お袋がボランティアを始めた。息子の俺がやっと会社勤めに出たかららしい。
「あたしはぁ、これから好きにさせて貰いますからね」
親父と俺に宣言した。
「なにするつもりだ。祖母ちゃんのことは?」
親父は新聞から目も離さないで聞いた。俺は、お袋が何に興味を持っているかは知らない。ただ、姉と死んだ兄と俺の成長を楽しみに生きてきただけだろうと思っていた。
同居している親父の母親、つまり俺にとっての祖母は八十四歳。何種類かの薬を飲んではいるが元気だ。お袋と祖母とは、仲が良いのか悪いのか、見当がつかないくらい話をしている姿を見ない。親父はもめないから仲がいいと思っているらしい。
「なにって、これから考えるわよ」
お袋は体を揺すって、俺たちを威嚇するようにもう一度「好きにさせて貰うから」って言った。
どんなボランティアなのか聞いていないが数日後決めたらしい。月に一回、例会があると言っていた。
例会の日。俺が会社から戻って来ると、食卓に夕食の準備がしてあった。親父はまだ帰ってきていない。祖母が一人で、テレビのボリュームを上げて食べていた。
テレビに目を向けたまま、祖母が口を歪めて言った。
「年寄りの話を聴くボランティアだとさ」
「傾聴? そんなボランティアがあるんだ」
お袋はどんな顔して他人の話を聴いているのだろう。祖母が言った。
「私にはろくすっぽ話し掛けもしないで、年寄りの話なんか聴いて上げられるんかねぇ」
「お袋、他人には優しくなれるのかな」
著書「夢幻」収録済みの「イワタロコ」シリーズです。
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