大型スーパーの前にいた。
俺の住んでいる北関東は台風十四号の進路から外れている。雨は少なく、強風が吹き荒れていた。
九月十一日の衆議院議員選挙カーが一台停まった。ワゴン車の屋根に付けた候補者名の書いた看板が外れそうになっている。
選挙カーから男が三人降りた。皆で看板を手で支えている。間もなく小型のクレーン車が来た。運転手が降り四人で話し合っている。運転手が車に戻り操作をする。一人が屋根に乗って看板をクレーンに括り付けた。
エンジン音がして看板がつり上げられた。強風にあおられて揺れている。屋根と看板を留めているビスが緩んで脱落したのか、一人が辺りを見回していた。
「あった」男が叫んで拾った。
左右六ヶ所の留め部分に、看板を固定するまで風との戦いだ。四十分以上掛かってやっと取り付けた。
道路一本を隔てて、対立候補の選挙カーが政党と候補者名を連呼している。三人がその方角を見た。風にワイシャツやズボンの裾が遊ばれている。
看板の具合を確かめるとクレーン車が去り、男三人が急いで車に乗り込んだ。すかさず、女性が候補者名を絶叫する。
「皆さん、〇〇政党の尾崎考男、おざきたかおです。政治は何をどう行動するか――」
候補者が俺を見て白手袋で手を振った。
「ガンバレぇ。負けるな」
俺も候補者に手を振り返した。
選挙カーが走り去る。強風が看板を左右に揺らした。また外れる恐れを感じる。
「あ、いけねぇ」
俺はコピー用紙売り場へ急いだ。
著書「夢幻」収録済みの「イワタロコ」シリーズです。
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