勝ち残り生き残るたびに、人の恨みを背負わねばならぬ。それが剣客の宿命なのだ――剣術ひとすじに生きる白髪頭の粋な小男・秋山小兵衛と浅黒く巌のように逞しい息子・大治郎の名コンビが、剣に命を賭けて、江戸の悪事を叩き斬る――田沼意次の権勢はなやかなりし江戸中期を舞台に剣客父子の縦横の活躍を描く、吉川英治文学賞受賞の好評シリーズ第一作。全7編収録。裏表紙より。
漫画で何回か読んだことあるけど原作はどんな感じなのかしらん。
(※7月9日追記、元の本は1973年1月)
女武芸者
台所から根深汁(ねぎの味噌汁)のにおいがただよってきている。
このところ朝も夕も、根深汁に大根の漬物だけで食事をしながら、彼は暮らしていた。
若者の名を、秋山大治郎という。
「これからはな、お前ひとりで。何も彼もやってみることだ。おれは、もう知らぬよ」主役の1人・大治郎登場。現在24歳ながら、剣術道場をかまえる一国一城の主である・・・
こういって父の秋山小兵衛が、ここへ十五坪の道場を建ててくれた。廊下をへだてて六畳と三畳ニ間きりの住居があっても、道具類はほとんどない。食事の仕度は、近所の百姓の女房がしてくれる。
なお道場を建てて半年たつも門人はいない模様。
今は明らかに貧乏暮らしのこの大治郎、
剣術の方は老中・田沼意次が開いた剣術大会でちょっとした活躍をするほどの腕前。
そんな大治郎の下に、怪しい侍が現れるところから物語は始まるのです・・・
「人ひとり、その両腕を叩き折っていただきたい。切り落とすのではない。両腕の骨を折っていただきたい」「斬ってくれ」なら分かるけど、なんだそりゃ。
よくわからない話だけど、報酬は50両。『庶民が、らくらくと五年を暮すことのできる大金』。
ふーむ、これは・・・とにかくおいしい話ですナ。
「どこのだれの腕を、いかな事情にて叩き折れと、申されますか?」こまけぇこたぁいいんだよ!!
「名は・・・・・・名は申せませぬ。御承知下さるならば、われらが手引きいたす」
秋山大治郎は、執拗にねばりぬく大垣を、ついに、ああっ、勿体ない・・・
「おことわりいたす」
追い返してしまった。
でもここまで(6ページ)で、大治郎がどんな男かはなんとなくわかる。
『怪しげな依頼』を断った大治郎、依頼される原因になったであろう剣術大会への出場を根回ししてくれた父・小兵衛に、いちおうその件を報告す。
さて、小兵衛はどんな人物なのかなー?
つい一月ほど前に、めずらしく父が道場にあらわれ、小兵衛60歳、おはる19歳・・・・・・
「下女のおはる、な・・・・・・」
「はあ?」
「あれに手をつけてしまった。いわぬでもよいことだが、お前に内密もいかぬ。ふくんでおいておくれ」
ジジイ、爆発しろ。
大治郎は小兵衛に依頼の件を話してすっかり忘れるも、気になった小兵衛は調査を開始。
狙われていたのは『田沼意次・妾腹のむすめ』と突き止める。
むすめの名は、三冬といって十九歳。小兵衛寵愛のおはると同年だそうだが、この三冬、自分を妻に迎えるべき人が自分より、この三冬、女ながらに通っている剣術道場で『四天王』と称されるほど。
「強いお人でなくては、いや」
こういったそうだ。
どうやらその辺に「両腕の骨」を狙われた理由があると読んだ小兵衛。
息子の大治郎は依頼を断ったんだから小兵衛には全く関係無いんだけど・・・
「退屈だったからさ」三冬を襲った連中をあっさりぶちのめして。
ま、年寄りのお節介ってやつですか。
後日、小兵衛に助けられた礼を言いに来た三冬。
「男は、きらいかね?」小兵衛60歳、おおはる19歳、三冬19歳・・・・・・
たたみこむような小兵衛の問いに、三冬が「きらい」とこたえ、すぐさま「秋山先生だけは、別」と、いった。口調が急に甘やかなものに変っので、小兵衛がおどろいて、三冬を見た。
小麦色の三冬の男装ゆえに、妙に少年じみた顔が燃えるような血の色をのぼせているではないか。
ジジイ、爆発しろ。
一方息子の大治郎は、小兵衛がそんな事件に首を突っ込んだことも知らず、道場で独り瞑想にふけるのでありましたとさ。おしまい。
剣の制約独りで読書or瞑想の暮らしを続けて『〔ひとりごと〕など、もらしたことのない』大治郎。
「うまい」
と、秋山大治郎がつぶやいた。
ひとりごと、なのである。
一体何があったというのだ・・・!?
