たそかれの散策

都会から田舎に移って4年経ち、周りの農地、寺、古代の雰囲気に興味を持つようになり、ランダムに書いてみようかと思う。

レジャーとリスク管理 <浜松・天竜川下り船転覆 元船頭主任、逆転無罪>を読んで

2017-09-21 | 事故と安全対策 車・交通計画

170921 レジャーとリスク管理 <浜松・天竜川下り船転覆 元船頭主任、逆転無罪>を読んで

 

河は魅力溢れる存在です。河畔から眺めているだけでも楽しいです。でも河の中に入るとその魅力は計り知れないでしょう。まして川下りをして川の上流から下流、そして河口まで下ると。さらにいえば沢登りで源流を辿り、他方で海に出て海洋の広大さを味わうとなんともいえません。

 

でも自然に近づくことは危険が伴います。これが自分個人の責任の範囲でできるものであれば、生死をいとわなくてもよいかもしれません。

 

以前、グランドキャニオンを太古の?昔から岩盤を削りながら土石流のような激流が流れるコロラド川をカヤックで下る人たちをTVで見ました。激流に翻弄され、パドルも使えない状況でエスキモーロールなどを駆使して自由に体と一体化したカヤック操法で見事に暴れ川下りを成し遂げたのは圧巻でした。

 

このような危険な冒険も個人の自由な選択の範囲でしょうか。同じ川下りでも、事業として営み、旅客にレジャー環境を提供して料金収入を得るといった場合は、その安全管理やその体制も当然異なってきます。

 

毎日朝刊記事<浜松・天竜川下り船転覆元船頭主任、逆転無罪 「管理責任負わず」 東京高裁>はまさにそのような事業者が行う川下りで起こった転覆事故であり、船頭1名、乗客4名の死者が出て、関係者の業務上過失致死罪が問われました。一審では、事業を営む企業の担当課長、船頭主任および舳先船頭の3名が起訴され、全員有罪としたのですが、船頭主任一人が控訴し、東京高裁で逆転無罪判決となったケースです。

 

記事では<浜松市の天竜川で2011年、川下り船が転覆し乗客ら5人が水死した事故を巡り、業務上過失致死罪に問われた第三セクター「天竜浜名湖鉄道」の元船頭主任、小山正博被告(68)の控訴審判決で、東京高裁は20日、禁錮2年6月、執行猶予4年とした1審・静岡地裁判決(今年1月)を破棄し、逆転無罪を言い渡した。>となっています。

 

<事故は11年8月17日に発生。23人が乗った「第11天竜丸」が、川底から噴き上がる「噴流」に巻き込まれて転覆し、2歳児を含む乗客4人と船頭1人(当時66歳)が死亡した。>というのです。

 

で控訴した船頭主任について、<乗船していなかったものの船頭主任として起訴された被告について、1審は「(他の船頭への)適切な指導・訓練をほとんど行わないなどの過失で事故を招いた」としていたが、2審は「(会社との)業務委託契約を見ても、他の船頭に対する監督権限は見いだせない」と指摘。事故を予見できたかについても「現実的な危険性を認識し得たとは言えない」とした。>というのです。

 

高裁の判決引用文だけを見ると、当然の結果と思いつつ、なぜ一審が操船に直接関係せず、しかも安全管理の責任を法的に負っているとはいえない立場と思われる船頭主任に責任を認めたことに興味をもち、ついその判決文をデータベースで入手して、すこしだけ検討しました。

 

ざっと一審判決文を見ただけですので、結果責任のような印象を拭いきれない気がします。たしかにいくつか問題があったことは窺えます。

 

まず、判決自体が事業主体の特性に言及していないのですが、ウィキペディア<天竜川川下り船転覆死亡事故>によると、<静岡県・浜松市等が出資する第三セクター企業天竜浜名湖鉄道株式会社は、1948年に二俣町観光協会(当時)が開始した川下り事業を引き継いで、20034月より、天竜観光協会からの委託で「遠州天竜舟下り」として天竜川川下り事業を行っていた。>ということですから、川下り事業の安全管理ノウハウを鉄道会社が観光協会から適切に引き継いだか、また積極的にその教育・監督を向上してきたかが問われると思うのです。

 

毎日記事では<会社については「安全管理対策の構築に向けた対策の検討などを組織全体で行っていたとはうかがわれない」と、1審同様に批判した。>ように、一審判決では会社の担当課長の責任が問われていますので、詳細に言及しています。

