> 早いものですね!
> 去年「白川デフレ」の真っ只中に、古典落語『花見酒』のパロディ版を書い
> てから、もう一年が経つのですねぇ…。
※まだ読んでいない方は、こちらから先にどうぞ
▼◇【現代落語】大東京人・熊と与太の花見酒
http://blog.goo.ne.jp/ayakikki/e/97b4c5aaa19fd560937824f564bb68cb
去年のお花見では、折角の東京スカイツリー・オープンにも拘らず、不景気な
ご時勢を反映して、今一つ盛り上がりに欠けましたけどね。
今年は記録的な早咲きの桜となりましたが、アベノミクス景気につられてか、
随分と人出も大勢で、賑やかに盛り上がった様子ですよ!
▼東京で桜が満開となって初の週末 桜の名所は花見客で混雑(13/03/23)
http://www.youtube.com/watch?v=2lWG_kxsHYk
▼花見商戦にアベノミクス効果 弁当、飲料の売れ行き好調
http://newsbiz.yahoo.co.jp/detail?a=20130324-00000001-biz_fsi-nb
> それで、今年も「新作落語」の続編ですか…。
> 熊五郎と与太郎の子孫って、ドバイで「水酒」売捌いて、大儲けしているん
> じゃなかったっけ…?
「アベノミクス」は、今や世界中の注目を集めていますからね!
彼らの耳にも届かないはずがありません…。
早速、今年こそは「生まれ故郷の大東京で一旗挙げよう」と、再生したJAL
のファーストクラスに乗り込んで、帰国したお噺です。
> はぁ…去年は、「機内食無しの格安航空便」でしたけどね!
> まぁ、儲かっているならそれでも良いです。
> 東京の街の賑いも、去年とは随分様変わりしましたから。
> これから、どんな展開になるのか楽しみですね…早く始めて下さい!
では、早速…始まり、始まり…。
(出囃子)…とてちんてんしゃん…
昨年の花見は、不景気のどん底で金も廻らず、とうとう貧乏人ばかりとなった
大東京に見切りをつけた熊五郎と与太郎の子孫達で御座いましたが、今年は、
アベノミクスのお陰で生まれ故郷の東京が再び活気づいていると云う、ネット
の便りを伝え聞きまして、やはり花見は下町とばかりに喜び勇んで帰ってまい
りました。
久しぶりの東京で、空港に降り立った熊五郎と与太郎の会話です。
与「兄貴、やっぱりファーストクラスは違うね!
ドバイへ行く時は自前で持ち込みだったのに、サービスで色々な酒が楽し
めて…すっかり酔っぱらっちったよ…俺ら…。」
熊「ってやんでぇ、馬鹿野郎。
行く時ゃ、へべれけに為って酔いち暮れやがったくせに、別嬪のスッチー
…じゃねぇや、CAに勧められた途端、緊張しちまって、あまり酔ってね
ぇじゃねぇか!情けねぇ野郎だ…ったく。」
与「そう言う兄貴こそ、口先がシッカリしてるよな!
ドバイまで飛んだ時は、呂律が回らなかった癖によ…、人の事言えるかよ!
…ああっ勿体ねぇ!…もっと沢山注文して呑んどくんだった!」
熊「まぁ、これから向島に出て商売始めんだ…あまり酔っても居られねぇや。」
与「そうだ兄貴、あの仕入れの酒屋の親父…まだ商売やってんのかね?
とっくに、看板畳んじまってるんじゃねぇだろうか?
未だ、去年のツケが残ってたな…確か…。」
そんな話をしながら、懐かしい下町まで来た二人で御座いましたが、昔馴染み
の酒屋の変わり映えのしない店先を眺めて見ると、生まれ故郷の懐かしさに、
想わず…涙ぐむ処で御座いました。
服の袖で一振り眼がしらを拭った熊は、先に立って酒屋の暖簾に飛び込みます。
熊「御免よ!親父居るかい?」
主「おっ!…随分と見無ぇ顔だと想ったら、熊じゃないか!
お前ぇ…外国に行ったんじゃなかったのかい?
