たそかれの散策

都会から田舎に移って4年経ち、周りの農地、寺、古代の雰囲気に興味を持つようになり、ランダムに書いてみようかと思う。

スズメバチ事件・その3 損害賠償

2016-10-20 | 自然生態系との関わり方

問題3は、スズメバチに刺されるなどして損害を受けた場合に誰に賠償請求できるか

人間の行為がなんらかの形で関与していればともかく、スズメバチは自然物ですので、自然の災難ということになるのが一般です。

では人間の行為、あるいは管理がどのような場合に考えられるでしょうか。たとえば、公園といった場合、人間の管理が入ってきますので、責任問題が生じる可能性が出てくるでしょう。といっても、自然公園、都市公園、児童公園など多様な公園形態があり、法的根拠や管理制度が相当異なりますので、また制度の実態も検討する必要があるので、一義的に公園管理者に責任があるとはいえないでしょう。

さて、国立公園内などで発生した事故でいくつか著名な裁判例があります。私も以前秋の紅葉を楽しんだことのある奥入瀬渓流遊歩道での事故です。遊歩道を観光で散策していた人に落下してきたブナ木の枯れ枝が直撃し重傷を負った事例で、東京地裁がブナ木の所有者・管理者である国・県に1億円余の損害賠償責任を認めました(控訴継続中)。このケースでは事故現場は指定の遊歩道の外で発生していて、国側が営造物責任の対象とならないと主張しましたが、実際の観光ルートになっていたことを踏まえて、その主張を裁判所は排斥しています。妥当でしょうね。また人工林はともかく本件は天然林のブナ木で管理責任の対象外との主張も認めていません。遊歩道近くで共生林として景観風致を維持し整備していたのですから、そんなけちな理由で営造物責任を免れようというのは悪しき官僚的発想ではないでしょうか。地裁も責任逃れを否定しています。そして観光客が訪れ休んだりするところで、枯れ木の落下の危険がある状態であったことから、、通常有すべき安全性を欠いていたと指摘しています(平成1847日東京地判・判例時報1931号83頁)。

枯れ木の落下も事情によっては、人の責任問題になるということです。これは国立公園でしかも遊歩道付近、共生林として管理していたブナ木といった特殊性がありますが、この論理はいくつか応用が利く(この裁判例が確定すれば判例としての射程距離がある程度柔軟に応用できる)判断だと思います。

たとえば、スズメバチの事例でいえば、遊歩道近くに巣があるのに、放置していて事故があれば、責任を免れない可能性大でしょう。では私有地の場合どうか、しかも竹林に接しているのが公道であれば、公道管理者の責任はどうなるのか、といったことも問題になりそうです。国立公園や国有林などでは適切な管理基準が詳細に定められていますが、私有の竹林の場合法適用の対象外がほとんどです。森林法は地域森林計画対象地域が対象で、それは一定規模の面積で、そういった地域は逆にさほどこういったスズメバチ騒動も起こりにくいように思います。

やはり管理基準とか法的に根拠づけにくい中で、自然の摂理として、危険物を育てた?というより、竹林管理を適切に行わなかった(こういうと現在の日本の多くの竹林が当てはまりそう)結果、スズメバチの巣が作られ、当該場所が公道に近い位置にあることから、通常の通行人は一応おいておくとしても、祭りの行列のような場合に雌蜂による攻撃が予測可能であり、そのような危険な状態を放置することは所有者として許容されないといった論理も一応成り立つように思うのですが、どうでしょう。工作物責任ではなく、竹林所有者責任ですかね。次々と邪念?が湧いてきて、いつまで続くか分からないので、今日はここまで。


スズメバチ事件の顛末 その1

2016-10-20 | 生物とのおつきあい

秋祭りが各地で賑わっています。昨日、ある主催者から害虫駆除の相談がありました。わが家の竹藪にスズメバチの巣があるようで、その駆除をして欲しいとのこと。竹藪が祭りの山車が練り歩く道路そばにあり、参加者が刺される恐れがあることを心配してのことです。

 

さて、このような場合にも法的な問題点を挙げることができます。たとえば

1 スズメバチの駆除(防除)を行政に求めることができるか

2 巣がある竹藪の所有者に要請できるか(土地所有者になんらかの責任があるか)

3 スズメバチに刺されるなどして損害を受けた場合に誰に賠償請求できるか

4 スズメバチを駆除する方法など基準があるか

5 駆除の際、殺虫剤等により誰かが健康被害を受けたとき責任を負う場合があるか

 

