紫陽花記

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別館★写真と俳句「めいちゃところ」

コロナ禍の舞踏会夏マスク

2021-06-27 06:34:08 | 「とある日のこと」2021年度
 6月20日(日)曇り
アキラ氏の夏季ダンスパーティーに参加。30人余の参加者。
コロナ禍の会なので、マスク着用と、手指消毒や換気などの感染予防対策を考慮した上のパーティー。
本日のプログラムは3部に設定。フリータイムを経て、一部からデモンストレーション、トライアル、フリータイムという順番で進行。
今回もアキラ氏のパートナーが司会進行係を手際よくこなしてくれました。こういう縁の下の力持ちが居ることに感謝です。
スタッフの皆さんは、それぞれ個性的で力強いリーダーと、しなやかな美しいパートナーです。
ゆったりの曲から軽やかな曲まで・・・非日常の空間に、コロナ禍のストレスや諸々の事柄をも忘れさせてくれました。
私自身は、ソシアルダンスをヨチヨチながらも踊れたことに感謝。

同じ年齢の人と比べると、身体の柔軟さや運動量の多さにはまだ自信がある。とは言え、年齢というものは正直でもある。
デッキ工事が終わった翌日に、乱れた庭の整備に1日かかった。その疲れが解消しないまま、翌日は、予定してあったホールへ踊りに行き、そして、その翌日のパーティー参加。歯茎が腫れるほど疲れ切ってしまった。
身体の疲れが取れるまで2,3日思考力が動かなかった。
はてさて、毎回の如く、次回の参加が出来るのかとの思いに至る。


本日のスタッフダンサーさんたち
静止画を取り損ねるくらい楽しくて、下3枚は動画から取り込みましたので、不鮮明です。ごめんなさい。


アキラ氏パートナー


K氏と太郎ママ


アキラ氏と太郎ママ



(7) 刺身

2021-06-23 06:51:38 | 夢幻(イワタロコ)


「祖母ちゃん、弁当は頼んでありますからね」
 土曜日の朝。お袋が出がけに言っているのが、階段を伝って聞こえてきた。
「どこへいくんだ」親父が聞いた。
「あなたは、ゴルフ。イワタロコはどっかへ行くんでしょ? 私は友だちと……」
 その後の言葉は聞こえない。
 昼近くに目覚めた。階下に下りていくと、祖母が一人でテレビを見ていた。
「休みだって言うのに、デートもないのかい。ああ、二人とも出かけたよ。また、私には弁当だってさ。有り難いと言えば有り難いが。気を利かせて頼むんだろうけど、やだね。弁当なんて」
 祖母は俺に言うってことよりも、独り言に近い言い方をした。
「俺、出かけるけど。その前に何か買ってこようか?」
 祖母の目が輝いた。
「お前、優しいねぇ。そうだねぇ、う~ん、刺身買ってきておくれよ。ご飯はチンすりゃぁ温かくなるから」
「刺身って何の?」
「ま・ぐ・ろ」

 スーパーから刺身一パックを買って帰ると、友愛弁当が届いていた。
「毎回同じような物が入っている。変えようがないのかね。まっ、贅沢は言えないが」
 祖母はご飯だけ器に移した。食卓に漬け物と刺身を並べた。
「おかずは食べないの?」
「お前、母さんには内緒だよ。後で、庭に埋める。虫たちのご馳走さ」

 俺は出かけたからその後のことは分からない。平穏な翌日は迎えられた。


著書「夢幻」収録済みの「イワタロコ」シリーズです。
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(6) お誘い

2021-06-16 15:54:59 | 夢幻(イワタロコ)


「ねぇ、ね、ねっねっ」
 休日の午後。俺は一週間の仕事疲れを取ろうと昼寝をすることにした。
 寝入り端に呼ばれた。女の声だ。目を開けようとしたが、面倒くさい。聞こえないふりをした。目を閉じたまま声の主を考える。
 お袋ではない。買い物に出かけているから。
 祖母にしては若い声だ。
 親父は土曜出勤だし、あんな艶っぽい声を出したとしたら気持ちが悪い。
「ねぇ、もう眠ってしまったの? まぁだ、お話してないじゃない」
 俺は耳をそばだてた。
 隣家との境からか、通りに面した庭からか、北東に開いた天窓からか、床暖房の吹き出し口からか、それとも……