何でも、ドバイとやらで大金稼いで、今じゃ御大尽様だと聞いてたが?」
熊「おぅ…向島の桜が見たくてよ、今帰ぇったんだ… I am back. …さね!
ところで、去年のツケ…この万札で取ってくんな、釣りは要らねぇよ!」
主「何か、久しぶりに見たら、随分と垢抜けた物言いだけどなぁ…。
生まれながらのオッチョコチョイだけは、直らねぇやね。
ツケは丁度一万円なんだ…鼻っから釣りなんか無いよ!」
熊「ちぇっ、相変わらず不愛想な親父だな。
『ありがとよ!』と一言、言えないもんかね…ったく。
…ま、愚痴はどうでも良いからよ、今年も花見酒の仕入れに来たんだ。
ここに十万円あるからな、これで樽酒売ってくれ…上等の奴、頼むよ!」
主「おおっ、流石に御大尽様だね。…今年は威勢が良い様だ。
良っしゃ!ここに在る、新製品のアベノミクス酒を全部持って行きな!」
熊「何だい…そのアベノミクス酒って?」
主「今年、日本で流行のアルコール度数2%増量の日本酒だよ!
『飲めば直ぐに酔っぱらう』と云う速効性の高い酒なんだ、『アベッ酒』と
云う…。」
熊「何か、久しぶりに帰ってくると、随分「怪しげな酒」が流行ってるなぁ…。
ま、好いや…お花見だからな、パッと景気付けしてくれる事が大切だね!
これ全部、貰ってくよ…領収書と釣りくんな!」
主「何だい…釣りは、要ら無いんじゃないのかい?」
熊「馬鹿言っちゃいけねぇ…これは、大切な商品だからな!
未だ儲かってもいねぇのによ、一円でも馬鹿にしちゃ駄目だよなっ!
商売人失格だよ、その態度…。」
主「けっ、また随分偉そうになって帰って来た者だね…これゃあ…。
ま、シコタマ儲けて来な…今年はアベノミクス景気で賑っているそうだ!」
そんな遣り取りの後、二人は早速『アベッ酒』の樽をレンタカーの荷台に乗せ、
向島の花見会場に陣取りました。
噂通り、今年は大勢の人出で一杯のうえ、豪華な花見弁当や世界中のワインな
んぞも色々と出回っている様子です…。
商売敵も多く出ているせいか、熊と与太の移動酒屋には客が集まりません。
未だ午前中なのに、二人は少々焦って居る様子です。
熊「…参ったな、こりゃ去年と違って、皆豪華な弁当を持参してやがる…。」
与「今年は、金貸しの頭領も黒川の旦那から、白田の旦那に代わったからねぇ。
何でも、派手に大金をバラ撒く噂で、皆、懐の心配をして無ぇらしい…。」
熊「けっ、これだから去年、俺は黒川の旦那に言ったんだよ!
呑兵衛の懐に銭持たせりゃあ、それだけで需要は大きく膨らむってね!
黒川の旦那は『需要が無い』の一点張りで、聞く耳持た無かったけどよ。」
与「今、花見客は皆、手前ぇ持ちの酒で盛り上がってるみてぇだなぁ…。
昼過ぎになって、手持ちの酒が底を突く頃が狙い時かもしれねぇよ。」
熊「夕刻になると商売敵は皆、安売り合戦で売り切ろうとするからな!
午前の内に、何とか粗方の商品を捌いちまいたいなぁ…。
少し早いが、今の内に少し値下げして売っちまうか…?」
与「そう言や兄貴、酒屋の親父が客寄せ用にと、こんな旗を寄こしたよ…。」
熊「何々…『午後から2%値上げします』だと…?
馬鹿な親父だな、値上げなんぞ遣ったら、益々売れなくなっちまうぜ!
洒落てる場合じゃないんだ…商売解ってんかよ、あの親父!」
与「…でも、今は未だ値上げし無ぇんだから、宣伝してみようか?
