※前回の秋田の記事はこちら(36節・大分戦、0-2)
※前回の藤枝の記事はこちら(37節・岡山戦、0-2)
※前回の両クラブの対戦はこちら(藤枝 1-0 秋田)
<秋田スタメン> ※()内は前節のスタメン
- 蜂須賀が今季限りでの引退を発表。そして今節スタメン出場と、引退試合の様相に。
- 吉田の負傷が発表されるも、発生日・治癒期間ともに未発表。
- 大ベテランの加賀が10節(岡山戦、0-0)以来のベンチ入り。
<藤枝スタメン>
- DAZNの予想では、世瀬がアンカーの3-3-2-2(3-1-4-2)。しかし前線5人は流動的なため、どれが正解かは一概には言えず。(試合開始後の布陣を見た放送席では、3-4-2-1と言っていた)
お互いチームカラーがハッキリとした、かつそれが真逆のものというクラブのぶつかり合い。
しかも2クラブとも、2020年以降にJ2昇格を果たした者同士という、シーズン最終戦に相応しい一戦となったでしょうか。
藤枝・須藤大輔監督も、試合前のインタビューで「信念」というワードを口に出す程、そんな対決の色は強く。
しかし「信念を貫く」という事は、悪く言えば「それに基づいたプレーをしていれば、例え負けても良い」と捉えられる事でもあり。
前年の藤枝は終盤の残留争いの際、引き気味に守備ブロックを作るという、その信念を曲げるようなスタイルへと舵を振ったのは記憶に新しく。
これが信念よりも、結果に拘るという勝ち点への「執念」と言っても良く、そのおかげで残留を果たしたのは周知の通り。
今季は中位の上の方に居たため、表立ってその選択を迫られる事は無かったでしょうが、今後それだけで良いのかどうか。
信念と執念を天秤に掛けながら、進化と微調整を続けていくのが生き残る道……というのは言うは易しですが、秋田のような振りきったチームまでとはいかない(単に守備的か攻撃的かの違いともいう)だけにやるしかない。
「超攻撃」と謳ったものの、J2・2年目の今季そのスタイルはかなり警戒された節のある藤枝、得点力は大きく落ち込み。
38得点と前年(61得点)から大きくダウン、しかもそのうちの大部分は矢村が挙げたもの。(16点)
矢村が徹底マークされた時にどうするかという答えを、レンタル終了に備えて出したい所ですが果たして。
しかし相手は周知とはいえ、パワーサッカーの秋田であるが故にそんな流暢な事は言っておられず。
圧力をかわすべく、ラフなボールの蹴り合いの入りを強いられた事で、早くも信念を貫く事は厳しいという雰囲気が立ち込めます。
それでも反則を受け、遠目からのフリーキックでの放り込みや、モヨマルコムのロングスローなどセットプレーを駆使して攻撃機会を多く取り。
それ故に「何かが違う……」という思いは拭えず、前半6分には最終ラインでの保持が乱れてプレスを浴び、GKへバックパスするもその北村のフィードも乱れてタッチラインを割り。
そして今度は秋田が(蜂須賀が)ロングスローと攻撃権が移るも、これを防いだのちカウンターに持ち込む藤枝。(世瀬の裏へのミドルパスがオフサイドとなり終了)
しかしその思いは依然として晴れないまま、9分に本来の姿であるGKからの繋ぎを敢行するも、違和感を抱えながらのそれは巧くいかないものであり。
2トップの間を通すボランチへのパスを、あろう事か新井・世瀬の2人の間に送ってしまい、2人とも被り気味に受けにいった結果乱れて秋田ボールに。
ここからのショートカウンターはクロス連発に終わったものの、とてもじゃないが「信念」を貫く土壌は安定しない状態であり。
逆に秋田が「信念」を貫き、いつものように縦に速い攻めを繰り広げ。
シンプルな攻撃故にそれを貫くのは容易いという差異はあれど、早くも優劣が表れたような立ち上がりに。
それでも秋田は守備の面で、その信念を曲げるかのように立ち回り。
即ちハイプレスの抑制であり、最終ラインに詰める絵面は、藤枝の敵陣→自陣へバックパスした場面以外は殆ど見せずに我慢する体勢を取っていたこの日。
これはGKを含めた藤枝の繋ぎで、全体前に出た所の裏を突かれる所謂「疑似カウンター」を警戒していた感があり。
序盤に何度もそれでやられていた戦いを経て、その弱点を放置する事無く向き合うという、勝利への「執念」が形になっていたでしょうか。
藤枝は24分に左サイドで鈴木が戻りながらボールキープを経て、GKへの戻しで秋田のプレッシングを呼び込み。
