> 前回は、円高環境下で進展する「産業空洞化」によって、財政政策の波及効
> 果に「水漏れ」が生じる可能性を考察してみました。
▼財政政策の効果を棄損するもの~米五輪ユニホーム騒動からの考察
http://blog.goo.ne.jp/ayakikki/e/ff7fc11aaf1dfb09c15d7bc0e9a4e284
今回は、同じ「財政政策の効果を棄損するもの」と云うテーマで、もっと一般
的に議論されている要因の影響を考えてみましょう。
> まずは、アダム・スミスの時代から議論されてきた「クラウディングアウト」
> についてですね!
そう、小さな政府を理想として「夜警国家」の概念を唱えたアダム・スミスの
時代から、政府活動による「民業圧迫」と云う考え方は既に存在していました。
> 本来、民間部門で活用するはずであった資金を政府が吸い上げて、財政支出
> に用いる事は、民間の経済活動を阻害する行為だと考えた訳ですね。
資金量が一定で、民間がこの資金を積極的に活用したいと考えている経済状況
であれば、この主張は正しいと考えられますよね。
> 今の日銀は、金融緩和政策を継続しているにもかかわらず、「民間に資金需要
> が無い」と言って困っている実情ですからねぇ…。
> 当分の間、クラウディングアウトなど起こりそうも無いです、実際。
本当は長引く不況で消費者金融に対する潜在需要は有るはずなのですが、先の
規制強化によって「貸出規制」されてしまっていますから、顕在化しないのです。
> なるほど、代わりに生活保護が激増してしまいました。
そもそも、クラウディングアウトは民間投資が活発に動いている経済状態、つ
まり「完全雇用状態」において議論されるテーマなのです。
現在の様なデフレは、民間投資が動かない事が原因で生じる問題ですから、当
面は論外なのだと理解できると思います。
> 2番目の「マンデルフレミング効果」って何ですか、Bro?
1999年にノーベル経済学賞を受賞したロバート・マンデルと、ジョン・マーカ
ス・フレミングによって作られた経済モデルによって、導かれた経済効果です。
この「マンデルフレミングモデル」では、変動為替相場制の下で、財政政策の
効果は通貨高による輸出減少によって相殺されてしまう事と、むしろ金融政策
が有効に働く事が示されています。
> えっ?
> では、財政政策は効果が無いんですか?
「輸出減少によって相殺されてしまう」のです。
つまり、財政政策自体は有効需要を増大する効果を生じます。
> でも、輸出の減少が、増大した有効需要を減らしてしまうのでしょう…?
「通貨高」、つまり円高を通じてね。
> …円高なんて、今でも生じてますよね…???
そう、財政政策が金利を上昇させて、それが円高を誘導する前提なのです。
財政政策が金利を上昇させる効果を生じるのは、ケインジアンのIS-LM分
析と同じです。そもそも、「マンデルフレミングモデル」はIS-LM分析を前
提にしていますからね。
> では、変動為替相場制の下で「金利上昇が円高を誘導する」と云う条件が、
> モデルに追加された部分ですよね?
そう、「マンデルフレミングモデル」は、IS-LM分析を開放系(自由貿易環
境)に拡張して作られた経済モデルなのです。
> でも、「金利上昇が円高を誘導する」と云うのは、何か我々の経済実感と異な
> りますよね…今の日本は、「低金利下の円高」が常態化しています。
> スペインなどでは、「金利上昇でユーロ安が深刻化」しているし…?
そう、資金の動きが教科書どおりの市場原理とは異なりますよね。
通常は「マンデルフレミングモデル」の様に、高金利を求めて資金が動くはず
ですが、今はまるで資金がリスクから逃げる様に、低金利の方へと動きます。
> なるほど、つまり「国際金融市場の不安」を反映した動き方ですね!
国内で云う「銀行取付騒ぎ」の様な集団心理が働いている訳です。
> 「欧州ソブリン危機」の影響下にあるのですね…国際金融市場は。
ミクロの経済主体は、各々リスクを回避する合理的行動を選択している訳です
が、結果的にマクロで見ると危機を深刻化する様な効果が生じています。
一種の「合成の誤謬」と云える状況かもしれません。
> 結局「マンデルフレミングモデル」も有効ではないみたいですね、現在の国
> 際金融市場の環境では。