
「白い曼珠沙華を見に行きましょうよ」
彼女が先に立って坂道を下っていく。
「白いのだって?」
「それが咲いていたのよ」
「子供の頃、曼珠沙華の色は血の色だって聞いたことがあるよ。それに、坊さんの生まれ替わりとも言ったし」
「すっごく、繊細な花よねぇ」
「彼岸花とも言うんだろ。葉っぱもなんにもないところから茎が伸びて真っ赤な花が咲く。気持ち悪いよなぁ」
「あんなに綺麗なのに」
「だからよけいにそう言うんだよ」
俺は彼女の手を取った。彼女が軽く握り返して微笑んだ。
河川敷の牧場でポニーが三頭草を食んでいる。杉の梢の先をオオタカがハトを追いかけていった。
「突然変異なのかしら? それともシロバナ曼珠沙華っていうのかなぁ。確かこの辺よ」
彼女は花群の中を注意深く見る。
「あっ。どうしてこんなことするのかしら」
二本しかない白い曼珠沙華が折られていた。花びらは色を変え始めている。
「持って帰ろうとしたのかしら」
彼女は折れた花を拾い上げ、そっと元へ戻した。側の篠竹数本の葉も白くなっている。
そこだけ養分が違うのだろうか。その近くの藪の中に、埋もれた石碑らしい物が僅かに見えた。
俺は振り返った。河川敷には彼女と二人だけだ。遠くの木々の間が真っ赤に染まり広がっていた。
彼女が駆けだした。紺のジーンズとフリルの付いた白いベストがスピードを上げて、深紅の花群に吸い込まれていった。
著書「夢幻」収録済みの「イワタロコ」シリーズです。
楽しんで頂けたら嬉しいです。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
別館ブログ「俳句銘茶処」
https://blog.ap.teacup.com/taroumama/
お暇でしたら、こちらにもお立ち寄りくださいね。
お待ちしています。太郎ママ
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・