重罪
道に迷って入り込んだ村で、お婆は一人の女の裁きに遭遇した。村人は、他国の人なら冷静な判断を下せるだろうと、お婆に、協力してくれないかと頼んだ。
「手を下さなくっても、殺人罪だ。想像の中ででも、息子の首に紐を巻いたとなれば、殺意はあったのだから」
「いやっ。それは母親の愛情がそうさせたのでしょう。絶対無罪だ。あくまでも心の中での事ではないですか」
「それに、覆い被さったらと思ったとも言うではないか」
「確かに。身動きの出来ない子供に被されば、窒息の可能性はあります」
「でしょう。だから殺人罪だ」
告発人の神主が御幣を振り回した。
「地鎮祭じゃあるまいし、御幣なんぞ振り回すなっ」
弁護側にいた男が野次った。
「確かに、殺人罪に値する想像だ。だがなぁ、足萎えの息子が明日をも知れぬ病の時だと言うし、不眠不休で看病していた時だと言うし。無罪だ。無罪」
弁護側の坊さんが数珠を鳴らした。
「うちのばぁさんの七回忌にはまだ早い」
神主側の女が冷やかした。
裁きの場となった庭の隅から、這ってくる男の子がいた。それには誰も気がつかない。自分たちの主張を通そうと、大声を出し合っていた。
男の子は身を縮めている母親にやっと近づくと、膝に手を置きそっと撫でた。母親が息子に詫びている。
「おばば、あんたの考えは……」
村の人たちはお婆が口を開くのを待った。
お婆は、ついに何も言えなかった。
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