ブログ版 渡辺松男研究 2014年9月
【夢解き師】『寒気氾濫』(1997年)67頁~
参加者:石井彩子、泉可奈、泉真帆、崎尾廣子、鈴木良明、
曽我亮子、渡部慧子、鹿取未放
レポーター:泉 真帆 司会と記録:鹿取 未放
158 亀鳴くと君は目を閉ずうつうつととじこめられているものは鳴け
(レポート)
「ああ、亀が鳴いている」と君は目を閉じる。閉じ込められて鬱々としているものたちよ声を上げよ。「亀鳴くと」をどう読めばよいのか迷った。〈亀が鳴けば〉なのか〈亀が鳴くと(君が)言って〉なのか。わたしは後者だと思った。三句以下は作者のメッセージだと受け取ったが、ではなぜ「亀」でなければならなかったのだろうかと疑問に思った。事典をひくと「亀」の【伝承・民俗】(中国)に目がとまった。「亀の担うもう一つの重要な神話的な役割は、大地の下にあって大地を支えることであった。馬王堆漢墓出土の帛画(はくが)にも見られるように、この大地の底には、水生の動物がいると考えられていたが、日本のナマズの伝承につながる大魚などのほか、亀の一類が地底にあって大地を支えていると考えられる場合もあった。」(世界大百科事典 六巻 平凡社)「大地の下にあって大地を支えること」という中国の伝承が「亀」をモチーフに使われた理由のひとつとも思えた。(真帆)
(意見)
★うちの亀はピーピーと変な鳴き方をしていました。(石井)
★俳句では「亀鳴く」というような季語があって、実際は鳴かないんだけどオスがメスを呼ぶとき
に鳴くような声を上げるといわれている。空気の出る音かもしれないけど。(鈴木)
★では何か恋に関係する。(鹿取)
★そういうニュアンス。それで君が出てくるのかなあ。(鈴木)
★でも、君は妻にしろ恋人にしろ、閉じこめられているのは亀ですよね。それとも君も亀と同じよ
うに閉じこめられているのかしら?押し込めているものを解放し、本能をむき出しにしなさいよ と。そうするとこれは非情にエロチックな歌なのかしら?(鹿取)
★俳句と同じように考えれば、そういった性的なものがあるのかもしれないですね。(鈴木)
★今の話だと「目を閉ず」がよく伝わってきますよね。(崎尾)
★「亀鳴く」は話の突破口で、下の句とはあんまり関係ないように思いました。君に思い切り泣き
なさいと呼びかけている、まあ、泣くだと字が違いますが。(慧子)
★こころを解放していいよと君に呼びかけているのね。(鹿取)
★「うつうつととじこめられているものは」だから、亀も君もその他の閉じこめられているものは
みんなってことでしょうか?(真帆)
★そうですね。そういう広がりのある歌なんですね。(鹿取)
(まとめ)
この歌には直接関係ないが、真帆さんのレポートの「大地を亀が支えている」という中国の伝承、東洋にもあったのかと思った。ホーキングが講演をした後、聴衆の老婦人が寄ってきて「あなたのお話しは面白かったけど、本当は地球を支えているのは無数の亀なのよ」と言う旨の発言をしたエピソードを読んだことがあるが、亀が大地を支える話は洋の東西にあるんですね。
ところで、歌集『蝶』の冒頭に「びめう」と題する亀が鳴く一連がある。こちらは、より生死の根源にかかわる思いのようだ。そして、生死の根源には当然性もかかわっている。(鹿取)
亀鳴くはきみにもぼくにもびめうにてそのびめう互(かたみ)にわかりてゐたり
あとかたもなきおもひなどかたいせつな雲のごと亀の鳴くを待ちをり
くらやみに亀鳴くはいかなかなしみか閻浮のそとゆ漏れてくるこゑ
亀鳴くを聴きとめてせんねんまんねんを耳にとどめてゐるのもかなし
鳴く亀は一世(ひとよ)のふしぎおもはせていつのまにわれ椅子に寝てゐし
