![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/23/4d/285094c2835abc5652f4a1423d8bc7a5.jpg)
心療内科の診察室。橋口を診る三十代半ばの女医のつり上がった目は、黄色みがかった茶色をしている。
「先生、唇がムズムズ、ピクピクするんです」
「いつ頃からですか」
女医はカルテに何やら書き込みながら聞く。
「ええーっと……」
――確か久美子とつき合いだしてからだ。
「どんな時、主にそうなりますか」
――友達と会うとなる。特に女にもてる村瀬の前だと、尚更ムズムズがひどくなる。
「唇が意志に反して、勝手に動き出そうとするんですね?」
「ええ、そうです。」
「今まで女性とつき合ったことは?」
――ない。久美子が初めてだ。結構みんなの注目を浴びている女なんだ。その女とオレは。
橋口の唇が痙攣し始めた。薄い唇がめくれて動き出し、滑りのある液体が流れた。
「治療のためですからはっきり言いますが、この症状は、経験不足の、特に男性が多くかかる困った病気です。物事を誇張して言ってしまうとか、無いことを、あたかも実際にあったような気になったりして、他人に迷惑を掛けてしまう病気なんです」
――そう言えば、久美子が……。
「まず、ご自分を客観的に見て頂きます。こちらの鏡を見て下さい」
女医が、壁側に向けてあった大きな鏡を橋口に向けた。
「ご自分をよーく知ることが大切です」
橋口は、自分の全身をじっくり見た。三十六年見慣れた自分の姿に違和感はない。
「しっかり目を開けて見て下さい」
女医が険のある言い方をした。眉をひそめる久美子を思い出した。
著書「夢幻」収録済みの「ステタイルーム」シリーズです。
主人公はそれぞれの作品で変わります。
楽しんで頂けたら嬉しいです。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
別館ブログ「俳句銘茶処」
https://blog.ap.teacup.com/taroumama/
お暇でしたら、こちらにもお立ち寄りくださいね。
お待ちしています。太郎ママ
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7d/21/e14c7d72030e1b7c827c08bf127ebcff.jpg)