たそかれの散策

都会から田舎に移って4年経ち、周りの農地、寺、古代の雰囲気に興味を持つようになり、ランダムに書いてみようかと思う。

司法の役割 <特殊詐欺 3億円返還へ・・大阪地検>と<最高裁 相続分無償譲渡は「贈与」>を読みながら

2018-10-20 | 司法と弁護士・裁判官・検察官

181020 司法の役割 <特殊詐欺 3億円返還へ・・大阪地検>と<最高裁 相続分無償譲渡は「贈与」>を読みながら

 

強いジャイアンツはあまり好きになれなかったけど、弱すぎるジャイアンツもつまんない、と野球ファンというかスポーツ好きの私は勝手な意見の持ち主のようです。広島カープは強いですけど、菅野が一度も投げずに4連敗はないでしょうと思ってしまいます。このシリーズでは広島もさほど打てていないのに、いいところでホームランなりヒットがでて、貧打の割に高得点を稼いでいます。西武が一方的に勝つかなと思ったら、SBがしぶといですね。そういうゲームをしてもらいたいものです。

 

さて新聞やTVでは、サウジアラビアの記者で政権批判記事を続けていたカショギ氏を皇太子関係者が同国トルコ総領事館内で殺害したという猟奇疑惑事件が連日報道されています。サウジの独裁体制については、北朝鮮同様報道統制があってあまり実態が分かりませんが、時折、隠し撮りがいくつかの媒体に流れますね。しかし、ここまでやるかと思ってしまいます。SBの孫氏も超大規模経済連携をスタートしたばかりで、どうするのでしょうかね、昨夜の幕引き会見で収束するとは思えないのですが、日本も含め利害関係が複雑に入り組んでいて、今後どうなるか注視したいです。

 

そういったきな臭い話は横に置いていて、今日は司法の役割について、2つのニュースを手がかりに少しだけ考えてみようかと思います。

 

一つは昨夕の毎日記事<特殊詐欺3億円返還へ 震災仮設巡り 関係先で発見 大阪地検>です。特殊詐欺の被害者は年々増大し、被害者が申し出ただけでも相当な金額になりますが、捕まるのは末端ばかりで、被害回復の話は希です。そんなとき、この3億円返還はうれしいニュースです。大阪地検の功績でしょうか。

 

高嶋将之、松本紫帆両記者による記事はその意義について、<東日本大震災の仮設住宅購入をかたる特殊詐欺事件を巡り、大阪地検が、だまし取られた現金3億4200万円を被害者に返還する手続きを進めている。組織犯罪で奪われた財産を被害者に返す「被害回復給付金支給制度」に基づくもので、特殊詐欺事件としては最高額。>と指摘しています。

 

この事件の手口は<地検などによると、特殊詐欺グループが14~15年、東日本大震災の仮設住宅を購入するための名義貸しを高齢女性らに電話で依頼。その後、金融庁職員だと名乗って「名義貸しは犯罪。逮捕を免れる保釈金がいる」などと要求し、現金をだまし取った。>

 

上記の制度に基づき行われる被害者返還について、<地検は今年7月から、ホームページで給付を告知し、裁判で被害者とされた16人を超える28人(今月10日現在)が既に申請。西日本豪雨で被災した一部地域については、11月末まで募集を続ける。口座の記録などで裏付けられた被害に応じた金額を分配する。>とのこと。

 

特殊詐欺事件では飛び抜けた返還額というのですが、被害総額に比べるとほんの一部にとどまっています。むろん検察・警察も必死に犯人を追及しているのでしょうが、多くの特殊詐欺事件では、なかなか本丸にたどり着けない状況でしょうか。私も受け子の一人を担当しましたが、すらすらと中国の拠点や各地での詐欺行為を話しますが、リーダーの存在や所在となるとよく分かっていないか、話しません。

 

<日本弁護士連合会は今月、被害回復制度の拡充を国に求める決議を公表した。>ように、弁護士会も、被疑者・被告人の人権保護の活動を従来通り行いつつ、最近は被害者支援に向けた活動を活発に行うようになりました。

 

