突然舞い込んできた葉書の住所が取手市になっている。マンションは県西に伸びる国道沿いにあった。実家の寺を飛び出したとか、結婚したとかの噂を聞いていたが、玄関の表札は旧姓の新谷と出ている。
「元気? あたしは元気よ。いろいろあったけど、幸せ。あなたが近くに居るのを知って、葉書書いたの。ええ。今翻訳の仕事をしているわ。嫌いだった英語が役立ってるってわけ」
新谷優子は笑顔だった。
「子供? うん、三人。男女女。紹介するわ。今日はみんないるから」
奥の部屋の子供たちに、大声で招集をかける。間もなく子供たちがやって来た。
「長男のレオナルド・正男。長女のシンシア・香織。次女の里織」
三人は笑顔で挨拶する。レオナルド・正男君は金髪にブルーの瞳。シンシア・香織さんは、黒の縮れ毛に金茶の瞳。里織ちゃんは、栗毛に黒い瞳だ。
「驚きの顔ね。みんな私が生んだ子よ。父親はそれぞれ違うわ。里織は純粋の国産よ。あら、ちょっと変な言い方かしら。うふふ」
優子は、慈愛の籠った目で子供たちを見やる。六年生の里織ちゃんを引き寄せ、肩を抱いた。
「もうじき新しいパパと一緒に暮らすのよね。四人目がお腹の中なの。今度? 日本人よ。もう、これが最後よ。あなたは、どうなの」
「私は、障害児と健常児」と言いたいセリフを飲み込んだ。
あの頃拾われっ子と噂されていた優子が、
「子供はねぇ、授かりものだから大切に育てなきゃあ。自分の手でね」と、言った。
寺の門柱に寄りかかって上目使いで見る癖は、もう無かった。
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★著書「風に乗って」から、シリーズ「風に乗って」17作をお送りしました。楽しんで頂けましたでしょうか?
今記事で終わりになります。拙作をお読みいただきありがとうございました。
また、宜しくお願いします。
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次記事からしばらくの間「と、ある日のこと」をお送りします。
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