まくとぅーぷ

作ったお菓子のこと、読んだ本のこと、寄り道したカフェのこと。

border cafe 前編

2017-12-20 23:12:30 | 日記


10年くらい前のこと。
某県営住宅の集会所にオープンした教室で
小4と小2の姉妹が体験学習した。
体験後、姉妹の母と面談した先生。
「二人を通わせるだけのお金はない。
どちらか一人だけならなんとか。
お姉ちゃんと妹、どっちがいいでしょうね。」
と相談を受ける。
小4の姉は勉強が難しくなってくる学年、
壁に突き当たってしまっている感があり
今手を打たないと中学に入って苦労するのが
目に見えている。
小2の妹は成績が良く、今から教室に通えば
ハイレベルの学校へ進むことも出来る。
苦渋の選択。最終的には親御さんが決めるしかないのだが
先生も聞いている私も何とも言えない複雑な気持ち。
うちの教室の月謝は世間一般的に高い方ではないけれど
(その割には充実したサービスを提供しててお得だと思うけど)
それが高いか安いか決めるのは支払う家庭なわけで
立ち入れない領域になってしまう。

かつて先生の応募に来た人が
そもそも塾が必要だということ自体おかしなことで
学ぶべきことは公立の学校できちんと修めさせるべき、と
熱く語っていた。
じゃあなんであなたここに来たのさ、ってのは置いといて
言ってることは一理も二理もあると思った。
学校教育が公共事業である理由は
子供をちゃんとまともな大人に育てないと
国の存続が危ういから。
子供ってそれを産み落とした親だけのものじゃないから。

ところが現状としては
それぞれの子供の学力は、その親の財力と見事に比例するという。
そして親の財力(子供の学力)は二極化していて
それぞれの極で「ループ」が起きている。

8割が付属学校からの持ち上がりまたは提携校からの推薦で
入学している(当時)という私立大学に
レアな「学力試験を受けての合格」をした私は
そこで初めてハイソサエティに属する人間というものを
目の当たりにした。
父もしくは自前の高級車を乗り回し、ハイブランドの服を着て
夏休みには家族でゆったり海外に出かけ、
卒業旅行に来ていく服を選ぶためにシンガポールへ買い物に行く。
学校には来ていても講義に出るでもなく、
いつの間に資料を集めたのやら、試験対策は万全で
きっちり4年間で単位を揃え
親のコネを使って一流企業に就職していく。
いや、万一単位が危うくても
親が野球界のスーパースターだったりすると
学校がその学年の生徒全員にゲタ履かせて卒業させてやる
なんて荒技も繰り出され。

「無理だ」と思った。この人たちに挑める勝負はない。
とはいえ商社の秘書課かなんかに行って
そういうハイソな男と結婚してその世界に乗り込もうとは
考えなかったので
ある意味とても公平な世界だと思われた技術屋になったんだった。

ただ、反対の極については、これまであまり考えたことがなかったので
今回クリスマスパーティのお手伝いに行くことに決まった
「border cafe」について色々調べているうちに
現在のこの日本で、子供が6人いたら1人は相対的貧困であるというのに
衝撃を受けた。

border cafeは横浜市にある県立大和東高校の会議室で
毎週金曜日に設置されている。
生徒は放課後そこに来れば、無料で飲み物やおやつにありつけ、
集まった友達やスタッフとゲームに講じたり
ウクレレやギターの演奏を聴いたり。

主宰の石井さんは、もともとはここに相談員としての仕事を依頼された。
個室に自分の意思でもなく連れてこられ、よく知らない大人に対峙され
「じゃあ悩んでること言ってごらん」って言われても
生徒の問題解決には遠い。
そうじゃなくて、生徒が自主的に来たくなるような場を設け
そこにふわっと存在し、ウクレレ弾きながらゆるっと交流することで
「信頼貯金」を増やしていけば
生徒が何か困った時に「石井さんに話してみよう」と
思いついてくれるだろう、
というのがborder cafeの成り立ち。

大和東高校は2017年の今年から「クリエイティブスクール」認定となった。
今の2、3年生までは受験をして来ているが、1年生はみんな
学力試験や内申提出はなく、面接と論文で入学して来ている。
2016年までの偏差値は41、これは中学のクラスに40人生徒がいたら
30番目くらいの成績となる。
クリエイティブスクールは、中学までの勉強にしくじってたとしても
学校に行けなかったとしても、
これからはちゃんと通って来てちゃんとやる、と表明した生徒を救う。
だが、そうなれば生徒の中に貧困層が占める割合が増えて行くだろうと
石井さんは心配している。

ちょっと具合が悪いとしても、医者に連れていってもらえない。
お腹が空いていても、親にそれをいうのも憚られる。
そんな状態で勉強なんてとてもじゃないけどできない。
自分で欲しいものは夜までバイトして稼いで買うしかない。
そうすると朝は眠くて始業に間に合わない。
行ったとしても授業は理解できない。
高校自体に行く意味を感じられなくなる。中退する。
その低さの出口から社会に出たらほぼ生活保護への道を行くことになり
そこにたどり着くのが20台後半だったとしたら
「高校生からそこまで10年かかる。その間何の手当も受けられない。
だったら高校生の時に、その道を予防する機会を与えたい。」
というのが石井さんの考えなのだそう。

これから行くところのリサーチは終えて
私には少し不安が残った。
やることと言ったって、クリスマスケーキ作るのを
見守ってるだけ。
でも、実際、どんな子たちがそこに来るんだろう。