あまりにも長い間、根深汁ばかりの毎日だっただけに、さすがの秋山大治郎も、田螺汁に嘆声を発してしまったことになる。大治郎25歳。いまだ道場に入門者無し(正確には1人いたけど3日で辞めた)。
そんな大治郎の下に今回も来訪者が。
今度は怪しい侍じゃなくて、『秋山小兵衛の〔弟弟子〕』である嶋岡礼蔵。
大治郎が、小兵衛の師匠の下で剣術修行をしていた時の『〔第二の師〕』とも言える人物。
「大治郎。こたびは、おぬしにわしの、死に水をとってもらわねばならぬ」なにやらおだやかではない話。
「真剣の勝負をいたす」hmhm・・・
「なんと・・・・・・?」
「約定によって、な」
今まで2回戦い、1回目は勝って2回目は引き分け。
今回はおそらくいよいよ・・・ということらしい。
「ようきけ、大治郎。好むと好まざるにかかわらず、勝負の決着をつけねばならぬのが剣士の宿命というものだ。おぬしが父の小兵衛どのは、そこを悟って、老の坂へかかったとたんに、ひらりと身を転じたそうな・・・・・・ふ、ふふ・・・・・・小兵衛どのとて、ずいぶんと手きびしく打ち負かした相手が何人もいる。負けたものは、勝つまで、挑みかかってくる。わかるか、な?」・・・宿命なー。
そしてこの一件で、大治郎もまた『剣士の宿命』を背負うことになる。
「剣客というものは、好むと好まざるとにかかわらず、勝ち残り生き残るたびに、人のうらみを背負わねばならぬ」うーむ・・・となる話・・・
本当に残念な表現力だな!
芸者転身三冬の来訪は止まず、おはるの嫉妬も止まず・・・
(それにしても、この年齢になって・・・・・・)
孫のような女ふたりに、もてはやされようとは小兵衛、おもってもみなかったことだ。
ジジイ、爆発しろ。
もっとも弥七のように、親の代からの御用聞きで、小兵衛がちょいちょい手を借りる御用聞き、弥七。
「おれは、やましいことを何一つ、してはいねえ」
と、胸を張れるような男は、ほとんど女房が別の商売をやったりして、暮しをささえているわけであった。
警察とか政治家とか、暮しの心配が無い程度には懐に入らないとどうにもならない訳だね・・・
「老後が心配で」何かやらかされても困るし。
とはいえ、MottoMottoが人間のheartでありsoulでもあるという。
うーん。
井関道場・四天王[速報]三冬は空気読めない子
女だてらに剣術のほうは相当なものだが、そこは「世間知らず」の、しかも男女のことについてはまったく少女のごとき三冬であるから、そうしたおはるの態度を見ても、彼女が小兵衛とただならぬ仲であることなど、考えてもみないのである。
三冬が所属する剣術道場の跡目争いが今回の主題。
腕はもう一つだけど門人に人気はある後藤九兵衛。
最古参で1番腕が立つけど人望はほとんどない渋谷寅三郎。
そしてこれも三冬以上に腕が立ち旗本の御坊ちゃまでもある小沢主計。
これに三冬を加えて『四天王』。
三冬にその気は全く無いものの、他の3人に飛び抜けた者がなく、三冬の父・田沼意次の政治的な立場も絡んでややこしい事態に。
道場の後援者として困った田沼意次が、以前から三冬に聞かされていた小兵衛に相談してみようという結論に至り、結果巻き込まれる小兵衛でありましたとさ。
「恐ろしいのう。天罰は、よ」黒い、このジジイ、黒いでぇ・・・。
「へ、へい・・・・・・まことに恐ろしゅうございます」
弥七は、うつむいたまま、顔をあげられなかった。
普段ひょうひょうとしている小兵衛の、剣客としてのプライドが感じられる話。
雨の鈴鹿川なんというイケメン・・・!
