「俺さぁ、何だかさぁ、中学校の頃に戻りたくなったよ」
「あ、俺は、小学校頃に戻りたい」
混んだ電車内で私は吊革にも届かない位置で、カートに半分縋るように立っていた。声の主たちを見やると、この春高校生になったばかりのような白いシャツに大きなリックを胸に抱えた男子生徒二人が居た。
「?」私の脳裏に男子生徒二人の中学校と小学校の頃の姿を想像したが、あまりにも少し前のことではないか。それでも戻りたいと思うとは、現状に辛さなどがあるのだろうか?
進学はしてみたけれど、想像と違った現状があるのだろうか? そう思いやる気持ちより、私の戻りたいところへと思考が移って行った。
戻りたいところは、二十歳の頃かなぁ。
付き合い始めた男性がいた。一歳年上の営業マン。先行き不透明な楽しさだった。戻るとしたなら、あの頃に戻りたいなぁ。
23歳で結婚した。小さな家を購入したのが25歳と24歳の私たち夫婦が、子を授かったのは、私が26歳の時。難産のために仮死状態の息子で、身体障碍者という大変な子育てだった。障碍者の長男と健常者の次男の子育て。そして、いろいろあった。もし、二十歳のあの頃に戻ったとしても、同じような人生を送ることになったかもしれない。どうあがいても、自分の持っている運命とやらは変わらないかもしれないし、持って生まれた性格では、大きく違った生き方が出来そうもないもの。
いつの間にか、高校生らしい少年たちは、どこかの駅で下車したらしい。それでもまだ「戻りたいなぁ」という声が、私の内耳に残っている。
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「と・ある日のこと」をお送りします。
日々の暮らしの中から、ちょっと心に引っかかった事を綴っています。
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