更新が遅くなってごめんなさい。
決心させた男の続きです。
彼のaura(アウラ)への入店は、社会復帰の為のリハビリ的な要素を含んだものだった。
彼が「鬱病なんです…」と言った時でも、別段何も思わなかった。
このブログで相互リンクをしているの人の中にも鬱病を患っている友人達がいるが、共通して真面目、心がピュア、生きる事に一所懸命、相手を思いやる気持ちを持った人達。
そんな、友人達との交流から、鬱という病気に対する知識を少しもつ事ができていた。
このブログでも以前書いた『カッコウの巣の上で』というタイトルの記事もあるが…。
そして彼、稲(Ina)さんは、真面目で、頭の回転も速く、性格も素直。
話をしていても、話のキャッチボールはテンポ良く…そして話が弾む。
「稲さん、稲さんは人が好きでしょ?」
とオイラが聞くと…。
「えぇ…。鬱になる前までは好きでした。でも…鬱になってからは、人と会うのも人と話をするのも苦手になりました…」
静かな目をして彼は答えた。
「そうかぁ…。稲さんを見てて人が好きなんだなぁー。と思ったんだ…。この仕事、割と向いてるかもね。今は、身体を動かすのは、慣れてないから大変かもしれないけど…。楽しいでしょ?」
「えぇ、楽しいです」
清清しい爽やかな表情で彼は答えた。
気分で仕事をして、無責任な行動をとり、向上心の無い人達には、ペナルティを課す事を決定した。
別に厳しくしているつもりは無い。
仕事をするのに当たり前の事を要求しているのに過ぎない。
遅刻…。暇な時の店内の掃除…。もし覚えられないことはメモをとる。
ワガママを言うようなスタッフは、皆、辞めていなくなった。
どうしたらスキルを上げられるか…オイラは考えていたが…。
アホらしくなって考えるのは辞めた。
本人が悩んでも考えてもいないのに、オイラがいくら考え悩んでも意味が無い。
ペナルティを課したのは、白黒はっきりさせるためである。
やろうとするのか、やる気そのものが無いのか…。
結果、予想通りである。
人員が不足している現状で、更に人員不足になったが、オイラの気分はスッキリ爽やかなのは何故だろう。
稲さんから、来週のシフトに関する伝達の電話が入った。
「稲さん、悪いニュースがあるけど…聞いてくれる?」
「はい、なんですか?どうなされましたか?」
彼は、全く動じてない。
「あのさ…。月曜のランチ…俺と稲さんの2人きりでやろうと思うけど…。俺と2人でやってくれる?」
「いいですよ。あぁ…辞めたんですか?」
「仕方がないね。さすがに俺も切れた。我侭ばかりの向こうには何も無い。人員の補充は、努力する。最悪、月曜のランチは、俺と稲さんの2人だけの営業にになるけど…その時は、ごめんな」
「やりましょう!とにかく店を開けなければいけません。余りお役に立てないかもしれませんがお願いします」
彼の言葉は、全く濁ってはいなかった。
考える間もなくスッキリとそう言った。
嬉しかった。
こんな言葉を聞いたのは、本当に久しぶり!
こういう言葉がすんなり出てくる人は、リーダーを張れる人材だと思う。
「えー!2人ですか?……無理ですよ」
と言うのが相場であり、当たり前の返事だと思う。
仕事の出来る4人は、恐らくオイラがそう言ったら考えるだろう。
その状況での可能性を捜す。
しかし稲さんは、この店に来て1ヶ月も経っていない。
この答えに、正直驚いた。
ランチには、約50人以上の来店がある。
短時間の間に集中する。
クレームも出やすい。
そして、問題の月曜日をむかえた。
「シフトに入れる人はいなかった。ごめんな」
朝、稲さんにそう言った。
「はい。わかりました」
にごりも迷いも無い答え。
「お客様に迷惑をかけないために…。客席数を減らしてウェイティングルームを作る」
オイラが、そう言うと…。
「えっ!テーブルを減らすのですか?」
彼は、少しホッとした表情になった。
2名がけと4名がけのテーブルをはずして6名分のテーブルをはずして入り口近くにウェイティングのコーナーを作った。
40席あった席数を34席に減らした。
「もう、ひとつテーブルをはずすか?そうすれば、すんなりまわる」
とオイラが何気なく彼に問いかけた。
「いいえ、これでいいと思います。これ以上、席数を減らすと売上に影響します」
彼は、そう言った。
マジか?