明日は雨でも出発するつもりの秋山大治郎である。雨なら雨、雪なら雪で、難儀の旅をすることは、
(自分の心身を鍛えることになる)
と信じている大治郎だから、いささかも苦にならぬ。
(寒いと愚痴る周りに対して)「心頭滅却すれば火もまた涼し!」
「涼しくなってどうする」
なんてやりとりを思い出してごめんなさい。
そんなイケメン大治郎の安眠を妨害するのは隣の部屋の客。
大治郎は、夜具をあたまからかぶり、舌うちをした。二十五歳の今日まで、女体を知らぬ大治郎であったが、これは我からのぞんでしていることなのである。亡き恩師も、また父も、ヤタースノードリフト倒したよー^^
「剣術をもって身をたてるつもりならば、若いうちは女に気を散らしてはならぬ」
と、いっていたし、また若い自分の肉体に充満するエネルギーは、きびしい剣の修行へ向けて発散され、そこに別のかたちで蓄積されてゆくことを大治郎はたしかめている。若さは、いかなることをも可能にする。禁欲をもだ。
そして、一定の目的へ振り向けた若い健康な男の禁欲は、かならず収穫をもたらすものなのである。
ちょっ、ちょっと休憩しただけだし!
その後、とある敵討ち騒動に巻き込まれる大治郎でありました。
「さ、それが女という生きものよ。男には、とうてい出来ぬことさ」事の顛末を小兵衛に報告して。
「恐ろしゅうございますなぁ」
「そうさ。剣術よりも、むずかしいぞ」
こんな迷惑な女は見たことが無い。
「それよりも、な・・・・・・」ジジイ、爆発しろ。
「はあ?」
「いま、台所で、酒の仕度をしているおはるのことなのじゃが・・・・・・実は、お前のゆるしをうけなくては・・・・・・」
「と、申されますと?」
まゆ墨の金ちゃん大治郎に「剣士の宿命」が襲いかかろうとしていたのです・・・。
「そりゃ、まことに危ないのか?」
「秋山大治郎殿の腕前は、私、いささかも存じませんが・・・・・・はい、はい。ちょいとあぶない」
「ふ、ふふ・・・・・・」ジジイ・・・
小兵衛が、さびしげに笑い、
「わが手からはなれ、わが手よりはなした一人前の息子の身を按ずるなどとは・・・・・・まさに、笑止のきわみだ。この秋山小兵衛ともあろうものが、さ」
大治郎に刺客が放たれたことを知人から聞かされても、その場では「おのれで片づけるべき」「死んだとしても仕方ない」と言っていたのに。
その言葉通りに放置しておはるとイチャイチャ過ごすかと思いきや、流石に心配なようで。
しかし刺客が襲撃する日時まで知りながら、結局本人には伝えない小兵衛。
(大治郎は、おのれ一人のちからにて、切りぬけるべきである)どんな時も頼りになるんだけど、完璧超人ではないのが魅力なのかもしれない。
この剣客としての信念から告げなかったのだとすれば、それは父としての愛から発したものなのか・・・・・・それとも、小兵衛の衒いから出た者か、老骨の依怙地からなのか・・・・・・。
小兵衛の親心の他、「剣士の宿命」そして「(実力がある)剣士の性」が感じられる話。
御老中毒殺三冬、容赦ねぇな。
「これ。二度と悪さができぬようにしてやろう」
いうや、地面に伏せてうなり声をあげている掏摸の右の手ゆびをつかんだ。
掏摸の悲鳴が起った。
その三冬が『青ざめて』『あぶら汗』をうかべる事態を、やはり小兵衛が鮮やかに解決。
田沼意次の器の広さに三冬との和解の兆しも見える回・・・で終わらない。
「帰って来てから、いっしょに風呂へ入ろうかえ」・・・・・・
「うれしい・・・・・・」
「背中をながしてやろう、久しぶりでな」
「ううん、背中だけじゃあいやですよう」
「よしよし。みんな、みんな、洗ってやるぞ」
「あい、あい」
縁先の植え込みに咲き盛っている松葉牡丹の花の色も、夕闇に溶けこんでしまっていた。
ジジイ、爆発しろ。
感想は次の言葉に尽きる。
ジジイ、爆発しろ。
小兵衛と(又は「か」)大治郎があれこれやって事件解決、要は水戸黄門的な安心感。
これこそ小説は爆発だってやつです、はい。