ばらくてブログ――おうたのかいオブさんのおおばらブログ――

おうたのかい作曲・歌唱担当オブさんが、日々のあれこれをてきとうに綴る、まとまりもとりとめもないいかがわ日記

エッセイアーカイブ⑪  もてない人になる方法

2021-07-09 18:48:23 | Weblog
エッセイアーカイブの11本目は、新潟東高校文芸部誌「簓」の第4集に書いた顧問エッセイです。おヒマな折にでもお読みください。

もてない人になる方法 

 今も昔も、若い人たちにとって大切なものはといえば、異性(もちろん同性でもOK)を恋い慕う心、早い話が恋愛感情とか、あるいはお互いを大切な存在として認めあう友情とかであるようです。映画やテレビドラマ、小説やマンガの世界などでも、恋愛や友情をテーマにしたものがやはり主流です。まあ、中には「何よりもお金やモノのほうが大切だオレは」などという人もいるのでしょうが、それはそれとして、一般的には、若い人たちの多くは「愛情」を注ぎ注がれる相手を、また、心と心を開き合い通わすことのできる親友を常に追い求めているように見えます。
 実は、そうした思いは若いときだけのものではありません。社会に出て勤め人などになれば、上司や同僚との人間関係も常に良好に保っていたいものですし、できれば「良い人間」として認められたい、愛される人間になりたいとだれもが思います。結婚などしてしまえば、妻や夫、子供にも愛情を常に注ぎ続けることも要求されます。ぶっちゃけた話、人生とは「愛を追い求め続けること」であるとも言えます。
 しかし、そんなふうにやっていると、どうしても途中で息切れがします。早い話が、嫌われないように、好かれるように振る舞うことに疲れてしまうのですね。あんまり愛を求めすぎるのも、そういう意味ではとっても「ウザい」ものです。
 そんなうっとうしい人間関係から解放されたい、真の意味で自分らしい生き方をしたい、という方々のために、わたしは「もてない人」になることを提唱します。もてない人になれば、ウザい人間関係から解放され、他人に気を使う必要もなく、自分独りの世界を守ることができるのです。この際、ここで皆さんに、わたしの経験に基づいた「もてない人になる方法」を伝授いたします。

①根拠のない自信を持つ
 「もてない人」になる第一歩は、根拠のない自信を持つことです。例えば、高校生のころのわたしは、とにかく自分の能力というか才能に、やたら自信を持っていました。将来は売れっ子のシンガーソングライター、あるいはベストセラー小説家になるのだと、何の根拠もないのに思っていました。毎日毎日文芸部室で歌を唄い、オリジナルの歌を作り、小説めいたものを書いては、周りの仲間に聴かせ、読ませていました。それが、本当は箸にも棒にも掛からない駄作であろうと関係はありません。とにかく、「自分はすごい」と思うことが大事なのです。

②しかし、努力はしない
 ですが、そのために努力をする、などということはやってはいけません。高校生のころのわたしも、もちろん努力などしませんでした。小説を書くために何か特別な勉強をしたということもありませんし、シンガーソングライターになるために作曲や作詞の基本を学んだなどということもありません。夢を実現するためひたむきな努力などしてしまうと、周りから「あいつは夢を実現しようとがんばっている魅力的なやつだ」などと思われ、あろうことか友人が増えたり、彼女・彼氏ができちゃったりしてしまうからです。うっとうしい人間関係から逃れたいのなら、そんなことになれば大変です。間違っても、努力などしてはいけません。そうすれば、「あいつは口先だけの人間だ」と思われ、友人も次第に減っていき、もちろん彼女・彼氏などできる心配もなくなります。
 このような人間になれば、もう確実に「もてない人」への道をまっしぐらですが、まだまだ足りません。さらにもう一押し、

③常に自分中心に考え、行動する
 ということが重要になります。
 「もてない人」であるためには、とにかく自分が一番でなければ気が済まない、という態度を貫かなければなりません。例えば、友人同士が何か共通の話題について楽しく語らっているときに唐突に割り込んで、全く関係のない自分の話に強引に持っていってしまう、などという行為を「もてない人」は平気でできなければいけないのです。いつでも自分が話題の中心でなければ気が済まず、もし話題が自分と関係のない中身で終始し、自分が置き去りにされたと感じれば、たちまち不機嫌になって場の空気を壊し、それでもだれも自分を相手にしてくれないと、いじけて家に帰ってしまったり、場合によっては大暴れしたり。これこそが「もてない人」の行動の真骨頂です。早い話が「自分を中心にオレの話を聞けと叫ぶ」わけですね。
 そこで大事なのは、「もてない人」本人は、周りの人たちから自分が嫌われ、ウザがられているなどとは夢にも思ってはいけない、ということです。いつでもどこでも、自分こそが王様なのであり、世界の中心なのであり、従って自分のあらゆる行動を周りの人間はすべて許容しなければならず、自分のことを周りはもっと気を使ってくれて当然だ、とこのように思わなければなりません。もちろん、他人の話なんかいちいち聞いてはいけません。ここまで来れば、「孤独ライフ」を満喫できるようになるまであとほんのちょっとですが、さらにダメ押しするならば、

④相手の話を常に否定し、揚げ足を取る
 という態度を常にとるのもいいでしょう。友人と会話をしていても、いちいち「それは違うんじゃない」「それって意味分かんないよ」「バッカじゃないの」などと言い続ければ、確実に嫌われること請け合いです。
⑤「もてない人」のでき上がり
 てなわけで、以上のことを実践すれば、そのうち、仲間からの遊びや宴会にも誘われなくなり、もちろん電話やメール、手紙も来なくなります。これで、立派な「もてない君」のでき上がりです。

 そんな「もてないくん」だったわたしですが、高校を出て大学生や社会人になり、シャバを渡っていく中で、いろいろと生きにくさを感じることも多くなったので、とりあえず「もてない君」の振る舞いをやめてみました。すると、いつの間にか友人も増え、何と数年前には結婚までしてしまいました。
 もちろん、友人との人間関係には面倒くささも伴いますし、連れ合いからはしょっちゅう生活態度について叱られたりもするのですが、昔と今と、どっちが楽しい? と尋ねられれば、「そりゃあ今の方がずーっと楽しいねえ」と答えてしまう、わたしなのでした。

新潟東高等学校文芸部部誌「簓」第4集(2007年3月6日発行)顧問エッセイより