……………………………(有資格者 1)…………
毎月安全パトロールが現場にやってくる。
現場内を巡察すると同時に《有資格者》の確認も行われる。
職人さんとして工事現場の門をくぐって来るが、例えば大工道具を持っているからとい
ってその人に資格があるとは限らない。
ここでいう資格とは建設現場での作業主任者として技能講習修了者の話である。
現場の場内看板にも作業主任者の名前は掲示する決まりになっている。
おおまかに言えば、地山掘削・土留・型枠支保工組立・足場組立・鉄骨組立・有機溶剤・酸欠・木造組立・建物解体・・・などあり、土木部門には橋架設・ずい道掘削・砕石・掘削などを含めて技能講習を終了したという有資格者の下で作業を行う事が必要なのである。
また特別教育を受講しなければならない軽作業もあるし、免許証を必要とし高度な技術
を要求される作業も当然ある。
現場所長は協力業者から提出された作業員名簿の中から、資格者を把握しておく必要があるが、資格者のいない協力会社もままあるものだ。
資格者が少ない会社と工事契約を結ぶのも問題であるが、社長のみが有資格者であって名簿上の現場作業員として兼務になっている場合は、安全監理に複雑度が増すのである。
又、有資格者が数名いる協力会社でも、稼動している現場の数ほど資格者がいなければ、掛け持ちの現場となり、複数の現場で名簿上のみ在籍というミエミエの場合すらある。
「それを承知で現場作業をさせる訳には行かない」
と労務安全部は正論で迫る。
「有資格者がいなくても、職人さんは仕事が出来る」
と現実論を蒸し返す。
この議論は安全パトロールで指摘事項によく出るが、職人さんが激減している中で、更に、
「有資格者を確保しなさい」
と言う方も、言われる方も実際、面白くない。
大きな現場で3工区に分けて工事を進めていた時は、
「1工区に一人は必要です。北面と南面は同時に見られないから、それぞれに一人必要で
す」
「ここに有資格者が2人いる為に、他の現場はやりくりに困っているのを承知で、まだ資
格者を引っ張って来いと言われるのですか?」
「そうです、労基署が巡察に来られたら…」
「労基署の為に、汗水流してンじゃあねえ!」
(法で定められているのは知っているが、頭数は今更、どうにもならない)
またもや、書類チェック事項に×マークが記入されてしまった(慣れてるが…)。
建設業界に有資格者が極端に少ない訳ではないし、職人さんの能力がないから講習を受けないのでもなく、社長が資格者を育てようとしないからでもない。
社長さんは、若い職人さん達に仕事を教え、腕を上げて稼げる職人に育てるのが会社の信用になり、儲けてくれるようにと、家族同然の信頼関係があり育成している。
しかし、一人前になって資格を持つと、職人さんは独立したくなって親方から離れて行くのが時代の流れでもあるのだ。
(やっとここまで育てたのに…)
(俺は…この腕で勝負してみたい!)
親方の苦労も分かるし、独立したい職人の気持ちも分かる。
私にはどちらの味方も出来ないし、応援も出来ないし、助言する権限もない。
協力業者の内部事情も分かるが、ゼネコンは見過ごせないモノがある。
《有資格者 2へ 続く》