180315 都市問題の解決策は妥当か <建築基準法等の一部改正法律案>などを読みながら
国交省はいま、森友学園事件の書き換え(ねつ造?)問題に絡んで、財務省理財局の傍らで、飛び火が来ないかと懸念している一部官僚がいそうな雰囲気もうかがえます。朝日報道の後、国交省がいち早く問題文書の写しを財務省に送ったようにも映ります。責任転嫁されないよう対応したのではないかと邪推してはいけませんが、つい外野はこぼしてしまいます。
ま、国交省としては、本来の課題を丁寧に解決していく問題が山のようにあるわけですから、国会にはきちんとした法案をできるだけ提出して、国会でその多くを審議成立してもらいたいと思っているでしょうね。
その一つが今日の日経アーキテクチャからのメール便にあった<建築基準法改正案、大規模火災対策を強化>であり、ついでに見つけた<新しい用途地域「田園住居地域」の規制内容>かもしれません。
改正法案は、いつもその背景・必要性があり、それに対処する内容であることが望ましいわけですが、こういったことについて丁寧に国会で議論を尽くされることを期待したいところです。でもそうなっているか、国民の多くは疑問をもっているように思います。私はその一人ですが。
日経の記事は<大規模火災対策を強化>を強調して取りあげていますが、私自身は既存建築ストックの活用や木造建築の推進により関心があります。
空き家問題は全国に広がっていて深刻です。他方で介護・福祉施設の建築は都市部では容易でないですね。その解決策となるかを内容から検討してみたいと思います。またわが国の山林の蓄積量は膨大で、伐期となっているものが放置され荒廃しています。建設用材としての利用が萎んでしまって需要が少なく、原木価格が下落する一方です。その解決策となり得るかを見てみたいと思います。
と同時に、都市緑地の活用策でしょうか、<「田園住居地域」>という新しい用途地区を四半世紀ぶりくらいでしょうか、新設する取組も興味深く感じています。
田園住居地域という名称は、他の用途地区名と比べ、異色で割合響きがいい感じですが、名称通りに内実が伴うか、少し検討してみたいと思います。
まず、建築基準法の一部改正案から取りあげてみようかと思います。国交省の3月6日発表の<「建築基準法の一部を改正する法律案」を閣議決定>によれば、大別すると3つの類型があります。
(1) 建築物・市街地の安全性の確保
(2)既存建築ストックの活用
(3) 木造建築物の整備の推進
(1) は<糸魚川市大規模火災(H28.12)や埼玉県三芳町倉庫火災(H29.2)などの大規模火災による甚大な被害の発生>を背景にしています。
たしかに大規模火災対策は、遅くとも昭和30年代後半から言われ続けてきたと思いますし、これまでも多くの改正により対策をとってきたと思いますし、都市再開発の多様な手法も加わって相当程度改善されてきたと思いますが、糸魚川市のような木造密集地は今なお全国に多数残っていると思います。それが今回の法改正でどの程度実効性があるものか法案概要ではさほど期待できないように感じています。
維持保全計画や既存不適格建築物の所有者等への指導勧告制度新設、延焼防止性能の高い建築物の建蔽率10%緩和で、具体的にどのくらい改善を見込んでいるのでしょう。私には、なぜ既存不適格建築物が多数残っているかについて、どのような実態調査が行われ、その中で所有者等(たいてい複雑な利用関係が背景にあります)の意識をどこまで把握できているのか、懸念します。だいたい10%の建蔽率緩和で建て替えが進むような状況がどの程度見込まれるのでしょうね。それにいくら延焼防止性能が高くても、たいていの課題対象地は密集しているのですから、ますます息苦しい状態になるように思います。はたして都市のあり方としてよろしいものか、その当たりの手当をどう配慮するのか、具体的な制度を見てみたいと思います。
(2) は問題の空き家を解消し、福祉施設等に活用するという考え方はごもっともと思うのです。ただ、空き家で問題になっているような建築物の多くは、倒壊の危険や景観上問題があるような建築物だと思いますが、それはそのまま、あるいはリフォームで別の用途に利用できるような状態にはないと思われるのです。むろんこの制度では<戸建住宅等(延べ面積200㎡未満かつ3階建て以下)を他の用途とする場合に、在館者が迅速に避難できる措置を講じることを前提に、耐火建築物等とすることを不要とする>という緩和措置を提供することなので、一定のメリットがありますが、建築確認不要とするのが100㎡から200㎡に拡大しても(その程度では)、そのような活用が可能な建築物は極めて限られるように思われます。新築を規制するか、リフォーム利用を促進する制度を充実させないと、商業施設はもとより福祉施設としてもそのような活用は期待薄ではないでしょうか。
