十九か二十歳だったかね、女友達とよく遊びに行ったよ、村の神社の境内にあった集会所に。そこへ行くと村の若い衆がみんな集まってきて、何するわけでもなくて、ただしゃべりあっていた。
あの人もそこへ来ていた。どっちかというと口数の少ない人で、はにかみやで、そんなところが私の気を引いていた。私は何かというと、あの人の側に近寄ったものだ。
でも、世の中うまくいかないもので、あの人は鶴田豆腐屋の娘の智子が好きだったみたいで、いつの間にか智子の側にいた。
智子は、どう思っていたのか。おっとりとした人で、いつでも口元に微笑みをたたえているっていうか、大きな声で話すわけでもなくて、人の話に聞き入っているような人だった。良いとこのお嬢さんそのものさ。
智子を見ていると、あの人の気持ちを私に向けるなんて、無理だと思った。それなのに、智子は、早々と忠岡市の財閥のところへ嫁に行ってしまった。ショックだったのだろうね、気が付いたときには、あの人は東京へ出て行っていた。
あの人のいない村は殺風景になったね。私の親は近くに嫁にやりたかったらしいけど。あの人を追ったわけじゃないが、私も東京へ出た。せめて、あの人と同じ空の下にいたかったから。
東京は新天地さ。勤め先でも道を歩いていても、男の人は声を掛けてきた。田舎者の私も、いつの間にか都会のお嬢さんさ。その頃知り合ったのが私の旦那さん。どこか、あの人と同じ感じのするところがあったのだろうけど。後々考えてみると、それが、顔なのか、性格なのか分からないほど、ちっとも似ていない人なんだ。
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著書・夢幻に収録済み★連作20「すみれ五年生」が始まります。
作者自身の体験が入り混じっています。
悲しかったり、寂しかったり苦しかったり、そのどれもが貴重なものだったと思える今日この頃。
人生って素晴らしいものですねぇ。
楽しんでお読みいただけると嬉しいです。
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