【夢解き師】『寒気氾濫』(1997年)67頁~
参加者:石井彩子、泉可奈、泉真帆、崎尾廣子、鈴木良明、
曽我亮子、渡部慧子、鹿取未放
レポーター:泉 真帆 司会と記録:鹿取 未放
158 亀鳴くと君は目を閉ずうつうつととじこめられているものは鳴け
(レポート)
「ああ、亀が鳴いている」と君は目を閉じる。閉じ込められて鬱々としているものたちよ声を上げよ。「亀鳴くと」をどう読めばよいのか迷った。〈亀が鳴けば〉なのか〈亀が鳴くと(君が)言って〉なのか。わたしは後者だと思った。三句以下は作者のメッセージだと受け取ったが、ではなぜ「亀」でなければならなかったのだろうかと疑問に思った。事典をひくと「亀」の【伝承・民俗】(中国)に目がとまった。「亀の担うもう一つの重要な神話的な役割は、大地の下にあって大地を支えることであった。馬王堆漢墓出土の帛画(はくが)にも見られるように、この大地の底には、水生の動物がいると考えられていたが、日本のナマズの伝承につながる大魚などのほか、亀の一類が地底にあって大地を支えていると考えられる場合もあった。」(世界大百科事典 六巻 平凡社)「大地の下にあって大地を支えること」という中国の伝承が「亀」をモチーフに使われた理由のひとつとも思えた。(真帆)
(意見)
★うちの亀はピーピーと変な鳴き方をしていました。(石井)
★俳句では「亀鳴く」というような季語があって、実際は鳴かないんだけどオスがメスを呼ぶとき
に鳴くような声を上げるといわれている。空気の出る音かもしれないけど。(鈴木)
★では何か恋に関係する。(鹿取)
★そういうニュアンス。それで君が出てくるのかなあ。(鈴木)
★でも、君は妻にしろ恋人にしろ、閉じこめられているのは亀ですよね。それとも君も亀と同じよ
うに閉じこめられているのかしら?押し込めているものを解放し、本能をむき出しにしなさいよ と。そうするとこれは非情にエロチックな歌なのかしら?(鹿取)
★俳句と同じように考えれば、そういった性的なものがあるのかもしれないですね。(鈴木)
★今の話だと「目を閉ず」がよく伝わってきますよね。(崎尾)
★「亀鳴く」は話の突破口で、下の句とはあんまり関係ないように思いました。君に思い切り泣き
なさいと呼びかけている、まあ、泣くだと字が違いますが。(慧子)
★こころを解放していいよと君に呼びかけているのね。(鹿取)
★「うつうつととじこめられているものは」だから、亀も君もその他の閉じこめられているものは
みんなってことでしょうか?(真帆)
★そうですね。そういう広がりのある歌なんですね。(鹿取)
(まとめ)
この歌には直接関係ないが、真帆さんのレポートの「大地を亀が支えている」という中国の伝承、東洋にもあったのかと思った。ホーキングが講演をした後、聴衆の老婦人が寄ってきて「あなたのお話しは面白かったけど、本当は地球を支えているのは無数の亀なのよ」と言う旨の発言をしたエピソードを読んだことがあるが、亀が大地を支える話は洋の東西にあるんですね。
ところで、歌集『蝶』の冒頭に「びめう」と題する亀が鳴く一連がある。こちらは、より生死の根源にかかわる思いのようだ。そして、生死の根源には当然性もかかわっている。(鹿取)
亀鳴くはきみにもぼくにもびめうにてそのびめう互(かたみ)にわかりてゐたり
あとかたもなきおもひなどかたいせつな雲のごと亀の鳴くを待ちをり
くらやみに亀鳴くはいかなかなしみか閻浮のそとゆ漏れてくるこゑ
亀鳴くを聴きとめてせんねんまんねんを耳にとどめてゐるのもかなし
鳴く亀は一世(ひとよ)のふしぎおもはせていつのまにわれ椅子に寝てゐし