一週間ほど前の夜、そろそろベッドへ入ろうとした時間に、隣室の夫の部屋からガタン、ゴトゴトと音がした。何事だろうと隣室を覗くと、椅子を移動させたりしながら何かを探している様子。「鍵が無くなったんだ。おかしいよなぁ、この部屋にあると思うのだが」といって、血眼の眼を向けた。
「鍵って?」私の脳裏に「認知症発症」という文字が現れた。
「鍵ってどこの?」
「部屋の鍵と車の鍵だ」その返答を聞くと、他人の手に渡ったらという恐怖感に襲われた。留守の間に家に侵入されるかもしれない。車は乗って行かれるかもしれない。などと、悪い事ばかりが思い描ける。聞けば、ジーンズのポケットに入れて、コンビニまで自転車で行ってきたとのこと。玄関の鍵は開けたまま行ったのだという。途中で落としたのかもしいれない。第一、ジーンズの浅いポケットに入れていくこと自体が無防備ではないか。スルッと落ちても様々な生活音にかき消されて気づかないと思う。などと、私の声は大きくなり厳しい言い方になっていた。
とにかくコンビニまでの道を探すことにした。懐中電灯を点けて、二人で通った道を探す。
誰か拾ってくれたのかもしれないと、コンビニに聞いてみたが、届け物は無いとのこと。数回家を出たり入ったりして探すが無い。夫は部屋にあるはずだと思うというが、もしものことがあってはと、市役所前の交番へ紛失物届の電話をした。その夜は諦めて寝ることにした。
翌朝、夫が「夢で椅子の上にあったよ。それが、どこの椅子かは分からない」と言いつつ、椅子とオットマンを動かしたところ、「あったっ」椅子の足許に鍵が転がっていた。
どこを探していたのだろうか? 動転していたので、冷静さが欠けていたのだろう。
急いで交番へ謝りの電話を入れた。