たそかれの散策

都会から田舎に移って4年経ち、周りの農地、寺、古代の雰囲気に興味を持つようになり、ランダムに書いてみようかと思う。

地面師リスクと専門家の役割 <地面師事件 なぜ、積水ハウスはだまされたのか>などを読みながら+補充

2018-10-19 | 職業における倫理性

181019 地面師リスクと専門家の役割 <地面師事件 なぜ、積水ハウスはだまされたのか>などを読みながら

 

今日はちょっとしたことで仕事がはかどらず資料探しなどで時間を使いかなり憔悴気味でした。ただ、弁護士特約で依頼のあった交通事故の訴訟提起にかかわる着手金について、2ヶ月前に申請していたのが、保険会社による審査がやっとおり、入金されるとの連絡を受け、少し気分を取り戻しました。弁護士特約事件では示談交渉くらいでは着手金は報酬金と一緒に請求しますが、訴訟となると手間と時間がかなりかかりますので、それに専門家のサポートも必要な事案なので、保険会社の対応待ちでした。

 

疲労感が残っているので、本日のお題について考える気分にはならない状況で、最近また紙面を賑わせている積水ハウス地面師事件を取り上げてみようかと思います。

 

一昨日の毎日記事<地面師事件なぜ、積水ハウスはだまされたのか>は、誰もが疑問に思うことを取り上げているので、読みましたが、なにか釈然としないのです。以前、この事件については取り上げたことがあり、そのときは社内事情を紙面が問題にしていたので、その観点から言及しました。今度はどうかと思って読んで見ると、どうも隔靴掻痒なのです。

 

とりあえずその記事をフォローします。

<大手住宅メーカー「積水ハウス」(大阪市北区)が東京・西五反田の土地取引をめぐって約55億円をだまし取られた事件で、警視庁捜査2課は偽造有印私文書行使容疑などで地面師グループ8人を逮捕し、ほかにも数人の逮捕状を取った。>

今回のニュースが警視庁が地面師グループの多くを逮捕し、本格的な捜査に入ったことが契機のようです。

 

<事件の全容解明はこれからだが、・・・なぜ、積水ハウスはだまされたのか。同社の調査対策委員会が今年1月にまとめた報告書や関係者の証言から、一連の経過を追った。【五十嵐朋子、佐久間一輝、黒川晋史】>ということで、ネタは内部調査報告書(公表されたのかしら)と関係者証言と言うことです。

 

地面師に狙われた対象物件は<JR五反田駅からほど近いビル街に、うっそうとした樹木に覆われた一角がある。戦前から続く老舗旅館だった土地で、現在の建物は1954年に建てられた。大手ホテルチェーンなどが台頭する中、営業を続けていたが、数年前に廃業。>というのですから、ここから数年前まで老舗旅館として営業されていた土地建物ということがわかります。五反田駅周辺は90年代後半ないし2000年頃から飛躍的に開発の波がやってきて変貌著しい環境ですね。

 

売買経緯は<事件は2017年3月、「旅館の跡地が売りに出されている」という情報を積水ハウスの担当者が耳にし、・・・翌月18日に阿部俊則社長(当時)が物件を視察し、20日には取引を進める決裁を出した。担当者らは売買話を持ちかけてきた仲介業者を通じて「所有者」を装った女と接触し、同24日に63億円での売買契約が成立した。>

 

さすが大企業ですね、素早い対応です。でも<不動産業者の間では「のどから手が出るほど欲しいが、地主が首を縦に振ってくれない土地」として有名だった。>というのですから、地主の意思がなぜ変わったのかといった基本的な確認がされたでしょうか。

 

売買成立後直ちに仮登記をしたようです。

<自身の土地が仮登記されたことを知った「本当の所有者」(当時72歳、昨年6月に死去)だという人物が5月上旬、同社に内容証明郵便を送って来たのだ。「売買契約をしていないのに仮登記された」と、登記の取り消しを求める内容だった。>

 

こういった内容証明郵便は、相手が上場企業ですし、地主が高齢で病床にあったというのですから、弁護士からのものと思われます。所有者の行為ではないとして仮登記の取消を求める内容ですから、通常、顧問弁護士に対応を相談し(金額が大きいですし、地主の本人性や意思確認の必要からいえば売買成立前に必要です)、より慎重な対応が求められる事態です。

 

<内容証明は4回にわたって届いた>というのに、<積水側は「取引を妨害したいがための嫌がらせ」と解釈してしまった。>といった認識になること自体、異常な事態ではないかと思います。

 

ただ、地主側代理人としても、4回も内容証明を出すことはどうなんでしょうね。それだけ緊急を要すると考えていたのだと思われますが、そうであれば仮処分申立をするのが本来であったように思います。あるいは地主が病気で十分な意思疎通ができなかったのかもしれませんが、普通は4回も立て続けに出す前に、大企業とはいえ相手がかなりいい加減な対応をしていて、売買を実行し本登記手続をすることが相当程度予測しうる事態であったと思われますから、まずは仮差止めでしょうね。

 

あるいはどうせ地主本人の意思に基づかない無効な売買契約だから、本登記しても抹消登記手続請求によって原状回復できるので、被害回復は後からでもできると踏んだのかもしれませんが・・・このあたりは地主側弁護士の弁を聞いてみたい気もします。ま、ノーコメントでしょうか。

