紫式部の物語は、他人を面白がらせて褒美を得るためではなく、第一に自分のために書きました。紫式部自身を楽しませるため、感動させるため、考えさせるため、紫式部は誰よりも厳しい読者だったのです。
帚木(ははきぎ)三帖の誕生 前半
「帚木」は遠くからは見えるけれど、近づくと見えなくなる不思議な木
紫式部が当初家にいて書き始めた「源氏の物語」は、後に世に広まったものとは少し違います。紫式部は最初から五十余帖の長編を目指しはしないで、短編から書き進めました。短編であろうとも、現実以上に現実らしい物語を目指す姿勢は決めていました。
紫式部は、物語を実話仕立てにすることを決めました。実在する主人公の行状を、その人物をよく見知った者が語るという形です。内容は、主人公がひた隠しにしているのに語り手がつい漏らしてしまった秘話だということにするのです。もちろん中身は紫式部の作り話ですが、こうしたことは実際の世の中でも多いではありませんか。
参考 山本淳子著 紫式部ひとり語り