 

一審判決文は事業の根拠法規に関連して、「本件舟下り事業は、旅客定員13名以上の旅客船を使用し、観光事業として定期的かつ不特定多数の者を対象として船舶による人の運送を目的とする一般旅客定期航路事業である。」として、「国土交通省から一般旅客定期航路事業許可を得て本件舟下り事業の運営」を行っていた別会社から「国土交通省の認可を得て事業を譲り受け」た上記会社が事業を行っていたことを指摘しています。

 

被告になったそれぞれの法的な立場については、まず会社の担当課長について「海上運送法10条の3第1項及び第2項に基づき策定した安全管理規程上の安全統括管理者兼運航管理者として、旅客船の運航及び輸送の安全確保並びに船頭等に対する指揮監督をする業務に従事していたもの」として、法令上の根拠を示しています。次に、今回問題となった船頭主任については、「舟下り事業の業務委託社員であり、船頭主任及び前記安全管理規程上の運航管理補助者として、船頭らに対する操船指導、被告人(舳先船頭 ここは私が改変)を補佐し旅客船の運航及び輸送の安全を確保する業務に従事していたもの」と法令上の根拠は明確でありません。最後に、「被告人●は、舟下り事業の業務委託社員であり、二級小型船舶操縦士の免許を取得している船頭として旅客船の操船業務に従事していたもの」としています。

 

少々長くなりましたが、事業の法令上の根拠と、各被告人の法的立場を引用しました。で、企業の法的責任は本日の焦点としておりませんで、船頭の操船に問題があったか、船頭主任にその監督責任があったかという点に絞ってみたいと思います。

 

とくに船頭主任ですね。一審判決は、担当課長の責任に関して「本件会社は、平成18年10月に国土交通省により施行された運輸安全マネジメント制度に基づき、安全管理規程を設け、その17条に、安全統括管理者の職務及び権限とし」と安全管理規定という内部規定を根拠に言及しています。

 

ところが、船頭主任は、先に判決も指摘するとおり、業務委託社員ですので、同様の法的責任があるのかが検討されなくてはいけないのですが、一審判決は「実際に行っていた職務の内容からすると、被告人●は、船頭主任として、船頭全体の運航管理や現場における操船訓練を始めとする運航の安全に関する責任者たる立場にあり、船頭に対する実質的な監督権限を有していたといえる。」と、実際に行っていた職務内容を理由に、船頭に対する実質的な監督権限を有していた」と断定しているのですが、これは高裁でおそらく否定されたのだと思います。

 

業務委託契約にそのような船頭に対する監督権限などが明記されていれば別ですが、法令上の根拠もなく、契約上も根拠がないことが、一審判決の判示事実から推認できますので、「安全管理規程上の運航管理補助者」といった一審認定にも首肯できないものがあります。補助者なんて簡単に指摘することは、刑事責任を追及する場合よほどの根拠がない限り避けられるべきだと思うのです。

 

そして核心の転覆事故の原因ですが、これがどうもよくわかりません。転覆は、難所である二俣城跡地近辺の流域の、渦巻き・噴出が起こるところで船が180度回転した後、右岸には浅瀬がありそこで下船することも可能なのに、左岸の岩場に展開して岩場に接触して操船コントロールを失い、少し下流で転覆したというのです。

 

そして船は舳先船頭と艫先船頭の二人が乗船していて、前者はもっぱら観光案内と操船補助、後者が操船を主導する役割で、艫先船頭が誤って操船し、転覆させた後死亡しています。

 

川幅は55mで狭いというのですが、決して狭いとはいえず、問題の左岸の岩場まで11mしかなかったというのですが、それだけあれば十分ゆとりがあり、適切に操船すれば岩場に当たることもなく下ることができた可能性が十分あるように思うのです。

 

乗客の言動とか動きがまったくわからないので、まだその岩場に接触した理由がよくわかりません。艫先船頭がまだ10数回程度の乗船経験しかないとか、当日艫先船頭をする予定だった船頭が体調が悪いと言うことで交代したことも、操船ミスに影響する事実とは言えないと思うのです。

 

もう少し丁寧に議論したいのですが、時間が来ました。今日はこれでおしまいです。いつか再開するチャンスがあれば、検討してみたいと思います。