理想国家日本の条件 さんより転載です。
http://hrp-newsfile.jp/2022/4269/
ウクライナ戦争で進行する史上最悪の食料危機
◆史上最悪の「食料危機」が到来
世界中のメディアがロシアとウクライナにくぎ付けになるなか、水面下でジワジワと食料危機が進行しています。
5月4日、「世界食糧計画(WFP)」(※1)は、突発的な事案で十分な栄養を摂取できずに命や生活を危険にさらす状態を示す「急性飢餓」の人口が、2021年から約4000万人も増加、過去最悪の1億9300万人に上ったことを明らかにしました。
3月末にWFPのビーズリー事務局長は「ウクライナでの戦争は第2次世界大戦以降、目にしたことのないような大惨事を地域の農業と世界の食糧・穀物供給をもたらそうとしている」とし、「大惨事の上の大惨事」と最大級の警告で表現しています。
なぜなら、今回の戦争が、世界有数の穀倉地帯ウクライナとロシアとの間で行われているからです。
◆世界の2つの「食料庫」を直撃するウクライナ戦争
FAO(国連食糧農業機構)が毎月発表している、世界の食料価格指数(肉、酪農品、穀物、野菜・油糧、砂糖、2014~2016年平均=100)を見ると、2022年2月には1990年の統計以来の最高値141.1ポイントを記録しています。
更にウクライナ戦争が本格化した3月度は159.7と食料全体で未曽有の高騰を見せています。その中でも上昇が目立ったのが穀物で、170.1とこちらも過去最高値となっています。(※2)
小麦の世界の生産量は、2021年が7億7587万トンです。ロシアとウクライナの合計は、1億1835万トンで、2か国の生産規模は、全体の13.5%にあたります。
また、小麦の輸出量ベースを見ると、ロシアは世界第1位、ウクライナが世界第5位、2か国合計で国際穀物市場に流通する小麦の約25%~30%を占めます。
両国に小麦輸入の3割以上を依存している国がなんと50か国近く(世界196か国中)もあるという驚くべき状況です。
フランスのデータ分析会社(ケイロス)は6日、ウクライナの22年度産の小麦生産量は前年比で35%以上減少する見通しだと発表しています。
トウモロコシについても、ウクライナが世界第4位の輸出国で、世界の約20%を賄っています。
植物油の原料になるヒマワリ油に至っては、ロシア・ウクライナの2か国だけで世界流通の70~80%を占めているのです。
◆「食料争奪戦」による争いが世界中で起こる?
特にウクライナへの小麦依存度が6割に上る、エジプトやトルコ、イランなど中東・北アフリカの国々では、すでに食料価格の急激な上昇に喘いでいます。
例えば、エジプトなどでは主食であるパンの価格が50%も上昇し、人口1億人の約3割にあたる貧困ライン(1日1.9ドル以下)を下回る人々の生活を直撃しています。
2011年に北アフリカのチュニジアからエジプト、中東全域に広がった「アラブの春」の革命のうねりは、実は、前年度のロシアやウクライナでの小麦の不作によりパン価格が高騰し、庶民の不満が渦巻いたことに端を発しました。
結果的に、複数の政権が転覆、カダフィ政権が倒れたリビアは未だ内戦状態、アサド政権打倒で内戦に突入したシリアも未だに混迷を深めています。
また、ロシアやウクライナに輸入依存していない国々であっても、不作や冷害などがひとたび起きると、それまで輸出に回していたものを、国内向けに確保するという動きになります。
そして、国際市場に出回る量が一気に減少してしまうために、世界的に一気に急騰する傾向があります。
◆史上最悪の「食料危機」、真犯人は誰か?
