青年団公演
「もう風も吹かない」
作・演出:平田オリザ
1ドル420円という日本政府の財政破綻によって、JICA海外青年協力隊の活動停止が決定…という状況の中、
最後の派遣隊員となる青年たちの訓練所におけるその侘しく切なく不安満載の生活を描くことで、
人間が人間を助けることの可能性と本質を探る青春群像劇。
2003年の初演では演じるほうも観るほうも、202X年という設定を楽しむ余裕もあったと思うけど、
8年ぶりの現代におけるその舞台はリアルに地続きで、
その諦観・絶望感は終演後の舞台と客席とで暫くの間、救われない空気として停滞するものがあった。
初演時のオリザの言葉が、ずっしりとのしかかる。
私は、ここ10年ほど、日本は滅びるという妄想に取り憑かれ、そのような作品ばかりを多く書いている。
海外での仕事が増えるにつれ、この妄想は、ほとんど確信へとかわり、
今年は、「南島俘虜記」「もう風も吹かない」と、共に、行き場の無い日本を描く作品を書くに至った。
学生には授業でも言い続けてきたことだが、この滅びの時にあたって、私たちが考えなければならないことが二つある。
一つは、先回の大日本帝国の滅亡の時のように他国に迷惑をかけることなく、
どうにか潔く滅びることはできないものかということ。このことは、珍しく、今回の戯曲の中にもセリフとして書いた。
もう一つは、たとえ日本国が滅びても、私たち一人ひとりも、その一人ひとりが形成する地域の文化も、
国家の巻き添えになって滅びる必要は露ほどもない…ということだ。
経済と物質を唯一至上の価値とするようなこの国は滅びてしまってかまわない。
人の心を一つの型に押し込み、そこから外れたものを汚物のように忌み嫌うような社会は、滅びてしまってかまわない。
演劇を作るという行為を通じて、個々人が自分の頭と心と身体で、何かを感じ取り、考え続けること。
そして、そこから得た結果を自分の判断として、責任を持って他者に向かって表現していくこと。
その表現の孤独に耐えること。私が大学で教えられることがあるとすれば、たぶん、そんなことくらいだろう。
【キミの将来のことは、ボクには関係ない】…と教え子の藤田貴大氏は学生時代オリザさんに言われたらしいが、
この「もう風も吹かない」に描かれている海外青年協力隊訓練生たちも、国から見放される…という絶望感の中でも、
海外に赴きコトを成し遂げようとする前向きさでもって、前途を果敢に切り開こうとしている。
2013年という絶望的な時代の中にあっても、個々人が自分の頭と心と身体で、何かを感じ取り、考え続けること。
一人ひとりが己の孤独に対峙すること。足元をしっかりと固める行為が連なって初めて、
「滅びゆく国家」を転覆させ再生させる底力へとつながるのではないか…と、思いを新たにした公演だった。
追加公演あり。席まだまだ余裕あるようです。ぜひ!
「もう風も吹かない」
作・演出:平田オリザ
1ドル420円という日本政府の財政破綻によって、JICA海外青年協力隊の活動停止が決定…という状況の中、
最後の派遣隊員となる青年たちの訓練所におけるその侘しく切なく不安満載の生活を描くことで、
人間が人間を助けることの可能性と本質を探る青春群像劇。
2003年の初演では演じるほうも観るほうも、202X年という設定を楽しむ余裕もあったと思うけど、
8年ぶりの現代におけるその舞台はリアルに地続きで、
その諦観・絶望感は終演後の舞台と客席とで暫くの間、救われない空気として停滞するものがあった。
初演時のオリザの言葉が、ずっしりとのしかかる。
私は、ここ10年ほど、日本は滅びるという妄想に取り憑かれ、そのような作品ばかりを多く書いている。
海外での仕事が増えるにつれ、この妄想は、ほとんど確信へとかわり、
今年は、「南島俘虜記」「もう風も吹かない」と、共に、行き場の無い日本を描く作品を書くに至った。
学生には授業でも言い続けてきたことだが、この滅びの時にあたって、私たちが考えなければならないことが二つある。
一つは、先回の大日本帝国の滅亡の時のように他国に迷惑をかけることなく、
どうにか潔く滅びることはできないものかということ。このことは、珍しく、今回の戯曲の中にもセリフとして書いた。
もう一つは、たとえ日本国が滅びても、私たち一人ひとりも、その一人ひとりが形成する地域の文化も、
国家の巻き添えになって滅びる必要は露ほどもない…ということだ。
経済と物質を唯一至上の価値とするようなこの国は滅びてしまってかまわない。
人の心を一つの型に押し込み、そこから外れたものを汚物のように忌み嫌うような社会は、滅びてしまってかまわない。
演劇を作るという行為を通じて、個々人が自分の頭と心と身体で、何かを感じ取り、考え続けること。
そして、そこから得た結果を自分の判断として、責任を持って他者に向かって表現していくこと。
その表現の孤独に耐えること。私が大学で教えられることがあるとすれば、たぶん、そんなことくらいだろう。
【キミの将来のことは、ボクには関係ない】…と教え子の藤田貴大氏は学生時代オリザさんに言われたらしいが、
この「もう風も吹かない」に描かれている海外青年協力隊訓練生たちも、国から見放される…という絶望感の中でも、
海外に赴きコトを成し遂げようとする前向きさでもって、前途を果敢に切り開こうとしている。
2013年という絶望的な時代の中にあっても、個々人が自分の頭と心と身体で、何かを感じ取り、考え続けること。
一人ひとりが己の孤独に対峙すること。足元をしっかりと固める行為が連なって初めて、
「滅びゆく国家」を転覆させ再生させる底力へとつながるのではないか…と、思いを新たにした公演だった。
追加公演あり。席まだまだ余裕あるようです。ぜひ!