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この世界のどこかに居る似た者達へ。

9日間女王様だった女の子 3。

2014-03-19 23:47:20 | お芝居・テレビ
このお話に出てくる農民達は既に相当追い込まれた状態です。

土地や仕事を貴族達に奪われ、鬱積した不満は爆発寸前です。



高くそびえる壁に向かって、怒りをぶつけるように激しく投石します。


農民達は舞台に開けられた2つの”穴”や、1階席の扉から何度も出て来ます。

客席に降りての演技も多く、アタシは彼らと兵士達の戦いをそばで観る機会に恵まれた時がありました。

とても印象深かったのは、農民達が兵士達と対照的なところ。

農民達の手にする武器は鍬や熊手と言った農耕具で、服は粗末な物だし、靴は擦り切れていました。

比べて兵士達はピカピカの鎧を着、手にする剣はとても立派で切れ味が良さそうです。

農民達の瞳はギラギラしていました。裸同然で立ち向かってゆく彼らの姿に、どこかやるせない気持ちになりました。






舞台から飛び降りたり、通路では取っ組み合いが始まります。

席に座っている、その床が「ドンっ!」と響くのを感じました。とても迫力がありました。


アタシの座席のすぐそばで、農民が兵士に倒されていました。

横倒れになった彼は兵士をすがる様な目で見つめ、「た、たすけて下さいっ・・・。」と懇願していました。

彼にはマイクがついてはいなかったため、それは一人の農民の肉声でした。

アタシは彼のその言葉を聞いた時、農民達には守るべき家庭があり、愛する家族があるのだと知りました。

彼は若かったから、若い妻と小さな子供が居るのかもしれない。

土地を奪われ仕事を失ってしまっては、家族が飢え死にしてしまう。


農民達を組織し、集団化させたのはロバート・ケットと言う男。演じていたのは和泉崇司さん。

農民達はどう見ても”戦士”には見えませんでしたが、行き場のない不満をそのままにしていたとしたなら、事態はもっと惨たらしい状況を招いていたかもしれません。

土地を奪われ、ひどい目に遭わされている者達に共通の敵を作り向かわせる事が必要だったのかもしれません。

それが、彼らが人間らしくある最後の手段であったのかも。

ケットはそれを知っていたんじゃないかとアタシは思います。

粗末な服であろうと、ピカピカの鎧を着ていようと、プライドは同等の物を持っている。

同じ人間なのだから。


きっと、ケットは英国軍の兵士であったとしても、良い指揮官になり得たと思います。




ちなみに彼らが投げた石は舞台の上空から降りて来る壁にぶつかって転がり、壁が上へ戻り場面転換がなされてもそのまま放置される事が多くありました。

貴族の皆さんの衣装は床をするほど丈が長いので、当然の事ながら床にある石をコロン、と衣装の裾で転がしてしまうのです。

踏んじゃわないのかな、片付けないのかな、とちょっとヒヤヒヤしたんですがこの舞台の冒頭ではロジャー・アスカムが「私は石と話す。」と言う様な台詞を言うんです。

それは、古来からずっと変わらずそこにあり、その土地で生きた人々の姿や起こりえた出来事を見聞きして来た物の象徴として「石」を捉えているからかなと思いました。

例えば、何百年も前に建設された日本の城には石垣が残っている物があります。

その石たちは絶対的に、歴史的な出来事の真実や歴史上の有名人達を全て目撃しているのです。


「語り部」としてのロジャーは、言葉を持たぬ石に代わって舞台と客席を結んでいたのかもしれない。





農民達の投げた石もまた、”歴史のかけら”とするならば、舞台上に存在し続ける意味がありますね。





農民達のリーダー、ロバート・ケット役の和泉崇司さん。

ケットは帽子を被りヒゲを生やした風貌でした。

どうやら舞台から飛び降りる演技をしたのは、和泉さんだったみたいです。

最初は全然彼が和泉さんとは分りませんでした。思うより低い声だったし、野生的な感じがしたので・・・。

農民達の先頭に立ち、大きな声で掛け合い彼らを鼓舞する様な場面がありました。

ついこの間、上川さんも出演したドラマ「スペシャリスト」で、和泉さんは学生運動が盛んだった頃の大学生を演じていらっしゃいましたね。

知的で、静かに燃える野心を胸に秘めた青年を非常に繊細に演じていました。

和泉さんはとても深い瞳をした役者さんだと思います。

こういう目をした人は、内面的な事をその瞳だけで表現できる人です。

上川隆也さんもそう言う瞳の役者さんですね。

おんなじ瞳をしてると思うんです。


A-STUDIOと言うテレビ番組に上川さんが出演した時、司会の鶴瓶さんが上川さんに内緒で和泉さんのところへ取材に行っていました。

和泉さんと会って話した鶴瓶さんは、確か和泉さんの事をまるで上川さんの様だと、(印象が)「生き写し」だと言っていた様な気がします。


やっぱり、お二人は似てるんだなぁ・・・と思いました。


和泉さんのこれからがとても楽しみですね。





つづく。














































9日間女王様だった女の子 2。

2014-03-19 01:31:46 | お芝居・テレビ
ジェーンはその意思とは無関係に女王に仕立て上げられてしまうのですが、そもそもどうしてそんな事になってしまったのか。