問題1について

現行法で、生物の「駆除」を明記しているのは、松食い虫等を対象とする森林病害虫等防除法くらいでしょうか。それ以外では、「捕獲等」(殺傷ないし殺処分等を含める)を認めている、アライグマやタイワンリスなど特定外来生物を対象とする外来生物法。イノシシやシカなどを対象とする鳥獣保護管理法、鳥獣被害防止特別措置法があります。それに伝染病の場合に殺すことを認める狂犬病予防法と家畜伝染病予防法も関連しますね。いずれも特定の鳥獣を含む生物が対象です。結構、対象が広いですが、それでも生物の種としてはほんの一部にすぎません。

では、それ以外はというと、いかなる生物も駆除・捕獲等を行政が行う法的根拠がありません。ある意味では、動物愛護の世界的金字塔ともいえる?「生類憐れみの令」の基本的精神が現在でも生きているともいえましょうか。むろん、農林水産業の鳥獣被害を理由に捕獲等を促進する鳥獣被害防止特別措置法は、地域の産業、人の生きる糧の保護を優先していますので、綱吉時代にはありえないでしょうね。

結局のところ、それ以外の生物は行政に駆け込んでも、スズメバチ、マムシどころかあらゆる有毒な生物も、害虫・有害生物も行政が法的には対応しなくてもよいのです。長い講釈になりましたが、行政は法的根拠がないと対応できません。

とはいえ、自治体(あるいは首長)たるものは、住民のニーズにいかに対応するかも腕の見せ所です。需要供給のバランス、費用対効果を考慮して、それぞれの自治体では相違工夫していると思います。ですので、中には積極的に自治体自ら駆除を実施する制度や、駆除費の一部を補助する制度を設けているところも相当あります。また、防護服一式などを貸し出すといったサービスを提供する自治体もあります。私は最後のサービスが利用できたので、それを借りてきました。


スズメバチ事件の顛末その2 関連問題

2016-10-20 | 生物とのおつきあい

関連 スズメバチ事件の顛末その2 所有者責任・特段の事情

 たしかに所有者はスズメバチの巣について法的責任はないと述べました。ただ、そういいきれるか、特段の事情を少し検討してみたいと思います。

 まず前提として、スズメバチの特性ですが、一般には強い有毒性の針をもっていて、刺されると強い痛みや腫れとしびれが広がり、場合によっては死に至ることもあります。ただ、通常は、それほど危険ではなく、近づいても、斥候役の雄蜂がやってきたら、おとなしく逃げればなんともありません。むろん近づかなければ大丈夫です。普通は1~2m先を通り過ごす程度であれば危険はないと思います。が、立ち止まって巣の方に近づいたり、斥候を無視していると、有毒針をもつ雌蜂が大勢やってきて、攻撃してきます。その場合でも、さいならといって逃げれば、彼女たち攻撃隊もさほど追尾してきません。ただその段階だと、5~10m周辺は雌蜂群がブーンと警戒音を鳴らして圏内に入ってくる人に攻撃態勢にはいっています。

 というわけで、通常は、巣の存在とスズメバチの出入りしている状態だけでは、通行人に危険が生じることは考えにくいのではないかと思います。しかし、祭りの山車のように、大勢が賑やかに行き交う場合、とりわけ香水をつけていたり、飲酒状態も加わると、スズメバチを興奮させる恐れが高まり、襲ってくるのは不可避ではないかと危惧します。この場合スズメバチの攻撃によって誰かが殺傷されたような場合、誰も責任がないといってよいのかとなると、そうもいいきれないかなと思うのです。

 そのような特別の行事を行う主催者側の責任もありうるし、他方で、そのような行列が通ることを知らされた所有者が責任ないともいいきれない。これは思案所ではないでしょうか。一般論としては両者で話合い協議が望ましいように思います。できれば共同作業で駆除を行うのが望ましいように思うのです。

で決着がつかない場合、これは明確に適合するような基準があるとは思えませんが、所有者は危険除去の責任を負う場合に該当する可能性(あいまいな表現です)があると思います。他方、祭り主催者側も、スズメバチの巣があるの知っているのですから、自ら除去するか、参加者にスズメバチの存在を指摘して香水・飲酒もちろんのこと、興奮させないように行動制限を注意する義務があると思います。後者は無理筋でしょうから、前者の駆除で対応するしかないでしょうね。

その責任の優先度とか分担は、やはり所有者が大きいと考えます(むろん異論があると思います)。とはいえ、所有者が遠隔地にいる場合や所有者(境界も含め)自体がだれか不明な場合は(竹藪ではよくある)なかなか責任を問いにくいのが実態でしょう。