彼の立場と状況、経験の少なさを考えたら、売上なんて考えている場合ではないはず…。
「凄いな…。そんな答えは、今まで俺の本当の片腕だった数人しか答えた事がないよ」
とオイラは呟いた。
彼は、嬉しそうに笑った。
ランチメニューは、すんなりと提供できるメニューに変更。
そして店を開けた。
パニックにはならなかった。
最初に取ったオーダーの料理を出し終わった頃から、オイラも料理を作りながらサービスに客席に行く。
オイラがサービスに出て行くと稲さんは、不安感から安心感へと表情を一変させた。
パスタを作る時は、サービスに出て行けない…。
「大丈夫か?」
とオイラが声をかけると…。
「ヤバイですぅー」
と答える。
「大丈夫!パスタが出来たら行くから、もう少し頑張れ! 君には出来る! 俺には、わかってる。だから頑張れ! 落ち着いて…焦らなくていいから」
「はい。わかりました!」
彼は、オイラが声をかけると…
下がりかけたテンションとモチベーションを自分で上げ始める。
誰でも出来る事ではない。
稲さんがオイラにむける信頼は絶大。
完全に信じきってくれている。
そう、思うと尚更に答えてやりたくなる。
最高のチームワークは、こんなところから生まれる。
東京に戻ってきて、初めて楽しいと感じた。
最高に楽しい!
それが自然と笑顔になっているのがわかった。
そう、これが原点。
そう、ここが原点。
オイラが、この仕事をやろうと決心したルーツの源がこの気持ち。
スタッフを信じきり、お客様に出来る事の精一杯を伝えたい。
終わった。
その日のランチタイムは、終了した。
「お疲れー! やったね! 楽しかったなぁー…」
オイラが声をかけると…。
「お疲れ様でーす! 出来るんですね!ふたりでも…シェフは、やっぱり凄いです」
生き生きとした清清しい笑顔で彼は、そう答えた。
「えっ? 俺は凄くないよ。凄いのは君! 俺が本当に凄かったら、この状況を生んではいない…」
オイラが答える。
「いいえ、凄いっす…。ノークレームで、いつもより何だか良い感じだったような気がします」
彼の顔には、達成感が溢れている。
この日のランチタイムの人時売上高は、5000円を超えた。
ファミリーレストランで良い数字とされているのは4000円。
人時売上高とは、売上÷労働時間数
生産売上指数のようなもの…
飲食業界での人時管理の重要な目安となる。
ある日…。
ふと稲さんの顔を見た。
輝いている、生き生きと…。
「いい顔してるなぁー。最初会った時と別人みたいだな…」
と呟くように声をかけると…。
「はい! 女房にも言われました。女房も本当に喜んでくれてます。シェフのおかげです。ありがとうございます」
満面の笑みで元気良くハッキリと言った。
「えっ? 俺は何にもしてないよ…。ただ、頑張れー!って言っただけ…。頑張ったのは稲さんだから…」
「いいえ、シェフのお陰です。いつも何だかカウンセリングを受けているみたいで…。鬱の薬も少なくなりました。朝と晩に飲んでいた薬を飲まなくてよくなりました」
「本当? 良かったなぁー! なんだか顔もしまってきたし…。痩せたんじゃない?」
「はい! 痩せました」
彼がここに来て頑張り始めてから、彼の人生そのものが好転し始めているように感じる。
鬱になって仕事を辞めて…
毎日毎日、暗闇の中をさまよっていたと言う。
光は何処にも見えなかったと…。
こんなにも能力の高い人を簡単に世の中の隅に追いやってしまう現代社会。
色々な角度から、もう一度、環境をチェックして考え直さないと…。
優れた心ある人が活躍する場もなく、社会の隅へ追いやられてしまう。
オイラの決心。
それは、原点からの再出発!
