『オルフェ』 Orphee (仏)
1950年制作、1951年公開 配給:新外映=東宝 モノクロ
監督 ジャン・コクトー
脚本 ジャン・コクトー
撮影 ニコラ・エイエ
音楽 ジョルジュ・オーリック
主演 オルフェ … ジャン・マレー
プリンセス … マリア・カザレス
ウルトビイズ … フランソワ・ペリエ
ユリディス … マリー・デア
アグラオニケ … ジュリエット・グレコ
セジェスト … エドゥアール・デルミ
詩人オルフェの通う詩人カフェに王女と呼ばれる女性現われ、オートバイにはねられた詩人セジェストの死体をオルフェに
手伝わせ彼女の館に運んだ。そこでセジェストは一旦蘇り王女の導きで鏡の中に消えてしまった。王女とセジェストを追った
オルフェは鏡にぶつかって気を失い、目覚めたときには鏡も館もなくなっていた。オルフェは妻ユリディスの待つ自宅に戻ったが
夢うつつで王女の美しさの虜になってしまった。ユリディスはオルフェの愛が離れてしまったことを悲観する。そのユリディスも
オートバイにはねられて死の国へと旅立ってしまった。オルフェは不思議な手袋の力で冥府との境界の鏡を通り抜けると
王女にユリディスを現世に蘇らせてほしいと懇願する。王女は死の国から現世に戻る途中に絶対に振り返って妻の顔を見ない
という条件で現世に連れ戻すことを許した。しかし、王女に嫉妬したユリディスはオルフェにわざと自分の顔を見させて
再び姿を消した。ひとり現世に戻ったオルフェだったが詩人仲間たちからセジェストを奪ったと非難されて殺されてしまう。
オルフェに愛を覚えていた王女はオルフェの死を知って死の国の入り口でオルフェを待っていたが、自らの愛を棄てて
オルフェ夫婦を生の世界に戻すべきだと決心して二人を現世に送り返した。
ギリシャ神話のオルペウス伝説を基に、死と生の境を彷徨する詩人の姿を幻想的に映像化した感覚的な作品です。
原作のギリシャ神話では、オルペウスの妻エウリュディケーが毒蛇にかまれて死に、オルペウスは妻を取り戻すために
冥府に潜入して物悲しいの竪琴を奏でながら冥界の王ハーデースと王妃ペルセポネーに妻を現世に戻してほしいと哀願、
その結果「冥界から抜け出すまでの間、決して後ろを振り返ってはならない」という条件でオルペウスの愛が認められた。
しかし冥界からあと少しで抜け出すというところでオルペウスは後ろを振り向いてしまい妻と永遠に別れることになる。
というものなのですが、これをコクトーが現代風にそして詩的に大胆にアレンジして見事なファンタジーに仕上げています。
コクトーは夢想した唯美主義を映像化するためにトリック撮影をふんだんに盛り込み、造形的でかつ魔術的な視覚表現に
彼自身の詩が重ね、鏡を媒介にして冥界と現世が詩的に交差するという俗世を超越した夢幻の世界を築き上げました。
詩人、小説家、劇作家、評論家、画家、映画監督、脚本家など数他の肩書を持つコクトーは1932年にシュルレアリスムによる
『詩人の血』という前衛的な短編映画を作っていますが、その『詩人の血』も現世から異次元に入り込んで夢想の世界を
垣間見るという内容でしたが、 『オルフェ』においてもその想いが語り継がれています。
(このシーンのトリック撮影は『詩人の血』でも実験済みでした)
コクトーは映画製作に関して「スクリーンは私の夢の実態を映し出す真の鏡である」と語っており、また、「詩人はつねに真実を
語る嘘つきである。」そして「芸術は意識と無意識の融合である。」という名言を残しています。
『オルフェ』はそんなコクトーの自由な発想と私的な感性が実を結んだ耽美的な幻影であるがゆえに、映画を観るというよりも
コクトーの俗世を超越した夢幻の世界にただただ浸り込むだけでよいのかもしれません。