝日新聞2020-5-14)。だがどんなに有能であっても、国民から信頼されないと検察の業務にも支障をきたす。元法務省官房長の堀田力氏は「『政治におもねる組織だ』と見られると、捜査につながる情報が入らなくなったり、取り調べで被疑者との信頼関係を築きにくくなって真実の供述が得られなくなったり、現場に大きな影響が出る」と指摘している。黒川氏を君呼ばわりする堀田氏は、黒川氏の能力を認めつつ、定年延長を受け入れた責任は大きく、自ら辞職すべきと述べている。辞職が難しくても、少なくとも総長ポストを提供されても断るべきだろう。堀田氏は黒川氏の定年延長を受け入れた現総長の稲田氏も責任があり辞職すべきと述べているが、やはりそうしないまでも、黒川氏の8月の定年が過ぎるまで在職することで間接的に黒川氏の総長就任を押しとどめるべきだ。
今回は安倍首相のごり押しに対して元検事総長や元特捜検事らが立ち上がり、正義の検察という構図ができたが、「人質司法」など検察にも改革すべき点はある。場合によっては政治主導が必要になることもあるだろう。だが今回の安倍政権のやり方はあまりに露骨に法治の原則をねじまげるものだった。黒川氏の総長就任や政府の裁量による定年特例は先送りではなく、あきらめるべきだ。
今国会での成立断念に追い込んだことで急場はしのいだが、廃案ではなく継続審議で、事態は何も解決していない。改正案は検察官の定年年齢を63歳から65歳に段階的に引き上げるなど時代の要請と思われるものも含んでおり、野党も定年特例を外すことを求めていたのだが、政府は抱き合わせにしたまま次期国会での成立をもくろんでいる。森本・加計疑惑にしても、桜を見る会にしても、忘れっぽい世論が心配だが、油断なく目を光らせておく必要がある。
自民党の暴走を止めるブレーキ役を自認していたはずの公明党は何をしているのだろう。先日は、安倍首相肝いりで閣議決定までされた「1世帯30万円」を「1人10万円」に変更させたが、そのときは「党がもたない」ほどの苦情を受けて強硬な態度に出た(過去ブログ)。今回も山口代表の「丁寧に説明していきたい」(12日)というツイートに対して、「10万円給付の時のような本気度を全く感じられないのはなぜ」、「抗議しないなら公明党支持辞めます」などの批判が相次ぎ、14日に公明新聞に解説記事を載せて理解を求めたものの、その後批判は急増した。18日夕現在では5000件近くに上り、批判的な内容が目立つという(朝日新聞2020-5-19)。「10万円」の一件以外はすっかり自民党の腰ぎんちゃくのような公明党だが、批判の声に目を覚ましてほしい。
そもそもの発端だった、現検事総長の稲田伸夫氏の後任はどうなるのだろう。今回の改正断念が黒川氏の人事に影響するかを問われた菅義偉官房長官は「全く影響はない」と述べた(朝日新聞2020-5-19夕刊)が、これは後付けの正当化ができなくなった定年延長のことをいったものだろうか、今夏の検事総長起用のことだろうか。定年延長が黒川氏の総長起用のためであることは政府はこれまで認めていなかったような気がするが、いつのまにか既成事実になっているような気もする。どうなのだろう。
状況を振り返ってみる。稲田氏の任期は来年8月までだが、慣例では交代は今夏。安倍政権が法解釈をねじまげて延長した黒川弘務氏の定年は8月。もともと検察内部で次期総長として予定されていた林真琴氏は7月に定年を迎える。司法修習33期の稲田氏の後任として考えられるのは35期のこの両氏だという(文春オンライン)。
だがこれだけ対立が大きくなってしまった今、特例定年の撤回もしていない安倍政権が後任として林氏を任命する気になるとは思えない。林氏の定年後に黒川氏の任命を強行するというのがありそうだが、政府の恣意的な定年延長により黒川氏にはすっかり悪いイメージがついてしまった。黒川氏自身は有能な方らしく、民主党政権下でも高く評価されていたという(朝日新聞2020-5-14)。だがどんなに有能であっても、国民から信頼されないと検察の業務にも支障をきたす。元法務省官房長の堀田力氏は「『政治におもねる組織だ』と見られると、捜査につながる情報が入らなくなったり、取り調べで被疑者との信頼関係を築きにくくなって真実の供述が得られなくなったり、現場に大きな影響が出る」と指摘している。黒川氏を君呼ばわりする堀田氏は、黒川氏の能力を認めつつ、定年延長を受け入れた責任は大きく、自ら辞職すべきと述べている。辞職が難しくても、少なくとも総長ポストを提供されても断るべきだろう。堀田氏は黒川氏の定年延長を受け入れた現総長の稲田氏も責任があり辞職すべきと述べているが、やはりそうしないまでも、黒川氏の8月の定年が過ぎるまで在職することで間接的に黒川氏の総長就任を押しとどめるべきだ。
今回は安倍首相のごり押しに対して元検事総長や元特捜検事らが立ち上がり、正義の検察という構図ができたが、「人質司法」など検察にも改革すべき点はある。場合によっては政治主導が必要になることもあるだろう。だが今回の安倍政権のやり方はあまりに露骨に法治の原則をねじまげるものだった。黒川氏の総長就任や政府の裁量による定年特例は先送りではなく、あきらめるべきだ。