人がいないからといって、誰でも良いわけではない。
やる気があり、責任感を持ち、夢や目標を持っている人だけをスタッフとしてむかえる。
例え人がいなくても、作戦や良いメニューの組み立ては出来るはず。
やる気が無い人を使っても何も生まれない…。
かえってマイナス傾向にいってしまう。
店も会社も人が作るもの。
良い店には、良いお客様が集まる。
店や人を育てようとする…
愛情溢れたお客様が集まるお店にしなくてはいけない。
それには、心ある良いスタッフだけで頑張る必要があると心に決めた。
嬉しい話(この話の続編?その後のお話です)
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シェフの落書きノート 日記、記事の目次
決心させた男の続きです。
彼のaura(アウラ)への入店は、社会復帰の為のリハビリ的な要素を含んだものだった。
彼が「鬱病なんです…」と言った時でも、別段何も思わなかった。
このブログで相互リンクをしているの人の中にも鬱病を患っている友人達がいるが、共通して真面目、心がピュア、生きる事に一所懸命、相手を思いやる気持ちを持った人達。
そんな、友人達との交流から、鬱という病気に対する知識を少しもつ事ができていた。
このブログでも以前書いた『カッコウの巣の上で』というタイトルの記事もあるが…。
そして彼、稲(Ina)さんは、真面目で、頭の回転も速く、性格も素直。
話をしていても、話のキャッチボールはテンポ良く…そして話が弾む。
「稲さん、稲さんは人が好きでしょ?」
とオイラが聞くと…。
「えぇ…。鬱になる前までは好きでした。でも…鬱になってからは、人と会うのも人と話をするのも苦手になりました…」
静かな目をして彼は答えた。
「そうかぁ…。稲さんを見てて人が好きなんだなぁー。と思ったんだ…。この仕事、割と向いてるかもね。今は、身体を動かすのは、慣れてないから大変かもしれないけど…。楽しいでしょ?」
「えぇ、楽しいです」
清清しい爽やかな表情で彼は答えた。
気分で仕事をして、無責任な行動をとり、向上心の無い人達には、ペナルティを課す事を決定した。
別に厳しくしているつもりは無い。
仕事をするのに当たり前の事を要求しているのに過ぎない。
遅刻…。暇な時の店内の掃除…。もし覚えられないことはメモをとる。
ワガママを言うようなスタッフは、皆、辞めていなくなった。
どうしたらスキルを上げられるか…オイラは考えていたが…。
アホらしくなって考えるのは辞めた。
本人が悩んでも考えてもいないのに、オイラがいくら考え悩んでも意味が無い。
ペナルティを課したのは、白黒はっきりさせるためである。
やろうとするのか、やる気そのものが無いのか…。
結果、予想通りである。
人員が不足している現状で、更に人員不足になったが、オイラの気分はスッキリ爽やかなのは何故だろう。
稲さんから、来週のシフトに関する伝達の電話が入った。
「稲さん、悪いニュースがあるけど…聞いてくれる?」
「はい、なんですか?どうなされましたか?」
彼は、全く動じてない。
「あのさ…。月曜のランチ…俺と稲さんの2人きりでやろうと思うけど…。俺と2人でやってくれる?」
「いいですよ。あぁ…辞めたんですか?」
「仕方がないね。さすがに俺も切れた。我侭ばかりの向こうには何も無い。人員の補充は、努力する。最悪、月曜のランチは、俺と稲さんの2人だけの営業にになるけど…その時は、ごめんな」
「やりましょう!とにかく店を開けなければいけません。余りお役に立てないかもしれませんがお願いします」
彼の言葉は、全く濁ってはいなかった。
考える間もなくスッキリとそう言った。
嬉しかった。
こんな言葉を聞いたのは、本当に久しぶり!
こういう言葉がすんなり出てくる人は、リーダーを張れる人材だと思う。
「えー!2人ですか?……無理ですよ」
と言うのが相場であり、当たり前の返事だと思う。
仕事の出来る4人は、恐らくオイラがそう言ったら考えるだろう。
その状況での可能性を捜す。
しかし稲さんは、この店に来て1ヶ月も経っていない。
この答えに、正直驚いた。
ランチには、約50人以上の来店がある。
短時間の間に集中する。
クレームも出やすい。
そして、問題の月曜日をむかえた。
「シフトに入れる人はいなかった。ごめんな」
朝、稲さんにそう言った。
「はい。わかりました」
にごりも迷いも無い答え。
「お客様に迷惑をかけないために…。客席数を減らしてウェイティングルームを作る」
オイラが、そう言うと…。
「えっ!テーブルを減らすのですか?」
彼は、少しホッとした表情になった。
2名がけと4名がけのテーブルをはずして6名分のテーブルをはずして入り口近くにウェイティングのコーナーを作った。
40席あった席数を34席に減らした。
「もう、ひとつテーブルをはずすか?そうすれば、すんなりまわる」
とオイラが何気なく彼に問いかけた。
「いいえ、これでいいと思います。これ以上、席数を減らすと売上に影響します」
彼は、そう言った。
マジか?
