「あらっ、天使の羽」
徳子が、秋葉原の歩行者天国で指さした。
黒いワンピースに白いフリルのついたサロンエプロン、頭には白いカチューシャ。メイドスタイルの女の子が数人いた。その中の二人の背中に、天使の羽が付いている。メイド喫茶の案内カードを配っていた。
孝江が、案内カードを受け取ると老眼鏡を出した。依子も老眼鏡を出す。
「今日、目的のメイド喫茶だわ。さっそく行こうよ。冥土のみやげが一つ増えるわねぇ」
「ちっちゃい字ね。地図も見にくいわ」
三人は、地図を頼りに信号を左に曲がった。
妻恋坂交差点を右にまがる。
靴屋の隣が喫茶店だ。ドアの前に、八人の若い男と、二人連れの女の子が席の空くのを待っていた。その後に並んだ。ピンク色の立て看板には、何処にでもあるような軽食と飲み物のメニュー。ポイントカードでメイドと一緒の写真撮影サービス有り。九十分の時間制とある。
帰る若者と入れ替わりに店内に入った。
「行ってらっしゃいませ、ご主人様。あ、いらっしゃいませ。お三名様ですね」
メイドが迎える。十八卓とカウンター五席の喫茶店。壁にメイドの大きな絵と、ガラスケースに衣装が飾ってある。横にメイド募集の案内。資格は十八歳以上。上限はない。
三人は紅茶とケーキを注文する。
メイドは静かな動作で、三人の前にケーキと空のカップと紅茶の入ったポットを置いた。笑顔を向けると、ポットを持って聞いた。
「お嬢様、レモンティーをお注ぎさせて頂いて宜しいでしょうか」
「お、お嬢様だってぇ」
上ずった声の三重唱だ。
店内の若者たちの視線が一斉に集まった。
江南文学56号掲載済「華の三重唱」シリーズ
初老の孝江と依子と徳子のプチ旅物語です。
楽しんでいただけたら嬉しいです。
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別館『俳句・めいちゃところ』
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