プラスチックの部品らしいモノが落ちていた。楕円形の鉄紺色で厚さは五ミリ位。楕円形の長い方の中央よりやや端に、二つの十円玉位の穴が、三センチほどの間隔を空けて開いている。
拾うと私は、プラスチックを顔に当ててみた。二つの穴が丁度目の間隔に合っている。
安田製作所の脇の道から土手が見える。
土手の上の犬を連れたおじさんが、こちらを向いた。
「おはようございます」と言う。
私は同じように返事をしたが、言葉が耳の奥で反響した。
「おや、今日はご機嫌が悪いようですね」
おじさんは冷やかすように言うと、犬に引っ張られながら「では」と会釈をして歩き出した。
「ポチ、バイバーイ」
おじさんの先を行く犬に手を振った。
ポチは振り向くと、牙を剥き出して低くうなった。
「早起きは、気持ちが良いだろう」
家に帰ると、起き出していた夫が言う。
「うん、いいわよ。あなたも歩いてみたら」
私は、プラスチックを顔に当てながら言った。
「なんだいそれは、面みたいに見えるけど。それに、言うことがキツイな」
夫が真顔になった。
「安田製作所の側で拾ったのよ。面白いでしょ」
「冗談じゃないよ。何を言ってるんだ。怒るぞ俺は。いい加減にしろ」
私は驚いて、プラスチックを外した。
「なんだ、お前の顔は」
★著書「風に乗って」から、シリーズ「風に乗って」17作をお送りしています。楽しんで頂けたら幸いです。
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