【霊告月記】第四十六回 欅坂46「不協和音」新海誠「天気の子」ダブル批評
★☆★☆『不協和音』批評★☆★☆
★けやき坂46の振付師:TAKAHIRO:7年前のダンス・パフォーマンス
欅坂46の「不協和音」の振付はTAKAHIROこと上野隆博(うえの たかひろ)が担当している。上野による「不協和音」の振付はまったく独創的なもので、ある意味グロテスクと言っていいほど常識からかけ離れている。優美さを完全に投げ捨てている。振付それ自体が「不協和音」を前面に押し出している。上野でなければアイドル・グループにこういう振付を授け得る人はいなかったかもしれない。
ウィキペディアの上野隆博評価によれば <その活動は世界からも高く評価され、ニューズウィーク「世界が尊敬する日本人100」に選出している。マドンナからは「輝かしいダンサーであり、とても才能のある素晴らしい振付家」と評価を受ける。ニューヨーク・タイムズ紙はTAKAHIROのことを「驚愕の表現家」、アポロ・シアターは「若き天才」と評する> とのことである。
しかし、趣味判断、つまり好き嫌いや美醜の価値判断は、人によって大きく違うのが常態であって、たとえば上野による「不協和音」の振付を美しいと見るか醜悪と見るかは人によって違うかもしれない。この振付をグロテスクと見る見方もありうるのである。感受性というのは知識ではない。身体に埋め込まれた情念の深層からの反応である。趣味判断が議論で収束することはない。それは双方のどちらかが感受性の改変を伴って初めて議論の収束が可能なモンダイだからだ。
美醜の判断だけでなく、食べ物の好みでも同じです。辛い物が好きで甘いものが苦手な人に超甘のスイーツを薦めて、「この美味しさが分からないのは変!」と決めつけられては、辛党の人は困ってしまうでしょう。
古代ギリシアの哲学者エンペドクレスはこう述べています。<ひとがその性質をさまざまに変えるのに応じて、ちょうどそれだけ彼らにとって、考えがさまざまに変わるということもまた そのたびごとに起こるのである>。要はそういうことです。
】 霊告 【 我らみな実存的ロマン主義に徹すべし! Keyakizaka46
特別出演:橋川文三 要はそういうことです。
★☆★☆『天気の子』批評★☆★☆
新海誠監督の『天気の子』を私はお盆の翌日(8/16)に見ました。たいへんに素晴らしい作品であったと感じました。この映画は思春期の少年と少女の出会いの物語です。天気を左右する力を得た少女に家出少年が東京で出会うというストーリーです。文学の原点である「ボーイ・ミーツ・ガール」を繊細に反復しています。
「我は海の子」という歌がありますが、海の子を天気の子と読み替えたところに新海誠のオリジナリティがありそう。映画館は海ではなく山でもなく都会のど真ん中にある。映画館を出れば真夏の太陽がギラギラと光っている。「最高だ!」と叫ぶ少年と少女たち。光輝く特別な一日をこの映画は届けている。これがいい映画でなくて何がいい映画なんでしょう。最高ですよ。夏の太陽。天気の子。
この映画の理想的な観客は、夏休みに入ったばかりの小学生高学年・中学生・高校生・大学低学年、といったところでしょう。もっと絞れば主人公の少年少女と同じ16才から15才あたりの心性を持つアドレッセンス中葉の男女に捧げる物語といってよい。
16才から15才の心性に戻ってこの作品を享受できるかどうか。それが肝心かなめの問題=課題であって、大人であるわれわれがこの作品とその理想的な観客層に心を通わせることができるかどうか。深層に潜む親和力を回復できるのか。相当に高いハードルが設定されていると思った。それが私のこの映画の捉え方であり基本的な視座です。
もし映画を純粋な贈与として捉え、その贈与を届けるべき対象に過たず届けたかといえば、その贈与対象は的を得ていた。贈与された中身もほぼ完璧と言っていいほどのものに仕上がっていると私は思います。日本のアニメはここまで進化した。作家新海誠はこの作品で世界を一歩リードした。それは反面として、世界をリードできるほどに日本の少年少女は観客として豊かな心性を獲得しているということも言えるかと思います。今の新海誠の中にある肯定的な要素は何か。それをそしてそれだけを私は取り出して評価してみました。
今を遡ること約二千五百年のその昔、エンペドクレスはこんな予言を行なっていました。聴いてみましょう、エンペドクレスは何と語ったのか?
大地に襲いきたって その息吹によって田畑を荒らすところの
つかれを知らぬ風のちからを 汝はしずめるであろう
そしてもしそれをのぞむならば 汝は風の息吹を仕返しに送り返すであろう
汝は人間たちのために くらい長雨を変じて
時期に適した旱魃(ひでり)となし さらにまた夏の旱魃を変じては
天空より降り落ちて樹々をはぐくむ水の流れとなすであろう
汝はハデスの国[冥府]から 亡き人の力を連れ戻すであろう
(藤沢令夫訳・エンペドクレス「自然について」『ギリシア思想家集』筑摩書房刊)
さて皆さん、一緒に世界の秘密を探究しましょう。世界の秘密、その答のカギを私なりに言うならば<明日は明日の風が吹く>です。今日の風ではなく明日の風。どんな風を明日吹かせるべきか、それを我々(=天気の子)が決める時代がやがてやってくる。要はそういうことです。
】霊告【 私はこれまで かって一度は少年であり 少女であった、薮であり 鳥であり 海に浮び出る物言わぬ魚であった・・・ エンペドクレス
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