Chef's Note

『シェフの落書きノート』

決心させた男

2005-12-18 | 自由 気ままな独り言
料理や素材等のトピックスや昔のエピソード等は、ブログに書いてきた…。
現在、直面している問題も少し触れてきた。

今、オイラは、自分が今いる店…aura(アウラ)を方向転換させようとしている。

その決心をさせたのは、ひとりの鬱病患者と診断された彼。

約3週間前に人の紹介で彼は、アルバイトとしてきた。
1年と3ヶ月の間…
仕事から離れていた。

年齢は、40歳。
IT関連の仕事をしていた時に上司との人間関係から鬱になったという。

最初に会った時。
彼の目は虚ろで焦点が定まらないような感じに見えた。
その時は、ランチタイム前で忙しく、話している時間もなかったのだが…。

その翌日の朝、彼は出勤してきた。

オイラは、彼に声をかけた。
「焦らなくていいですよ。
失敗してもいいですよ。
出来れば沢山失敗して、そこから学んでいきましょう。
ただ、お客様にお水をかけてしまったり、熱い料理をかけてしまったりしないように気をつけて下さい。
伸び伸びと元気良く、楽しんでやってくれればいいです」

彼は、「はい」と返事をした。

接客係のパートの人に「教えてあげて…」
と一言いってオイラは、ランチ前の仕込みに戻った。

初日は、洗い場が重点の仕事。
慣れないせいもあって仕事は遅いが…。
片付け場所や皿をセッティングする場所は、一度教えるとすぐに憶えた。

2日目…
朝9時20分。
店の前で彼が待っていた。
「早いねー。どうしたの?10時からの出勤時間だから10時前に来ればいいんだよ」
とオイラが言うと…。

「仕事、まだ覚えていないので少しでも早く来ようかと…。
それと息子を幼稚園に送って行ったので…」
と彼が言った。

アウラでは、初めて!こんな人。

仕事が終わると着替えの為。
オイラがいるスタッフルーム(狭いですが…)に来た…。

「お疲れ様。どうだった?仕事…」
とオイラがIさんに聞いた。

「良くわからないことも多いですが…」

「そりゃそうだよ…2日目だもん…。
まだ雰囲気になれてないし…。
気楽に気楽に…。
焦らなくていいよ。
大丈夫!出来るから…昨日見てて思ったけど…君には出来るから不安にならなくていいよ。
仕事に来る基本が出来てる。大丈夫!」

Iさんが言った。
「昔…上司とうまくいかなくて…。
今は、鬱病なんです。
それで会社を辞めました」

「あぁ…。紹介者から聞いた。
知ってるよ…。
鬱病とか過去の事なんか気にしなくていいよ。
そんなの関係ないじゃん…。
俺のブログにも鬱の人とか遊びに来てくれるし…俺はその辺の知識薄いけど…。
偏見なんてないし…鬱の人から教わる事も沢山あるよ。
だから気にしなくていいよ。
今は、出来る事をして、お客様がまたきて下さるよう頑張ればいいんだから…。
失敗して経験して…。
もし君が失敗したら、失敗のケツは俺が拭くから大丈夫。
ただ同じ失敗はしないようにしてくれればいいし…。
思いっきりやっていいよ」

彼は、うなずいて「今日もありがとうございました」
と言って柔らかい表情で帰っていった。
彼とは、特に仕事が終わったら少し話をするよう心がけている。

3日目あたりから接客もするようになった。
接客の仕事は、20年前に学生アルバイトを経験していたが…
なにしろ、それは20年前の話。
不安な顔つきだったが…
「大丈夫!出来るから…。
不安にならなくていいよ。
不安を期待に変えるようにしようよ。
失敗してもいいから…」
オイラが声をかけると…目が優しくなった。

5日目が経過した頃から…
彼の目は輝き始めた。
生き生きと仕事をするようになった。
最初に会った時の彼は、もうすでにいなかった。
全くの別人である。

アウラのスタッフ…って…
元月光食堂にオイラが初めて来て約10ヶ月になるが…
良いスタッフって4~5人しかいない…。
学校が始まったりして現在来れないスタッフが2人。
週に1~2日しか来れない人が2人。
ふぐと日本料理がやりたくて辞めたのが1人。

大体、遅刻の常習犯が80%…。
この前、辞めた人なんか5日の内4日は遅刻。
それも、30分~1時間なんてザラ…。
はっきり言って…速攻クビになって当たり前。
(人手不足って辛いねー!)
辞める時に「私は遅刻少なくなりました」
だって…まだ遅刻してるじゃん…。

電話をかけて起こさないと、いつ来るのかわからないなんてのもいた。
出勤してきても寝起きで寝ぼけて動けないままランチが終わる。
「起きられないの?」
なんて聞くと…逆切れしてくるお子ちゃま。
この子…「学校が忙しいから…」
なんて言って自分のシフトに穴をあけたまま辞めちゃった。
このシフトの穴を埋めるのに、どれだけ苦労した事か…。
つい最近やって来て…
「手伝わせて下さいよぅ…。やる事なくて暇なんです」
だって…。
あ~ぁ…こんなの相手にしてきたの?…オイラ。
「やる」って言って何度信じてきた事か…この子には。
その都度4回も裏切られて…
はたまた…
少し慣れるとオイラを批判するだけのアホな奴。
勘弁だよ…。

トイレ掃除してって頼むと…
「トイレ掃除なんか初めてした。
これからもトイレ掃除するのなら辞めようかな…。
友達がバイトしている所なんかトイレ掃除しなくていいし…」
てのもいた。

いつも変わらない朝のスタンバイ…。
この手順をすべて忘れてしまう50歳代のおじさんとおばさん。
「キッチンの壁に書き出しますから、それを見てやって下さい。」
と言うと…。
書かなくて良いという。
「では、メモをとって下さい」
と言うと…。
「老眼で、メモはとれません」
と言う。
毎日、やる事を言ってくれという。
…あーぁ…。
こんなのと仕事した事ありますか?

オイラの経験の中でも初めてですよ…。

はっきり言って最低レベルだよね…これ。


オイラ…自分の指導の仕方が悪いの?
なんて自問自答した時期もあったが…
もう辞めた…こんなアホ・スタッフを使うの…もう辞めた。

うちのスタッフって誰もが認める良いスタッフか誰もが呆れる最低のスタッフか…
どっちか…笑。
あなたはどっち?
てな感じ。

そして、今…
そんな最低スタッフの在籍はない。
深刻な人手不足なのは変わりないが…
そんなスタッフがいなくなってみると…
オイラ…正直ホッとした。
気持ちの中に安堵感が広がっている。
胃薬を飲む回数が激減した。
食べれなかった食事が食べれるようになった。

そして冒頭の彼。
彼は、迷うことなく良いスタッフ。
合格点を遥かに超えている。


予定よりも長くなったので…次号へ






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