耳にだけ神経を集中させる。百メーター先の線路から電車の通過音。少し前に起きた脱線事故を思い出す。百七人の犠牲者。マンションに巻き付いた車両。泣き叫ぶ遺族の声。花、花。目を伏せた謝罪の顔。
 兄の病死に繋がった。胸が六年前の痛みを呼び起こした。
――嗚呼、眠ろう。来週は遠出の仕事が重なる。体力の充電をしなくちゃ。

「興味ない? 私に?」
 その声は諦めぎみに言う。
 部屋の隅の机に意識が辿り着く。
 毛布を剥ぎベッドから下りる。
 パソコンを開けた。
 メール画面に未開件名が濃く並んでいる。
 デートサイトからの誘いが続く。迷惑メールだ。試しに一件、クリックする。
「舞衣子で~す。遅いじゃな~い。あなたの返信をまっているわ」
「うわっ、こ、これだったのかぁ」



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(5) はいきぶつ

2021-06-10 06:59:23 | 夢幻(イワタロコ)



「見てくれって言ったって、俺には分からないよ。専門家に見て貰った方がいいよ」
「このミシンであんたの塾代を稼いだんだから。まだまだ使いたいわ」

 日曜日の朝だ。お袋が頬を膨らませて言う。最近、和服を洋服にリフォームしているらしい。
 俺が幼稚園児だった二十年前、既製服の見本縫いをしていたお袋が買ったミシン。
 金属同士が引っ掻き合うような音は、ミシンの内部からする。ゆっくり動かせば鳴らなかったものが、直に激しい音をさせた。

 連絡後すぐに修理屋が来た。
「今、この種のものは製造していないですよ。大事に使えば、三代は使えるものです。修理代は一万円位です」
 と見積もり額を言うと、ミシンを台から外して持ち帰った。

 一週間後。修理屋がミシンを台に取り付けた。
「音がねぇ。一応は見たんですよ。ひとつずつ分解していけば悪いところに行き着くのでしょうが」
 お袋が布を用意して電源を入れた。スタートボタンを押す。間をおかず凄まじい金属音。
「長年この仕事をしてきて、大抵のことは直してきましたけど。今回は何処がどう悪いのかさっぱり分からないですね。申し訳ない」
 修理屋は手数料も取らずに帰って行った。

「残念だけど、粗大ゴミってことね」
 お袋が溜息混じりに言った。
「テレビ、冷蔵庫、パソコン、卓上ミシンなど、大型廃棄物をお引き取り致します」
 通りから聞こえる。お袋が走って玄関を出た。
 リサイクル屋の大きな声が聞こえてきた。
「あっ、おばさんは引き取れません。えっ、ミシンなの? 卓上ミシンでなきゃあ、駄目」



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(4) 気になる風景

2021-06-03 06:11:39 | 夢幻(イワタロコ)


 熱があって会社を早退した日の午後。
 俺の向かい合わせの空席に、何条駅から乗り込んだおばさんが座った。後から乗り込んできた二、三歳の男の子を抱いた母子が、他の乗客と共に俺の側に立った。

「どうぞ。よろしいですよ」
 先に乗り込んで腰を下ろしたばかりのおばさんが、母子を見るとすぐに立ち上がった。
 礼を言って母子が席に着いた。母子の後にいたその男の子の祖母さんらしい人が、席を譲ったおばさんに、
「あら、アリアさん」
 と、声を掛けた。席を譲ったおばさんが振り向いた。「あ」と小さい声を出したが、顔を強ばらせて、避けるように三メートルほど離れたドア付近に移動していった。

「知っている人なの?」
 男の子を膝に抱いた母親が聞いた。男の子の祖母さんは答えない。それ以来無言のままだ。
 俺は、二人のおばさんを交互に見た。ドアのおばさんには拒絶感があり、こちらの祖母さんには気まずさが感じられた。

 六駅過ぎた時、母子たちが降りる用意をし始めた。ドアの近くのおばさんも身構えている。同じ町の住人なのだろう。
 駅に着きドアが開くと、おばさんは一気に速歩で階段に向かった。俺の側の祖母さんはスローモーションでドアに近づいて行く。その背中を押すように母子が降りていった。

 俺は熱のある頭で、おばさんたちの過去を想像した。金の貸し借り。食い物の恨み。男の取り合い。もっと違う何か……。

「まちのう、町野駅でございますう」
 俺は慌てて飛び降りた。一駅乗り越している。



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