『海辺の生と死』@テアトル新宿
さんざん観るべき映画を見逃してきたので、この映画だけでも…と縋る思いでテアトル新宿へ。
一挙に島時間へ引き込まれた。全篇「満島ひかり=島尾ミホ」のための映画。
1945年3月、沖縄は慶良間諸島に米軍上陸で、その後の本島上陸→南部決戦と悪夢の3ヶ月を送る…という時に、
奄美の加計呂麻島はこんなにも穏やかで、まともな島生活を送っていたのだな…という、
沖縄も上陸前はもしかしたらそれぐらい長閑だったのかしら、と羨むような空気。
8月の原爆投下の時期に至っても、オルガンを弾きながら歌う余裕がある…とは。
実際、加計呂麻島での巡り合わせは思し召しであったのかと思えるほどの、
島尾敏雄中尉と大平ミホのつながりは神秘的でさえある。
息子の伸三さんが2008年に綴った両親の話からは想像がつかないほどの神秘性である。
いや、それだけ純真な愛に没入できたからこそ
戦時を生き抜くことが出来たのかも知れない。
ミホが敏雄を守ったのだ。
それほどの深みを満島ひかりは自然体で演じていた。
これだけ運命的な時間を生きたふたりだからこそ、
死の淵を彷徨う「死の棘」の濃密な時間もあったのか…と思う。
「おとうさんの字は晩年になるに従い、
丸みを帯びて来て、
字を書く時にまで自分を偽っているようで、
私にはむしろ不気味に思えるのでした。」(島尾伸三)
ますます島尾家を、奄美を、加計呂麻島を知りたいと思った。