たそかれの散策

都会から田舎に移って4年経ち、周りの農地、寺、古代の雰囲気に興味を持つようになり、ランダムに書いてみようかと思う。

開示とプライバシー <刑事裁判記録公文書館移管>を読みながら

2018-10-22 | 刑事司法

181022 開示とプライバシー <刑事裁判記録公文書館移管>を読みながら

 

刑事事件はいつの時代にも話題となることが少なくありません。むろんほとんどの刑事事件は関係者以外には関心をもたれることもなく、当事者も多くは忘れてしまいたいこともあり、いつの間にかその記憶も記録も失われていく運命かもしれません。

 

しかし、事件当時話題性を呼び起こしたかどうかに関係なく、その事件が今後の刑事事件の取扱に参考となるような場合研究対象となるなどのために保存し開示・利用に供することは意義のあることではないかと思います。

 

今朝の毎日記事<刑事裁判記録公文書館移管 開示・利用方法や対象選定に課題>として、この問題を取り上げています。

 

ところで刑事裁判記録の現状はつぎのような取扱とのこと。

<刑事裁判の判決が確定すると、供述調書や判決書を含む記録は1審の検察庁に戻され「門外不出」になる。確定から3年間は一部の閲覧が認められる(コピーはできない)が、その後は原則として見ることができず、保管期間が過ぎた後は、保存されているのか廃棄されているのかについても、外部からは分からない。>

 

私は再審事件を担当したことがないので不案内ですが、事件を担当する弁護人は当時の記録が身近に残っていないときでも、検察庁で記録を謄写して検討できるのだと思っていましたが、閲覧しかできず、しかも3年間に限られるとなると、再審請求するには事件当時の弁護人がしっかり記録を残していないといけません。通常は刑事記録はずっと保存していると思いますし、とりわけ無罪を争っている事件だと弁護人も何年経っても保存しているでしょうから問題ないかもしれませんが。

 

他方で確定後の保管は、<刑の種類や刑期などに応じて3~50年(判決書については最長100年)、検察に保管される。>

 

では最長の50年経過後の扱いはというと、次の指定がなければ廃棄処分するのでしょうね。<経過後は、刑事法制や犯罪の調査・研究のために重要だと判断されれば廃棄せず、法相が「刑事参考記録」に指定する。>

 

その保存される基準については<法務省刑事局長通達(1987年)によれば、刑事参考記録の指定基準は、死刑確定事件▽国政を揺るがせた犯罪▽犯罪史上顕著な犯罪▽無罪確定事件のうち重要なもの--などとされる。>

 

このような取扱の問題点としては、法務省・検察庁が内密に?指定するかどうかを判断しているわけですが、財務相や防衛省などの改ざん・隠蔽問題などで行政に対する信頼が揺らいでいることもあり、法務省も対応を迫られたようですね。

 

<法務省は先月、保管期間が過ぎた後も検察庁に保存されている刑事裁判記録のリストを作り、古いものを試行的に国立公文書館に移す方針を打ち出した。>具体的には

 

<法務省が4月に設置した「公文書管理・電子決裁推進に関するプロジェクトチーム」(PT)は9月、刑事裁判記録の保管の在り方についても一定の方向性を打ち出した。(1)明治期前半の刑事参考記録1~数件を国立公文書館に試行的に移管する(2)刑事参考記録としての保存が不要になって、法相が指定を解除する場合、法務省は国立公文書館などと協議し、「歴史資料」として重要と認められる場合は公文書館に移す--との内容だ。>

 

公文書館に移すとどのような結果となるかですが、

<公文書館に移されれば、原則として研究者らに対して開示されることが想定される。刑事裁判は公開の法廷で審理された「オープンな記録」とする考え方がある一方で、記録には事件関係者にとって不名誉な情報も含まれているとされる。>

 

そのような問題もあって、<刑事裁判記録が国立公文書館に移された実績はほとんどないとみられ>るそうです。

 

そもそも検察庁のこれまでの取扱では、<刑事参考記録について、法務省は学術研究などの必要があれば検察官の判断で閲覧を認めるとしているが・・・田中角栄・元首相(故人)らが有罪判決を受けたロッキード事件も参考記録に指定されているか明らかになっておらず、これまで事件研究に利用された形跡は見られない。>というのには驚きました。

 

私は公刊されているロッキード事件の裁判記録(題名は忘れてしまいました、何巻もある膨大な文書だったように思います)を東弁の図書館で、四半世紀前頃しばらく時間をかけて読んだことがあります。そこには弁護人の質問に対する供述が裁判調書のように掲載されていた記憶です。執筆者を確認したと思うのですが別にメモをとってまで読んでいたわけではないので、弁護人が書いたものかどうかは忘れてしまいました。弁護人であれば裁判記録を謄写しますので、それを出版することは可能でしょうね。

 

この事件の記録は、弁護人の法廷での弁護活動が赤裸々に掲載されていますので、法曹としての大変な経歴のある弁護人がいかにおざなりな(失礼ながら)質問をしていたかとか、弁護団の中で若手になる弁護人がいかに有効な質問をしていたかとか、勉強になりました。この事件は、そういった法廷弁護に限らず、話題沸騰の刑事免責付き嘱託尋問調書など、多様な法的問題を含んでいますので、この記録が指定されていないというのでしたら、一体、指定に値する事件があるのかと思うくらいです。

 

まあそれくらい法務・検察は刑事記録の開示に消極的であったわけですね。今回の公文書館移管でどう変わるかです。

 

記録のリストが公開されることに意味がありますね。<今回の改革で刑事参考記録のリストが公開されることで、何が保存されているのかが外部からもある程度分かるようになる。重要な記録が法務・検察当局だけの判断で廃棄されにくくなることにもつながる。>

 

参考記録の指定のあり方が問題になりますが、

<日本弁護士連合会は80年代に「(刑事参考記録は)広く法曹三者(裁判所、検察庁、弁護士会)ならびに学識研究者に利用されてこそ保存の意義がある。そのためには、保存記録の選定について、なるべく広く意見を徴する委員会を設置することが望ましい」と提案している。>のですが、改善されるのでしょうか。

 

他方で、開示・利用のあり方は、プライバシー保護の観点から慎重にされないといけないことは確かでしょう。ふつう弁護人は、刑事記録の中に、さまざまな個人情報がありますので、被疑者・被告人本人であっても注意しています。供述調書だと知られたくない被害者や第三者の住所・連絡先も記載されていますし、その内容自体も配慮する必要があります。

 

ましてや研究者といえども第三者ですし、以前たしか医師が記録を開示してそれが出版されて問題になったことがありますが、慎重な取扱が必要であることは少年・成年を通じてありますね。

 

<法務省刑事局によると、利用制限の方法は現段階では未定だ。例えば、プライバシーにかかる記載にマスキングを施す範囲を、移管や閲覧のタイミングで国立公文書館と検察庁が協議して決定するといった方法などが考えられるという。>

 

内部だけで調整するだけでよいかは、日弁連が保存記録選定で言及しているのと同じ論理で、見直してもらいたいと思うのです。

 

今日はこのへんでおしまい。また明日。