被害回復について、<詐欺グループは他人名義の口座や海外の金融機関を駆使し、巧妙に資金を隠す。警察は、拠点を見つけて容疑者や証拠を一気に確保する「アジト急襲型捜査」を強化するが、多額の現金が見つかる例は少ない。>として、特殊詐欺事件ではとくに被害に遭うと事後救済はよういではないことが実態です。やはり事前の被害に遭わない対策を講じることがなによりも先決で、従来の被害情報の分析を踏まえて(情報共通して)、予防策を講じる必要があると思うのです。いたちごっこかもしれませんが、銀行窓口を介するようなケースは少なくなったと思いますし、ATM対応もかなり進んできたと思います。自宅訪問や電話対応について、より有効な策を講じることが求められるのでしょうか。

 

だらだらと愚見を述べましたが、今度は少し格調高く?、最高裁判決を取り上げます。

 

今朝の毎日記事<最高裁相続分無償譲渡は「贈与」 遺留分請求認める 初判断>です。

 

相続分の譲渡自体が事件として争われるのはそう多くないと思いますが、このケースではその法的性質をめぐって本質的な問題が争点となりました。

 

<父親の死亡時に、母親が自身の相続する持ち分(相続分)を特定の子に全て無償譲渡したため、母の死亡時に母の遺産を受け取れなかった他の子が最低限度認められる相続の「遺留分」を請求した2件の訴訟の上告審判決が19日、最高裁第2小法廷(鬼丸かおる裁判長)であった。小法廷は「相続分の無償譲渡は贈与に当たる」との初判断を示し、他の子が遺留分を請求できると認めた。裁判官4人全員一致の判断。【伊藤直孝】>

 

なぜこれが問題となるかですが、相続分の譲渡では、具体的な財産が当事者間で移動するわけではありません。相続分の譲渡の結果、譲り受けた相続分を前提に、相続人間で遺産分割が行われた場合、被相続人の死亡時に遡ってその相続の効力が発生します。たとえば、母から2分の1の相続分を譲り受けた子は、その相続分と自分の相続分を加えた分を、父死亡時に、父から相続することになります。

 

ですので、譲り受けた子は、譲渡を受けた相続分に相当する財産を父から相続したのであって、母から贈与を受けたものではないと考えるのも相続法理に符合します。他方で、他の譲渡を受けなかった子は母からの相続分の譲渡はその財産価値相当の贈与を受けたと見て、母死亡時、遺留分減殺の対象となると考えるのも自然でしょう。父の相続では贈与と言えなくても、母の相続では贈与とみることができます。でもこのように考えられるかは、下級審で争いがあったようです。私自身は、30年くらい前、東弁で発行した法律税務の書籍の中で、この部分を担当していくつかの場合分けをして書きましたが、当時は母の相続時までは検討していませんでした。もう古い話です。

 

なぜ相続分の譲渡が行われるかですが、私自身も、30年くらい前に原稿を書いたとき、それ以前に父親の遺産相続をめぐってきょうだい間で紛糾し、母親が困ってしまっていて、家業を継いでいる子に渡して、自分は紛争当事者から外れたいと相談され、相続分譲渡に関する公正証書を作ってもらったことがあった記憶です。

 

だいたい相続分の譲渡をするような方は、紛争に巻き込まれたくないという気持ちと、誰かに財産管理を任せたいという気持ちがあって、決心するように思います。当時はまだ相続分譲渡に関する文献もほとんどなく、定説もなかったような記憶ですね。実際の現場では結構使われるか、あるいはあえて文書化しないで口頭合意でやっていたかもしれませんが。

 

この最高裁判決でより明確になったと思います。相続分の譲渡をチョイスとして考える人も増えるのではと思います。

 

父の相続の場合母が2分の1の相続分を譲渡(父・母逆もありますね)することは有効であり、この移転に贈与税が別途かかるわけではないのです。一つの議論として、譲渡人がその相続分全部を譲渡したとき、遺産分割の当事者の地位を残しているかが問題になりますが、確立した定説はないかもしれません。私は譲渡の意図や法的性質から、譲渡人がいなくても遺産分割は有効にできると考えます。さて、最近の実務を検討していませんが、どうでしょうかね。

 

今回の最高裁判断は、父ではなく母の相続のとき、相続分の譲渡を贈与として取扱い、その遺産価値に相当する利益を受けたと言うことで、母の遺産が現存していなくても、他の子はこの相続分に相当する経済的利益を特別受益の対象となる贈与額として遺留分減殺請求できるとしたのですが、合理的な判断ではないかと思います。

 

今日はこのへんでおしまい。また明日。