そしてすかさず右へ展開ののち縦パスを通すという、「疑似カウンター」といえる好機の作り方。(それでもパスは全部地上で完結したものでしたが)
梶川を中継して逆の左へ展開、シマブクがバイタルまで持ち運ぶ状況を作ったものの、シュートでは無く矢村へのラストパスを選択した結果遮断されて実らず。
しかしここ以外に際立ったチャンスは生まれず、遊びのパスを入れても戻しに反応しないという、秋田の我慢に対し困惑が隠せないビルドアップを強いられます。
一向に出て来ない秋田ディフェンスを受け、サイドからの前進一辺倒を強いられる藤枝。
何とかリズムを変えるべく、29分には自陣でのFKの際に素早くリスタートするなど変化を付けるものの然したる効果は出ず。
強力なウイングバックを押し出すという定番の手法ばかりななか、45分には新井が右へと張り出し持ち運び、モヨマルコムがハーフレーンに降りて出来たスペースへとスルーパス。
そして走り込んだ久富が奥からマイナスのクロス、ニアで受けた千葉がシュートするも喜岡のブロックに阻まれ。
この場面のような純粋に敵陣での崩しを図りたい展開ですが、秋田の中央の硬さ故にその機会も少なく推移します。
一方秋田は守備面が冴え渡るなか、相変わらず泰然自若として自身の攻めを貫く立ち回り。
そんな中、中盤の底でボールキープして溜めを作る小野原の存在が貴重に映るという具合に、攻撃面でも若干の変化が表れていたようであり。
31分には藤枝のクリアボールを拾った小野原、キープを経て左サイド奥へミドルパスを送ってクロス攻勢に繋げ。
2本目の(村松の)右からのクロスを梶谷が合わせヘディングシュート。(枠外)
全体として藤枝のボール保持(しかし有効打は少ない)の場面が多く、機会は少ないながらもしっかりとゴールを目指す姿勢は変わらず。
そんな展開を経て、スコアレスで前半が終了。
藤枝はハーフタイムで動き、梶川→浅倉へと交代します。
流れを変えるよりは、同ポジションながら年齢差が12という事実から、将来を見据えての采配だったでしょうか。
後半、秋田はキックオフでの攻めでいきなり好機を作る(小松狙いのロングパスが流れて右奥を突き、村松のクロスでCKに)と、前半の藤枝同様セットプレー攻勢に入り。
村松が何度もロングスローの体勢を取り、時には短く入れる変化も交えるという具合に揺さぶり、フィニッシュを膨らませ。
後半3分にはそのロングスローのこぼれを、諸岡がミドルシュートに持ち込むも枠を捉えられず。
7分にもロングスローからニアで梶谷がフリック、繋がらず藤枝が拾って前進を図った所、村松自身が奪い返してすかさずミドルシュート。(枠外)
撃てなかった藤枝とは違い、遠目からながらシュートで終わるシーンを連発する辺りが、ロングスローの「本家」の面目躍如といった所でしょうか。
一方押し込まれ続けた藤枝、最初の好機は9分でしたが、こちらもモヨマルコムのロングスローと対抗姿勢。
秋田ディフェンスが釣られない以上、純粋にサイドから前進を図るしかないと割り切り。
13分にGK北村から右へ展開して縦に速く運び、久富のスルーパスからモヨマルコムが奥からクロス。
これがブロックを掠め、左ハーフレーン・エリアすぐ手前へ流れるボールになると、走り込んだシマブクのミドルシュートが炸裂。
GK山田がセーブし、右へこぼれたボールをモヨマルコムが追撃しますが大きくふかしてしまい決められず。
何とかフィニッシュに持ち込めるようにはなったものの、同時に両WB頼みかつ、繊細さに欠けるようにも映りました。
そして狙い通りの攻めで無い以上ペースを失うのも早く、以降秋田の独壇場という展開に。
14分にベンチが動き梶谷→水谷へと交代した秋田、畑がFWへ・佐藤が右サイドハーフへ回るというポジションチェンジも交えたうえで攻め上がります。
藤枝の前進を敵陣で阻み攻撃権を確保し、時にはボールキープやバックパスを交えて隙を伺うという、やはり以前の秋田のスタイルから幾ばくか進化が図られたようであり。(といっても、前回のこのカードでもその傾向が強かったですが)
15分に右サイドで溜めを作った佐藤から村松→畑と経由して右ポケットを取り、グラウンダーのクロスがファーに流れた所を水谷がシュート。
これがブロックを掠め、パス&ゴーを止めなかった村松がゴール前右で跳び込む絵図となりますが、僅かに合わせきれず右へと外れ。
その後も急所を突くボールが何度もエリア内へ送られ、ひたすら脅かされる事ですっかり専守の体勢へと押し込まれる藤枝。