彼の立場と状況、経験の少なさを考えたら、売上なんて考えている場合ではないはず…。
「凄いな…。そんな答えは、今まで俺の本当の片腕だった数人しか答えた事がないよ」
とオイラは呟いた。
彼は、嬉しそうに笑った。
ランチメニューは、すんなりと提供できるメニューに変更。
そして店を開けた。
パニックにはならなかった。
最初に取ったオーダーの料理を出し終わった頃から、オイラも料理を作りながらサービスに客席に行く。
オイラがサービスに出て行くと稲さんは、不安感から安心感へと表情を一変させた。
パスタを作る時は、サービスに出て行けない…。
「大丈夫か?」
とオイラが声をかけると…。
「ヤバイですぅー」
と答える。
「大丈夫!パスタが出来たら行くから、もう少し頑張れ! 君には出来る! 俺には、わかってる。だから頑張れ! 落ち着いて…焦らなくていいから」
「はい。わかりました!」
彼は、オイラが声をかけると…
下がりかけたテンションとモチベーションを自分で上げ始める。
誰でも出来る事ではない。
稲さんがオイラにむける信頼は絶大。
完全に信じきってくれている。
そう、思うと尚更に答えてやりたくなる。
最高のチームワークは、こんなところから生まれる。
東京に戻ってきて、初めて楽しいと感じた。
最高に楽しい!
それが自然と笑顔になっているのがわかった。
そう、これが原点。
そう、ここが原点。
オイラが、この仕事をやろうと決心したルーツの源がこの気持ち。
スタッフを信じきり、お客様に出来る事の精一杯を伝えたい。
終わった。
その日のランチタイムは、終了した。
「お疲れー! やったね! 楽しかったなぁー…」
オイラが声をかけると…。
「お疲れ様でーす! 出来るんですね!ふたりでも…シェフは、やっぱり凄いです」
生き生きとした清清しい笑顔で彼は、そう答えた。
「えっ? 俺は凄くないよ。凄いのは君! 俺が本当に凄かったら、この状況を生んではいない…」
オイラが答える。
「いいえ、凄いっす…。ノークレームで、いつもより何だか良い感じだったような気がします」
彼の顔には、達成感が溢れている。
この日のランチタイムの人時売上高は、5000円を超えた。
ファミリーレストランで良い数字とされているのは4000円。
人時売上高とは、売上÷労働時間数
生産売上指数のようなもの…
飲食業界での人時管理の重要な目安となる。
ある日…。
ふと稲さんの顔を見た。
輝いている、生き生きと…。
「いい顔してるなぁー。最初会った時と別人みたいだな…」
と呟くように声をかけると…。
「はい! 女房にも言われました。女房も本当に喜んでくれてます。シェフのおかげです。ありがとうございます」
満面の笑みで元気良くハッキリと言った。
「えっ? 俺は何にもしてないよ…。ただ、頑張れー!って言っただけ…。頑張ったのは稲さんだから…」
「いいえ、シェフのお陰です。いつも何だかカウンセリングを受けているみたいで…。鬱の薬も少なくなりました。朝と晩に飲んでいた薬を飲まなくてよくなりました」
「本当? 良かったなぁー! なんだか顔もしまってきたし…。痩せたんじゃない?」
「はい! 痩せました」
彼がここに来て頑張り始めてから、彼の人生そのものが好転し始めているように感じる。
鬱になって仕事を辞めて…
毎日毎日、暗闇の中をさまよっていたと言う。
光は何処にも見えなかったと…。
こんなにも能力の高い人を簡単に世の中の隅に追いやってしまう現代社会。
色々な角度から、もう一度、環境をチェックして考え直さないと…。
優れた心ある人が活躍する場もなく、社会の隅へ追いやられてしまう。
オイラの決心。
それは、原点からの再出発!
人がいないからといって、誰でも良いわけではない。
やる気があり、責任感を持ち、夢や目標を持っている人だけをスタッフとしてむかえる。
例え人がいなくても、作戦や良いメニューの組み立ては出来るはず。
やる気が無い人を使っても何も生まれない…。
かえってマイナス傾向にいってしまう。
店も会社も人が作るもの。
良い店には、良いお客様が集まる。
店や人を育てようとする…
愛情溢れたお客様が集まるお店にしなくてはいけない。
それには、心ある良いスタッフだけで頑張る必要があると心に決めた。
嬉しい話(この話の続編?その後のお話です)
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