(3) は木造建築物等に係わる制限の合理化と銘打っていますが、やはり抜本的な制度改革とまでは言いがたいように思うのです。
次のような対象の拡大は一歩前進ですが、やはり大規模はもとより中規模建築物でも耐火性に問題ありとの見方が強いと思われます。しかし、地域性や環境条件次第で、西欧のようにより柔軟に中規模・中高層レベルまで問題なしとすることを検討する時期にきているようにおもうのです。すでに集成材などでは高度な技術で構造材としての能力がアップしていることを踏まえた抜本的な改革を検討することを期待したいです。
[1] 耐火構造等とすべき木造建築物の対象の見直し(高さ13m・軒高9m超 →高さ16m超・階数4 以上)
[2] [1]の規制を受ける場合についても、木材をそのまま見せる(あらわし)等の耐火構造以外の構造を可能とするよう基準を見直し等
すでに一時間が経過してしまいましたが、もう一つの田園住居地域についても頑張ってみたいと思います。
<「都市緑地法等の一部を改正する法律案」を閣議決定>で発表されたものは、言い尽くされた内容ですが、それでもその指摘は評価したいと思います。
その背景として<公園、緑地等のオープンスペースは、良好な景観や環境、にぎわいの創出等、潤いのある豊かな都市をつくる上で欠かせないものです。また、災害時の避難地としての役割も担っています。都市内の農地も、近年、住民が身近に自然に親しめる空間として評価が高まっています。>
そのために次の3つの類型で新たな制度を用意するというのです。
(1) 都市公園の再生・活性化(都市公園法及び都市開発資金の貸付けに関する法律関係)
(2) 緑地・広場の創出(都市緑地法関係)
(3) 都市農地の保全・活用(生産緑地法、都市計画法及び建築基準法関係)
(1) は都市公園の活用ですね。さらに具体的な内容として次が上げられています。
[1] 都市公園において保育所等の社会福祉施設の占用を可能とすること
[2] 民間事業者による公共還元型の収益施設の設置管理制度の創設
[3] [2]の制度に基づく施設整備への都市開発資金の貸付け
[4] PFI事業に係る公園施設の設置管理許可期間の延伸(10年から30年に)
[5] 公園運営に関する協議会の設置
[6] 都市公園の維持修繕に関する技術的基準の策定
保育所等の使用を認めるというのはいいとしても、いずれも施設中心の考え方にこだわっているように思えるのです。もっと都市公園のあり方の多様性を検討してもらいたいと思うのですが、それはまた別の機会にでも少し掘り下げてみたいと思います。
(2) は都市緑地の活用を促進しようというのでしょうか、次の3つが具体的な制度としてあげられています。
[1] 市民緑地設置管理計画の認定制度の創設
[2] 緑地保全・緑化推進法人(緑地管理機構からの名称変更)の指定権者の見直し(知事から市区町村長に)、指定対象の追加(まちづくり会社等)
[3] 緑の基本計画の記載事項の拡充(都市公園の管理、都市農地の保全の方針)
ただ、誰のための制度かという切り口で、利用者サイドに立って、市民参加の手続きや公開性の担保とかにもう少し充実を図って欲しいと思うのですが、都市公園以上に都市緑地が活かされていないように思える現状の原因分析がどこまでされたのか注目したいと思っています。
(3) は都市農地を対象にして、以下の4つの制度を準備しています。
[1] 生産緑地地区の一律500㎡の面積要件の緩和(一律500㎡から条例で引下げ可能に)
[2] 生産緑地地区内で直売所、農家レストラン等の設置を可能とすること
[3] 生産緑地の買取り申出が可能となる始期の延期(30年経過後は10年ごとに延長可)
[4] 田園住居地域の創設(用途地域の追加)
最後にようやく田園住居地域が出てきました。生産緑地の活用策を充実しようということでしょうが、なぜ農家がこの制度を十分に活用できていないか、このような制度で対応できるか、私にはあまり期待できない印象です。
とくに田園住居地域は、ネーミングはいいとしても、最も良好な住宅地として設定された第一種低層住居専用地域が、風致地区制度を兼ね併せていても、西欧の田園都市とは似て非なる状態のわが国では、大きな期待はむずかしいですね。その地区設定の条件自体、「田園」という命名に似つかわしい内容でないと、羊頭狗肉になりかねませんので、しっかりと吟味してもらいたいものです。
今日はこのへんでおしまい。また明日。
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