 

それより何より<土地登記の申請を審査していた法務局は6月9日、印鑑証明などが偽造されていることを見抜き、申請を却下した。この段になって初めて、積水ハウスは地面師詐欺の被害に遭っていたことに気付いた。>というお粗末さは当然ですが、ここで不思議なのは司法書士です。

 

登記手続の専門家である司法書士は、本人かどうかの確認、本人意思の確認、登記手続に必要な委任状の署名が本人によるものか、印鑑証明書が適正なものかどうかなど、プロフェッショナルとして、極めて慎重です。他方で、そういった注意義務を怠ると、損害賠償責任を負うのは当然です。

 

で、<被害額はグループ側が同社からマンションを購入するとして相殺した7億5000万円を除いた55億5000万円。同社は9月、詐欺容疑で警視庁へ刑事告訴した。>

 

ということですから、仮登記は申請通りに行われ、登記されたのですね。すると登記義務者である地主の承諾書と印鑑証明書を添付していると思いますが、まずこの時点で司法書士がどのようなチェックをしたかです。ただ、登記官も見逃していたことになりますから、見事な偽造だったと言うことでしょうか。印鑑証明書の偽造なんでできるのかと思うのですが、それも司法書士、登記官が見逃すとは・・・

 

本登記の時は、登記官が見破ったようですね。ただ、地面師グループにとってはすでに売買代金が支払われており、時すでに遅しですね。

 

毎日記事<積水ハウス土地詐欺被害 地面師スカウト役も 所有者役が誕生日、えと間違う>では、本人なりすましの問題が取り上げられ、次のような確認の経緯が取り上げられています。

 

<捜査関係者によると、羽毛田容疑者は昨年5月31日、売買契約が成立した後の本人確認の手続きで司法書士にえとを聞かれ、本当の所有者(当時72歳、昨年6月に死去)のえとではない答えをした。誕生日も正確に言えなかったが、偽造パスポートなどの本人確認書類がそろっていたことから手続きは続行され、翌日には手付金などを除く約44億円を受け取った。>

 

上記情報が正確であったとして、司法書士は、えとや誕生日を質問しながら、それが正確に答えられていないのに、羽毛田容疑者を本人と信じたようですが、それは疑問です。少なくとも認知症を疑って、判断能力の確認として簡易な長谷川式による質問をも検討するか、やはり本人性をしっかり確認する質問をすべきでしょう。数年前まで旅館経営をしていたというのですから、経営状態やあれだけの老舗旅館ですから常連客などを質問することくらいは普通でしょう。

 

偽造パスポートがどのような作り方なのか分かりませんが、仮に簡単に分からないほど精巧なものであったとしても、その渡航歴を確認することも必要だと思います。おそらくデタラメな内容だと思われます。

 

印鑑証明書は偽造でしょうから、実印とされるものも偽造でしょう。こういった印鑑証明書を精巧に作れるものなんでしょうかね。うーん。登記官もいったんはだまされたか、そこが不思議です。

 

ただ、この本人確認は、さほど難しくないはずだと思います。羽毛田容疑者は旅館経営の経験もないわけですから、ちょっと話せばすぐにばれるはずです。だいたい、誕生日も干支といった詐欺師として最低限度の知恵もないわけですから、すぐに化けの皮が剥がれるタイプですね。それをなぜ見逃したか不思議です。

 

今日はそんな不思議を書いてみました。このへんでおしまい。また明日。

補充

 

先日書いたこのブログでは捜査段階なので、事実関係が分からないまま隔靴掻痒であるとこぼしました。その謎解きで、道具屋の証言を取り上げてその一部を推測しています。

 

今朝の毎日記事<積水ハウス土地詐欺被害 作れぬ書類ない 精巧偽造、地面師も助長 旅券、印鑑 分野ごとに「道具屋」>では、詐欺の手口のうち、偽造パスポートと印鑑証明書の作成について、取り上げています。

 

<「作れないものはない」。今回の事件には関与していないが、印鑑作製などの依頼を請け負っているという男が、手口の一端を明かした。【五十嵐朋子、佐久間一輝】>

 

その話によると<印鑑を作る際は依頼主から印影のコピーを受け取る。それを旧知の印鑑業者に発注すると、早ければ1時間で印鑑が完成する。>たしかに印影のコピーがあれば、印影通りの印鑑を作ることはさほど難しくないのかもしれません。実際、そういった偽造を防ぐため、公文書はもちろん私文書でも印影部分は第三者に示すとき黒塗りにしています。

 

ただ、その印影をどのようにして入手したのか、そこが不思議ですね。不動産登記申請添付書類には印鑑証明書等印影が分かる文書がいくつか添付されていますが、その閲覧謄写は利害関係人とその代理人しか通常できません。弁護士や司法書士は、その立場で印影が本人のものか、委任状の署名が本人の筆跡と符合するかを調べることがあります。本件ではどのような経路で誰が入手したか、これもこれからの捜査で追求されるところでしょう。

 

次に印鑑証明書は、記事によれば、別の実印を作って登録したようです。

<積水ハウスの事件では、地面師グループは偽造した身分証で本人になりすまし、役所で新たに別の印鑑を実印として登録。その後に発行された「真正」の印鑑証明書を悪用する手口だった。>