幸福というものは、こういうものなのだ。
目を閉じて、圧巻の演奏を思い出し、美しい笑顔を思い浮かべながら、その実感を強くしていた。
7日、福島市音楽堂で開かれた演奏会「ベルリン・バロック・ゾリステンWITH神尾真由子&ジョナサン・ケリー」に出かけてきた。
目的は神尾さん。10年ほど前だったか。大みそかの何かのジルベスターコンサートをテレビで見ていて、当時10代だった彼女の圧巻の演奏を見た。「なんじゃ、こりゃ!」と大衝撃。
数年前には、郡山市で開かれたチャイコフスキー・ガラで初めて生で聴いて、「こりゃ」が判明した。
「神尾じゃなくて神だ!」
今回の演奏も素晴らしかった。で、演奏会のあと購入したCDとDVDと当日のパンフレットにサインをいただいた。約1・5メートル。そこに神尾さんが、神がいるのだ。サインの後、ちょっぴり笑んでくれた。何度もテレビで見ている、片方の唇を少しだけ上げる、あの笑みだ。
「ありがとうございます」と俺。しかし、二の句が継げない。
バイオリンを始めたのはあなたの演奏を見てからなんです。チャイコフスキー・ガラも見ました。NHKの特集は今でもDVDで見ています。プリモは初版を買ったのでDVDもいつも見てます。世界中の音楽家の中で、一番好きなんです。
言いたいことはいくらでもある。が、いざ眼前にしてしまうと「果たして俺なんぞが神に話しかけることが許されるのだろうか」と萎縮してしまう。
握手を求めてもいいのだろうか? ぜひ、一生の宝として握手してもらいたい。彼女に触れただけで、バイオリンもものすごくうまくなるはずだ。いや、やっぱり、この美しい宝石に俺なんぞの脂っこい指紋が付いてしまったら大変じゃないか。
彼女の前にいた3秒くらいの間に、頭の中に欲と畏怖が嵐のように渦巻いた。
で、結局は何も言えず、次の人に押され気味に、俺はファンの列からはじかれてしまった。
駐車場まで歩いて車に乗り込むと、しばらく目を閉じた。そして冒頭のような夢見心地。5分ほど、ほうけていたと思う。
夕食時、息子に猛烈な勢いできょうの神との遭遇を説明した。息子は「よかったね」と生返事。DVDを貸してやると申し出たが、「いや、ぼくは大丈夫だから」。
いかん、いかん。自分の好みを押しつけては。
しっかし、神尾さんの演奏は本当に人の心を奪ってしまいますな。そうい意味では、悪魔的な神様か。
きょうは月曜日。まだ昨日の演奏が頭の中を駆け巡っている。仕事にならんじゃないか。
再来週は郡山市でウイーン放送フィル。またほうけてしまいそう。ホント、現実世界に戻って、きちんと仕事も頑張らなくちゃ。
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