物語はヘンリー八世の死後から始まっています。

ヘンリー八世は英国王だったわけですが、6回も結婚したために色んな女性の子供が居たわけです。

その中で、所謂世継ぎとされる男子は浅利さん演ずるエドワードだけ。

でもエドワードは生まれつき病弱で、16歳でこの世を去ってしまいます。

次の候補はジェーンよりも歳が上だった田畑智子さん演ずる”メアリー1世”。そして江口のりこさん演じる”エリザベス1世”。


当然のように思えます。


しかし、二人とも劇中の言葉をお借りして言えば「妾腹(めかけばら)」。正当な王位継承者ではないとされます。

ジェーンの母、久世星佳さん演じる”フランシーズ・グレイ”はヘンリー八世の妹の娘。ヘンリー八世の姪にあたります。

ジェーンから見ると、おばあちゃんがヘンリー八世と兄妹であったと言う事。

ひいおじいちゃんが、ヘンリー八世のお父さん。

なんだかややこしいですが、血筋から言えば彼女は王位継承者として最適だとされ祭り上げられてしまったのです。

でも、誰の目から見ても16歳の女の子が英国女王に即位するなど非常識です。

これには勿論、大人達の目論見がありました。

ジェーン・グレイが女王になった経緯はざっとこんな感じです。





さて、そんな事になる前。

ロジャーとジェーンはヘンリー八世の6番目の妻、朴璐美さん演ずる”キャサリン・パー”の宮殿で出会います。

キャサリンは、ヘンリー八世の子供達のためにロジャーを教育係として迎えました。そして16歳のジェーンの事も預かり、ロジャーの元で教育させたいと思っていたのです。

エドワードの戴冠式の打ち上げ的な席で、自分の再婚とジェーンの事を発表しました。


キャサリンからお互いを紹介され、初めて言葉を交わすロジャーとジェーン。

「突然の事で・・・。」と言葉に詰まるジェーンに対し、彼は本の話をします。

ギリシャの哲学者”プラトン”の書いた魂の不死についての書、”パイドン”の話題が二人の距離を瞬時に縮めました。

語学に長けたジェーンは、これを原語で読んでると言い、ロジャーは「ギリシャ語で?」と驚きを隠しません。

魂の不滅について目を輝かせながら急に熱を持って話し出すジェーンに、そんな彼女の態度が嬉しくもあり、自分も興味のある話であるがためにグッと身を乗り出して話し込むロジャー。

微笑ましい二人ではありますが、少々周りが見えていないようで「ジェーン、ここはお前の演説をするところではない!」とジェーンの父(神保悟志さん)に叱られてしまいます。

ハッと我に返る二人。ジェーンが謝ると「いえ、私が。」と膝を折り深く頭を下げるロジャー。

二人が友人になるのには、そんなに時間はかかりませんでした。


ロジャーは観客と舞台を結ぶ人ですが、ジェーンにとっては自分の居る宮殿の中と外の世界を結ぶ人でした。

彼女は胸に焼印を押された人々の行く末や、農民達の苦悩を彼から教わります。

多感で何事にも興味のある年頃の女の子。沢山の事を教えてくれるロジャーは、彼女にとって大切な存在でした。


貴族にも農民にも属さないロジャーをアタシは”自由な者”と感じてい、屋敷の中は退屈で同じ本を繰り返し読む事ぐらいしか喜びを見出せないと言うジェーンは”自由を求める者”と思いました。

自由な魂を追い求める者同士、二人は強く響き合います。


ある日彼らは、黒い鳥を見つけます。

物語の初めから終わりまでをずっと見ている”ブラックバード”。

ジェーンがラテン語で「私の声が聞こえますか?」と言う意味の言葉で話しかけると、その鳥が答えるように歌い出しました。

歌い始めの歌詞はラテン語だったのでしょうか。

青葉市子さんの歌は漂い、緩やかなその旋律で二人をそして客席を包み込みます。


ブラックバードもまた、どこにも属さない自由な存在。

不確かな存在でありながら、ジェーンとロジャーの人生の中では確かに時間を共にしています。

よくよく思い出してみれば、ジェーンもロジャーもブラックバードも他の登場人物達の中で浮いていました。


自由であると言う事は孤独であると言う事。

寂しい悲しい”孤独”ではなくて、誇り高く、自分の世界を持っているという事。


ジェーンを愛し目にかけていたキャサリン・パーはヘンリー8世の死後、エドワードの叔父にあたるトマス・シーモア(姜暢雄さん)と再婚し子供を授かります。

しかし出産と同時にこの世を去りました。

近しい人の死に生まれて初めて触れたであろうジェーンは、ロジャーがそばに居ても泣き崩れ取り乱してしまいます。



何も無い平和な日々であったのならば、時間の許す限り自分達の好きな分野の話をしたり、二人の毎日は穏やかだったはずです。

しかし、このキャサリンの死を期に運命は大きく動き出すのでした。




つづく。