午後になってから、引っ込めれば良い話だし…。」
客の心理と云うものは、実に不思議なもので御座います。
先程から気になっている『アベッ酒』の「値下げ」を待っていた呑兵衛達は、
意外にも「午後から値上がり」すると聞いて、ぞろぞろと移動酒屋の廻りに集
まり出しました。
客「おっ、これはまた強い酒だね!…中々上等な舌触りだし…。
口先でツルッと滑って、コクッと呑めそうな…そんな感じかな。」
熊「へえ…何せ、アルコール度数2%増量の大吟醸ですからね!
これでお値段は「据え置き」ですから、今がお値頃です!
『午後には2%値上げ』しますんで…もう一杯如何です?」
客「おう…じゃ売り切れない内に、もう一杯貰おうか!」
そんな具合で、『飲んで直ぐに酔っぱらった』花見客が移動酒屋の周りで大騒ぎ
を始めたものですから、速効性の高い『アベッ酒』は大人気です!
また、来日して花見会場でワインの品評会を催していた超有名ソムリエまでが、
『アベッ酒』を一口味見して絶賛した事で、大ブレーク!
勢いづいて、午後には徐々に値上げを敢行しましたが、客足は増すばかりです。
ついに増量分のアルコール度数よりも高い10%にまで値上げを行った事で、
ようやく少し客足が遠のきましたが、『アベッ酒』の売れ残りはもう僅かです。
与「兄貴…そろそろ残りは俺達の分だよね!
もう店仕舞いも近いし、そろそろ値下げして、俺にも一杯売ってくれよ!」
熊「そうだなぁ…俺もそろそろ呑みたい気分だけどよ…。
しかし『インフレ期待』って、凄げぇ効果だよなぁ…魂げたよ!
値段は「据え置き」でも、不思議と『お値頃』な気分になっちまう…。
この調子で、明日はひとつ、今日の倍の値段で売りてぇよな!
よしっ、今の内に五割増しに値上げしておいて、明日からの「値上げ」の宣伝
だけやっとくか!」
そう言って、値札を書き換えていた二人のところへ、たった今ひと仕事終えて、
これからやっと夜桜見物とばかりに、身なりの良い御大尽がやって参りました。
客「おや、これが評判の『アベッ酒』かい?
…良かった、未だ酒は残っていた様だね!
何々…『品薄のため明日から倍に値上げ、本日大特売!』かぁ。
じゃ、残ってる商品を全部貰おうかな。」
与「えっ、これは俺達の分…じゃなかった、お客さん本日はもう店仕舞いで…。」
客「だから、今日の残りは私が全部買ってあげるよ。
夜桜は、未だこれからだからねっ!…いくらだい?」
熊「おい、与太郎…お客様が折角の五割増し…じゃ無ぇ、『買いたい』と仰ってんだ。
俺達も、今じゃいっぱしの商売人なんだからな!
気持ち良く売って差し上げろ。」
与「でも兄貴…これを売ったら、俺達の酒が…。」
客「何だ…お前さん達もこれから夜桜見物かい?
じゃ、欲しけりゃ後で私の酒を分けたげるよ…お代を置いて行くよ!」
嬉々として言い放ったその御大尽は、恨めしそうな与太郎の視線もそこそこに、
残りの『アベッ酒』を樽ごと持って行きました…。
とうとう、大盛況の内に『アベッ酒』を見事完売して移動酒屋の店仕舞いへと、
一旦帰った熊五郎と与太郎は、桜がライトアップされた夜桜会場へと再び戻って
来まして、先程の御大尽の姿を探しておりました…。
すると何と、客だと思っていた御大尽は、『アベッ酒』を見物客相手に売捌いて
御座います。
与「やっと見つけたよ、もう腹ぺこだ…俺いらにも『アベッ酒』売ってくれ!」
主「もう、あれから何度も値上げしたからねぇ…これがとうとう最後だよ。
有金を全部置いて行きな、お前さん達に残しといたんだから…。」
たった一日でバブル景気に咲いた、向島の桜のお噺で御座いました。
そろそろ、御後が宜しい様で…。
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▼夜桜と東京スカイツリー
http://photo.sankei.jp.msn.com/panorama/data/2013/0326sakura/