ゴルフ場で仲間との会話、相手は元会社の後輩。場所は食堂。
「今度のコンペ欠席なの?」
「あの日は天理教へ毎月お参りするので出られない」
「天理教?天理教の信者なの?」
「長い熱心な信者です」
「ほう!それは知らなかった。で、どういうことで信者になったの」
「お袋からの継承」
「なるほど!お袋さんは天理教を信じておられた訳だ」
「そう。従兄弟が教会をやっている。そこへ毎月15日はお参りする。何があっても優先する」
「立派なものだ。あんたは出自のこともこの間話したね。人は外見だけでは分らないものだ」
「俺は前に話したように戸籍上の父がいない非嫡出子だ。父の56歳の時の子。しかもその父は訳ありの人だった。だから戸籍を入れなかったと聞いている。ぼろアパートに住んだ」
「へぇ!よくグレなかったなぁ。断酒会の体験談で聞いたのは、両親が離婚し自分を捨て伯母に預けられ成人した。そのうちに耐えられなくなってお酒に溺れるようになり病院治療へ、断酒会につながりまともになった。彼は断酒会の役員を10数年やってバトンを渡した。こういのをアダルトチルドレンという。断酒会の体験談を聞くとこの手の体験談は珍しくない。親の負の相続みたいなもの。話すことによって自分が解放され、自分ではどうしようもない心の葛藤から解放される訳だ。仲間意識とそれが断酒継続につながる。あんたは偉いよ、心の葛藤を抱えながら70年も生きてきてグレなかった」
「お袋に小さい時からしっかり言われて育ったから」
他の2人のうち1人が口を挟んで、
「俺は手次寺の檀家総代をやっている。今度本堂と他の建物を建替えるのに億の金を集める。檀家の意見合せ、寄付金割り当て、いろいろもめて苦労している。天理教は寄進が大変だと聞くが・・」
「昔、市から1等地を譲ってもらい本堂を建てたとき、家内に内緒で100万円寄付した。おっかぁにバレて離婚すると怒られた。いまは毎月5万円の寄進をしている」
「5万円!毎月」
「高級ゴルフクラブを毎月1本買っているようなものさ」
「ほう!立派だなぁ」
それから何度もお参りした天理市の天理教本部の建物や教理・天理教病院まである天理市の様子のこと、彼は修練道場で駅の便所掃除からいろいろの信者体験を語った。今までの彼とは結びつかない、想像がつかない話だった。
教団に洗脳されたとか、マインドコントロールと片付けては、歴史ある教団と彼に失礼だろう。
彼にとっては単純に他人には言い得ない信仰なのだろう。それがまた宗教の救いのなのかと思った。
彼は頭も勘も悪くはない。率直で嘘がなく純粋な人柄でゴルフも上手い。
ゴルフは男を素直にする、男の社交場です。