「皆さん、90歳まで踊りましょうね」と、今日のチャーターグループのお世話係さんが言った。
「えっ? 90歳まで? アタシ、20ン年も踊れるかしら」と、隣席の花柄ドレスの美人さんが呟いた。私は、頭の中の電卓を叩きます。確かに私より若いのよね。
「今日の他のグループのお客様の中には80歳代の方が多いですよ。あの方は87歳ですって。そのお隣さんは86歳。その二人隣は85歳ですって。90歳まで踊られた方も居たそうよ。体調を崩さないように。怪我しないように頑張って踊りましょう」と、お世話係さんは、ちょっと声を小さくして言う。
そう言えば、3年ほど前に参加したダンスパーティーで、85歳だという男性と同年代のパートナーが踊るサンバを見たことがある。あの時はショックを受けるほど驚いたものだ。
果たして90歳まで現在の踊り方が出来るとは思えないが、できれば私も90歳まで踊りたいものだ。
以前聴いたことだが、90歳の女性は、大好きなダンサーのいるホールへ踊りに行った数日後にポックリと亡くなったそうだ。また別の女性は、チャーターグループでの参加中に、ご自分の番になった時倒れたそうだ。大騒ぎで救急車を呼んだそうだが、蘇生術を施しても息を吹き返さなかったとか。ショックの大きな事柄ではあるが、ある意味、幸せな最期とも言えるような気がする。欲を言えば、散々好きなダンスを踊って家に帰り、湯に入り汗を流し、美味しい夕餉を食べ、手足を伸び伸びと伸ばして寝る。そのまま黄泉へ旅発てるとしたなら、最高の幸せではなかろうか?
「皆さん、90歳よ。頑張ろうね」お世話係さんの声に手を振ってホールを出た。90という数字がしばらく脳内を占領している。
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