紫陽花記

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別館★写真と俳句「めいちゃところ」

★51 宇宙人の田んぼ

2024-08-17 06:44:03 | 「と・ある日のこと」2024年度


 宇宙人と言われていたT氏。米所の農家さんだが、先祖から受け継いだ田んぼは一町五反。自分の代になってからは、田んぼの管理と米作りは、町内の専業農家に委託している。

私が喫茶店を経営していた頃の常連客である。飄々とした人柄は、仕事仲間からは「宇宙人」と呼ばれていた。掴みどころのない性格は、まるで皆がいう宇宙人らしくあった。

 我が家の毎日のご飯は、この宇宙人みたいなT氏家の米を食べている。喫茶店閉業後も、毎年半俵(30kg)8個前後を購入して、無くなる近くに連絡しては、精米した米を届けてもらっている。

 ある時、数日に掛けて連絡しても電話が通じなかった。後に知ったことだが、宇宙人の奥様が脳梗塞を患い、入院生活を続けているとのこと。スッカリ奥様に頼り切っていたT氏は、青天の霹靂。米農家の後始末は、息子二人と奥様に任せて、自分は90歳ごろに逝くつもりでいたらしい。それが、妻が後遺症のある病人となり、息子二人も、家から離れた所に所帯を持ってしまった。自分に都合の良い計画は考え直しをせまられている。

「困ったよ、一番は田んぼのコト。今まで通りに専業農家に頼んだとしても、何れは何とかしなければならない。固定資産税は掛かるし。売ろうにも田んぼは安いんだ」

 老いた宇宙人は、4個も癌が見つかっているとか。手術後の癒着で、また縫い直した腹部を庇うように、半俵を3個の袋に分けて入れた精米を、ミニトラックの荷台から下ろし、我が家の玄関まで運ぼうとした。縫い目がはじけるといけないから、重いモノは持たないようにと、主治医に注意されていたらしい。慌てて私は、T氏から米袋を取り上げ、エッチラオッチラ玄関まで運んだ。

美味しい米はいつまでも食べたいものだが・・・。




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★50 付いた手摺

2024-08-10 07:45:35 | 「と・ある日のこと」2024年度


 我が家から見えるお宅の玄関から、門に向かって家の外壁に手摺が付いた。数日前二、三日掛けて、工事していたが、外回りもそうだが、家の内部からも工具の音がしていたので、内部も同様の設えを施したのかもしれない。

 このお宅は、4人の男女の子供たちはみな成人して、それぞれが独立したらしく、現在はご夫婦だけが暮らしていた。まだ二人とも七十代半ばの年齢に見える。だから、手摺の設えは、ご主人か奥様のご両親の何方かが同居するためだろうと察した。

 と、ある日の正午頃、丁度私がそのお宅の前を通った時、玄関からご主人が出てきて、その後から、三、四十代と見られる介護職らしい女性が、大きな手提げ袋を抱えて出てきた。ご主人は何やら言葉を交わし、深々と頭を下げた。そして、駐車場からその女性の車が通りに出ると、改めて頭を下げて見送った。

 私は、よそ様の家庭の中を覗くつもりは無かったが、余計な想像が湧き出てきた。
もしかして、何方かの身体が不自由になったのかもしれない。私の、身体障碍者の息子を育てた経験が、あらゆる場面を想像してしまう。玄関から駐車場までの手摺は? 身体障碍者が居ることの証ではないのか?・・・・
 最初は、ご夫婦の超高齢の親御さんの誰かかもしれない。という、想像は、この頃見かけない奥様ではないかとの想像に変化した。

 その身にならないと分からない事は、突然やって来るものだ。全く、想像外の事。最初は戸惑い、そして悔し涙を流し、そして、逃げられない現実に愕然とする。が、それを少しずつ受け入れて、少しずつ前向きに、歩む覚悟をし、そして、その現実に向かって努力するしかない。

想像は大きく膨らんでしまったが、全くの想像外であればいい。私の余計な妄想であれば嬉しい。



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★49 (★47の続編) 落下した子燕

2024-08-04 06:25:51 | 「と・ある日のこと」2024年度
先日、我が家の巣から燕の子たちが親共々巣立った。早朝の旅立ちだ。



 この猛暑の中、子育てをしていた燕。巣は、カラスなどの襲撃に遭わないようにポーチの中心にある照明器具の側面。やりづらい作業だったかもしれないが、出来上がると卵を産み、抱卵を開始。子燕の数が4羽だと思っていたが、3羽であった。

 ある日の朝私は、毎日のルーティンで庭を徘徊し、玄関ポーチ迄行く途中に、何やら蠢いているモノを見つけた。掴んで見ると、なんと、燕の子だ。まだ羽の生え揃っていない子燕は、怖がることも無く、私の手の中にいる。巣から落下したようだ。野鳥に手出しはしない方が良いと思ってはいたが、地上に下りない習性の燕が、子を巣に戻すことは出来ない。それに、地上にいる子燕を認識しても、餌を運び養育することは無理ではないか?

夫が六尺の脚立に上って巣に戻した。次にさっきの燕より小ぶりの雛が、糞受けの紙の上に落下。大急ぎでまた脚立を出して、夫が巣に戻した。と、そうしているうちに、二番目よりチビの子燕が落下。巣が手狭になったせいらしい。巣に戻したいが、夫は用事があって出かけてしまっていた。私は、自分一人で脚立に上る勇気がなかった。仕方なく、プラスチックの皿に紙タオルを敷き、子燕を収容。夕方戻った夫に巣に戻してもらった。30分おきの餌やりが出来ないと衰弱するとかいう時間を大幅に過ぎていた。

 番の親が餌を運んできた。我ら夫婦はポーチから離れて中庭の方に移動して見ていた。と、思う間もなく、ストンという音と共に、チビが落下。今度はタタキにもろに落ちた。番の親燕は、鳴き乍ら右往左往に飛び、子の心配をしている。チビは動かない。親二羽は暫くチビの真上辺りを大騒ぎで飛び回っていたが、諦めたように飛び去り、戻って来た時には、遺った二羽の子燕に餌を与え続けた。
 羽が育ち、羽ばたきを繰り返し、そして、生き残った子燕たちが巣立った。



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