さて、ロシア・プーチン大統領は、4月5日、閣僚等と行った「農林水産業開発会議」において、食料供給については「ロシアに対して敵対的な政策を堅持する輸出を注意深く監視しなくてはならない」と述べました。
この食料危機において、自国の強みとしての穀物を「戦略物資」として、十二分に活用し、少しでも外交を有利に進めるつもりでいます。
実際に、ロシアは3月中旬に小麦の輸出制限を発表する一方で、ウクライナ産の小麦が手に入らないエジプトに対しては、ロシア産小麦を前年比の6倍近くまで輸出を急増しました。
イラン、トルコ、リビアにおいても前年比の2倍超を輸出しており、ウクライナ産が手に入らず困窮する国々に小麦を売り、結果的には、紛争の拡大を抑止している形になっています。
対してバイデン政権は食料危機に苦しむ国々へ870億円(6億7千ドル)規模の食糧援助を発表してはいます。しかし、今回の戦争の発端は、ロシアを挑発し、ゼレンスキー大統領をあおりに煽ったバイデン大統領の責任を問わねばなりません。
(※1)世界食糧計画(WFP)53カ国や地域を対象とした食料危機に関する2021年度の調査報告書
https://ja.wfp.org/news/shiliaoweijiniguansurukuroharubaogaoshushiliaobuannojilugengxin
(※2) https://www.fao.org/worldfoodsituation/foodpricesindex/en/?msclkid=6b1d3212cea311eca461734688c9448c
◆世界の「肥料庫」としてのロシア
史上最悪の食料危機は日本にどう影響するのでしょうか。
輸入とうもろこしの1%がロシア産で、輸入のほぼ全量を米国やカナダ、オーストラリア、ブラジルなどからの輸入のため、価格高騰の影響は受けながらも、「食料危機が日本を直撃」という事態には至っていません。
その代わりに、日本を直撃するものが「肥料危機」です。日本は肥料原料のほぼ全量、99%を輸入に依存しています。
ロシアはその肥料の三要素である「窒素、リン酸、カリウム」の全てで重要な役割を担っており、世界の「肥料庫」なのです。
三要素のうち、カリウムの25%をロシアとベラルーシに依存し、リン酸については、日本の輸入の約9割が中国産だと言われています。
現代の農業においては、化学肥料なしでは、産業ベースに乗る収量や品質を維持することが出来ず、絶対的な必需品です。
世界最大の肥料庫であるロシアからの供給が、ウクライナ戦争による物流の混乱と経済制裁の両面から途絶えることになれば、この「肥料危機」が日本はもちろん、世界中の農業に大打撃を与えることになります。
山形県で20ヘクタール以上の規模で米作を行う農業経営者にインタビューしたところ、次のように言っていました。
「肥料危機は次年度以降の農業経営に直撃する。肥料会社に問い合わせたところ『次年度も予約さえ入れれば同量確保は可能だが、価格は倍以上になる』と言われた」
また、「昨秋から、中国のリン酸や尿素などの輸出制限で肥料が高騰しているのに加え、トラクターの動力で使う軽油1600Lの経費など、ただでさえ苦しい。販売価格を大幅に上げるしか、生き延びる道はない」と。
◆危機感ゼロの日本
米欧追従を貫く日本は、ロシアを敵に回してしまったことで、国防的には、北は北海道、南は沖縄に至るまで、ロシア・中国・北朝鮮といった敵性国から包囲され、いつ攻撃を受けてもおかしくない状況です。
また、資源インフレが起きる中、資源小国・日本の数少ない希望である原発再稼働も一向に進まず、エネルギー安全保障の脆弱さは否めません。
このタイミングで中国による台湾侵攻がもし起これば、日本のシーレーンは途端に封鎖され、エネルギーのみならず、食料の輸入も止まる可能性があるのです。
反面、13億人以上を抱える中国は、世界の穀物在庫(小麦51.1%、トウモロコシ68.8%、コメ59.8%)の半分以上を抱え、過去最高水準にまで、在庫を積み上げています。
要するに、世界は穀物在庫の残りを中国以外の国々で分け合っている図式になります。
中国は、肥料についても「一帯一路」の沿線国から輸入増強を図り、肥料生産プロジェクトも推進しています。
不測の時代に備える中国のしたたかな食料戦略を、危機感ゼロのお花畑・日本も少しは参考にしなくてはならないのではないでしょうか。
食料安全保障の柱を立てるためにも、今こそ「減反政策」を完全に廃止し、「食料増産体制」を確立すべきです。
そして世界最大の「肥料庫」としてのロシアとの関係改善を図ることは、日本の食糧増産にとって、シンプルかつベストの方策でしょう。
軍事防衛の面でも、エネルギー・食料安保の面でも、日本の危機を脱するカギを握る国は、実はロシアであるという現実認識がいま求められています。
岸田首相は、欧米追従一辺倒ですが、国家存続の危機に立たされた日本を守り抜くためには、「ウクライナよりも、ロシアを失った方が日本の打撃は大きい」ことを直視すべきです。リアリスティックな判断が必要です。
執筆者:釈 量子
幸福実現党党首
幸福実現党
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気になるテーマを取り上げながら、本音の議論を進めます。 2022年5月10日収録
ウクライナ戦争で進行する史上最悪の食料危機。真犯人は誰か?同時に起こる肥料危機で日本の食料事情が大変なことに。(釈量子)【言論チャンネル】