そして19分、ここも敵陣左サイドでボール確保した秋田は、蜂須賀や小野原のボールキープを交え藤枝をリトリートに追い込んだのが最初に採った手法。
最終ラインへの戻しを経て逆サイドへ展開と、一見保持の姿勢からの攻めという秋田らしくない絵図から上げられた小野原のクロス、跳ね返りを同サイドで拾って尚も繋いだ末に今度は村松のクロスと分厚い攻撃。
中央でボレーシュートにいった小松は合わせきれずも、右へ小さくこぼれた所に佐藤が走り込んでシュート。
この決定的なフィニッシュを、至近距離ながらGK北村がセーブしましたが、跳ね返りをすかさず小松が詰めて勝負あり。
怒涛の攻勢を最後は連撃で締める形で、先制点に辿り着きました。
そしてキックオフの前に、佐藤・畑→大石・河村慶へと2枚替え。
悪い流れを跳ね返せず、とうとうビハインドとなってしまった藤枝。
何とか反撃を試みるも、その後もそれを振り払う事は出来ず。
25分にベンチが動くものの、芹生・河上を投入(千葉・世瀬と交代)と、今季出場機会の少ない者に託すという格好に。
やはり疑似カウンターが出来ずに、ポイントゲッターの矢村に好機をお膳立て出来ないのが致命傷といったこの日の展開。
ボールを受けても秋田ディフェンスに直ぐさま対応される位置であり、何度も潰されてしまい、それ故にフラストレーションも露わにする場面も見られます。
そんな矢村の状態が試合絵図にも波及。
30分に自身の下で攻撃が途切れ、秋田が左サイドを前進するなかプレスバックして責任を取りにいく矢村。
しかしキープする諸岡を足払いのように倒してしまう格好となり、これに諸岡の方が激昂して主審(田中玲匡氏)に止められるという一幕が生まれてしまい。
その後33分、裏へ送られたロングボールに対し、小野原と競り合いながら追いかけて確保した矢村。
その勢いのまま小野原に倒される格好になると、反則の笛が鳴って両軍ともにヒートアップとまたもや起きる一悶着。(小野原に警告)
秋田サイドも、矢村に自由にやらせればどうなるかは十分熟知しているような、タイトな寄せで凌いでいた感は隠せません。
(31分に藤枝は久富→前田へと交代、右WBに入りモヨマルコムが右センターバックに)
これで得た左ワイドからの藤枝のFK、クロスを入れると見せかけて新井は笛が鳴ったその刹那、左奥へとショートパスを蹴り出し。
同サイドで細かく繋いだ末に、前田の角度を付けたクロスがゴールに向かったものの、GK山田が抑えて実らず。
その後も、秋田が攻守に冴え渡り。
得点ならびに決定機を許さず、その合間に前進を図って相手を自陣に押し込む立ち回りを貫きます。
ゴールキックでロングフィード→小松フリックという、本来の秋田らしい定型の手法もそれに一役買い、守勢一辺倒を避ける事に成功。
しかしその小松が足を攣らせてしまったのが42分で、それに合わせて最後の交代。
小松→青木へ交代するとともに、村松に代えて今季初出場となる大ベテラン・加賀を投入。
蜂須賀(結局フル出場し、花を添える)のような、最後の花道なのかはまだ不明ですが、ともかく試合を締めるためのピッチに立つ事となりました。
(藤枝も同時にシマブク→榎本へと交代)
突入したアディショナルタイム、秋田はそんな采配とは反して、尚も果敢にゴールへ向かうという立ち回り。
道中はボール保持の姿勢も見せる変節が垣間見えたものの、抑えていたが故の反動が最後の最後に露わになった感があり。
青木の左ポケットへのスルーパスに、走り込んでグラウンダーのクロスを入れたのはボランチの小野原と、総員前掛かりの精神を発揮した末にクリアボールを拾って水谷がシュート。(ブロックされてGK北村が抑える)
この辺り、今後更なる上で昇格争いに加わるという状況でもこれを貫くのかどうか、議論の対象となるシーンとなるでしょう。
結局1-0のまま試合終了の時を迎え。
得られた勝ち点3により10位浮上と、トップハーフに滑り込んでシーズンを終えた秋田。
思えば今季初めて観た試合(2節・山口戦、0-2)で、何度も疑似カウンターから決定機を作られるシーンを見て、正直「J2も今季限りか……」と思ってしまったものであり。
しかし弱点を修正し、縦一辺倒という立ち回りも微調整が図られるなど、着実に成長を果たした末のこの順位は見事という他ありません。
シーズン後には吉田謙監督の続投も発表され、「秋田一体」の進化はまだ止まらないという来季以降となるでしょうか。