
日曜の文章教室。町の集会所にはコの字型に机が設置されている。生徒は十二人。おじさんやおばさんたちばかりで、ヤングは俺だけだ。先生は五十代半ばの男性。先生を「ジーパン先生」って呼んでいた。ジーパンが短い足に似合っていたのだ。
まず教わったのは、「形容詞と常套句を使うな」だ。
「けいようしって?」
俺の右隣のおばさんが俺に聞いてきた。俺だって分からないのに答えようがない。
「じょうとうくって、なによっ」
半分怒ったようにそのおばさんが聞くから、
「先生の話をよく聞けば分かりますよ」と言ってやった。
先生はたとえ話を使って説明している。
「『綺麗な女性』は形容詞と思いますか、それとも常套句と思いますか?」
先生が、生徒をぐるりと見た。みんなが黙っている。隣のおばさんの視線が、自分の膝にある手から斜めに俺の顔に移動してきた。
「イワタロコ君」
先生が俺に答えろと言うように頷いた。
「ぼ、ぼくは、好きです」
と、俺は答えてしまった。みんなが一斉に笑った。先生はちょっと眉を寄せたけど、「そう。私も好きですよ」と言った。
それが文章教室の第一回目の授業。それから三年。書くことが好きだから、さんざんな批評や意見、感想にもめげずに続けて来たのだが、ここへきて、迷いが出てきた。
社会人になって時間がなくなったこともあるが、それは言い訳に過ぎない。
ジーパン先生が言った。
「批評は厳しいものです。それに負けていては『元も子もなくなる』と言うものです」

著書「夢幻」収録済みの「イワタロコ」シリーズ35作です。
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