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なおしのお薦め本(46)『忘れられた日本人』

  クリエイト速読スクール文演第1期生の小川なおしさんから、お薦め本が届いています。今回も「オマケ」つきです。

  『忘れられた日本人

            宮本 常一

 著者は民俗学者で、永六輔氏の師匠です。

  歴史の教科書には載ることのない庶民の暮らし。それを明らかにしようと著者は全国を歩きまわり、老人たちの話を聞きました。この本はその成果です。

 では、「村のよりあい」と題された文章の一部を引用します。

 

   「ちょうど農地解放のすすめられている頃のことであった。長野県諏訪湖のほとりの村で農地解放の指導をしている知人からおもしろい話をきいた。

 どこでもおなじことであるが、農地に対する農民の愛着はつよい。しかも大きい地主の方は割合話がつきやすいが、小地主には問題が多い。むしろ開放する方が不合理だという場合がすくなくなかった。わずかばかりの土地をつくっていたのを息子が出征したので、かえって来るまで作ってくれとたのんだのを、そのままとられてしまったというような例は実に多かった。このような場合はともかくとしても、精出してかせいで、一、二町を所有するようになり、その手あまり地を開放せねばならぬというような場合には、その長い労苦が無視せられた苦痛をいやというほどなめさせられたのである。それだけに小地主と小作の間に問題が多かった。私の知人もそうした事に手をやいたのである。

  ところが六十歳をすぎた老人が、知人に『人間一人一人をとって見れば、正しい事ばかりはしておらん。人間三代の間には必ずわるい事をしているものです。お互にゆずりあうところがなくてはいけぬ』と話してくれた。それには訳のあることであった。その村では六十歳になると、年より仲間にはいる。年より仲間は時々あつまり、その席で、村の中にあるいろいろのかくされている問題が話しあわれる。かくされている問題によいものはない。それぞれの家の恥になるようなことばかりである。そういうことのみが話される。しかしそれは年より仲間以外にはしゃべらない。年よりがそういう話をしあっていることさえ誰も知らぬ。知人も四十歳をすぎるまで年より仲間にそうした話しあいのあることを知らなかった。老人から話の内容については一言もきかされなかったが、開放に行きなやんでいるとき『正しいことは勇気をもってやりなさい』といわれて、なるほどと思った。そこで今度は農地解放の話しあいの席でみんなが勝手に自己主張をしているとき、

   『皆さん、とにかく誰もいないところで、たった一人暗夜に胸に手をおいて、私はすこしも悪いことはしておらん。私の親も正しかった。祖父も正しかった。私の家の土地はすこしの不正もなしに手に入れたものだ、とはっきりいいきれる人がありましたら申し出てください』といった。するといままで強く自己主張をしていた人がみんな口をつぐんでしまった。

  それから話が行きづまると『暗夜胸に手をおいて……』と切り出すとたいてい話の緒が見出されたというのである。

   私はこれを非常におもしろい話だと思って、やはり何回か農地解放にぶっつかった席でこの話をしてみた。すると実に大きなきき目がでてきたのである。どこでもそれで解決の目途がつく」

 

  歴史の教科書の副読本としても、道徳の教科書としても、この本は使えそうです。

  しかしながら、私が教師であっても生徒にこの本を薦めることはないでしょう。

  それはなぜか。読んでみればわかります。        なおし

 

             参考記事

      ※もりぞう爺さんの話(上) 

       オマケ

       ―なおしのメール―

松田さん、こんばんは。

永六輔の本を読んで「この人の本を読んでみよう」と思いながら、後まわしにしてしまっていました。民俗学者の本だし、岩波文庫は字が小さいし、またにしようかな、なんて思っていたのです。

解説に「本書は無限の宝庫を秘めた民俗資料といっても決して過言ではない」「しかしこうした読み方だけでなく、(中略)本書のすべてを文学作品とうけとることもできる」とあるのですが、そのとおりです。
いやあ、すごい本です。それではまた。     小川

 

コメント ( 1 ) | Trackback ( 0 )
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コメント
 
 
 
えっ!! (空猫)
2014-11-24 04:48:35
なんて終わり方を……

薦めてるのか薦めないのか気になるじゃないですか……
探してみようかな。
 
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